お島の姿を見たという人のあるのを頼りに、方々捜しあるいた末に、或松山へ登って行った浜屋と父親との目に、猟師に追詰められた兎か何ぞのように、山裾の谿川の岸の草原に跪坐んでいる、彼女の姿の発見されたのは、それから大分たってからであった。
 赤い山躑躅などの咲いた、その崖の下には、迅い水の瀬が、ごろごろ転がっている石や岩に砕けて、水沫を散しながら流れていた。危い丸木橋が両側の巌鼻に架渡されてあった。お島はどこか自分の死を想像させるような場所を覗いてみたいような、悪戯な誘惑に唆られて、そこへ降りて行ったのであったが、流れの音や、四下の静さが、次第に牾しいような彼女の心をなだめて行った。
 人の声がしたので、跳あがるように身を起したお島の目に、松の枝葉を分けながら、山を降りて来る二人の姿がふと映った。お島は可恥しさに体が慄然と立悚むようであった。
ヴォラーレ
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