磯谷と女との以前の関係も、笹村の心を唆る幻影の一つであった。そしてその時の話が出るたびに、いろいろの新しい事実が附け加えられて行った。
「……それがお前の幾歳の時だね。」
「私が十八で、先が二十四……。」
「それから何年間になる。」
「何年間と言ったところで、一緒にいたのは、ほんの時々ですよ。それに私はそのころまだ何にも知らなかったんですから。」
 笹村はお銀がそのころ、四ツ谷の方の親類の家から持って来た写真の入った函をひっくらかえして、そのうちからその男の撮影を見出そうとしたが、一枚もないらしかった。中にはお銀が十六、七の時分、伯母と一緒に写した写真などがあった。顎が括れて一癖ありそうな顔も体も不恰好に肥っていた。笹村はそれを高く持ちあげて笑い出した。
 母親から帰京の報知の葉書が来た。その葉書は、父親の手蹟であるらしかった。お銀はこれまであまり故郷のことを話さなかったが、父親に対してはあまりいい感情をもっていないようであった。川口 訪問歯科
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