お銀は、母親が帰って来ても、どうもならずにいた。出て行く支度までして、心細くなってまた考え直すこともあった。この新開町の入口の寺の迹だというところに、田舎の街道にでもありそうな松が、埃を被って立っていた。賑やかなところばかりにいたお銀は、夜その下を通るたびに、歩を迅める癖があったが、ある日暮れ方に、笹村に逐い出されるようにして、そこまで来て彷徨していたこともあった。しかしやはり帰って来ずにはいられなかった。
「失敗ったね。私阿母さんに来ないように一枚葉書を出しておけばよかった。」
 母親が帰って来そうな朝、お銀は六畳の寝床の上に蚊帳をはずしかけたまま、ぐッたり坐り込んで思案していた。部屋の隅には疲れたような蚊の鳴き声が聞えた。笹村もその傍に寝転んでいた。大判プリント 格安
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テーマ「人外ファンタジー」
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