母親が果物の罐詰などを持って、田舎から帰って来てからも、お銀は始終笹村の部屋へばかり入り込んでいた。笹村は女が自分を愛しているとも思わなかったし、自分も女に愛情があるとも思い得なかったが、身の周りの用事で女のしてくれることは、痒いところへ手の届くようであった。男の時々の心持は鋭敏に嗅ぎつけることも出来た。気象もきびきびした方で、不断調子のよい時は、よく駄洒落などを言って人を笑わせた。緊りのない肉づきのいい体、輪廓の素直さと品位とを闕いている、どこか崩れたような顔にも、心を惹きつけられるようなところがあった。笹村の頭には、結婚するつもりで近ごろ先方の写真だけ見たことのある女や、以前大阪で知っていた女などのことが、時々思い出されていたが、不意にどこからか舞い込んで来たこうした種類の女と、爛れ合ったような心持で暮していることを、さほど悔ゆべきこととも思わなかった。歯科医師国家試験 過去問
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