今から大凡十三四年以前、この町の一番の大通に、自分の家を所有っていたグロモフと云う、容貌の立派な、金満の官吏があって、家にはセルゲイ及びイワンと云う二人の息子もある。所が、長子のセルゲイは丁度大学の四年級になってから、急性の肺病に罹り死亡してしまう。これよりグロモフの家には、不幸が引続いて来てセルゲイの葬式の終んだ一週間目、父のグロモフは詐欺と、浪費との件を以て裁判に渡され、間もなく監獄の病院でチブスに罹って死亡してしまった。で、その家と総の什具とは、棄売に払われて、イワン、デミトリチとその母親とは遂に無一物の身となった。
 父の存命中には、イワン、デミトリチは大学修業の為にペテルブルグに住んで、月々六七十円ずつも仕送され、何不自由なく暮していたものが、忽にして生活は一変し、朝から晩まで、安値の報酬で学科を教授するとか、筆耕をするとかと、奔走をしたが、それでも食うや食わずの儚なき境涯。
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