長男を一番余計手にもかけて来たし、いろいろな場所へもつれて行った。珍らしい曲馬団が来たとか、世界的な鳥人が来たとか、曲芸に歌劇、時としてはまだ見せるのに早い歌舞伎劇をも見せた。ある年向島に水の出た時、貧民たちの窮状と、救護の現場を見せるつもりで、息のつまりそうな炎熱のなかを、暑苦しい洋服に制帽を冠った七八つの彼を引っ張って、到頭千住まで歩かせてしまった結果、子供はその晩から九度もの熱を出して、黒い煤のようなものを吐くようになった。
「それあ少し乱暴でしたね。」
 庸三は小児科の先生に嗤われたが、子供をあまりいろいろな場所へ連れ行くのはどうかと、人に警告されたこともあった。しかし後に銀ぶらや喫茶店や、音楽堂入りを、かえってこの子供から教わるようになったころには、彼も自分の教育方法が、全然盲目的な愛でしかなかったことに気がついて、しばしば子供の日常に神経を苛立たせなければならなかった。
桜上水 歯医者
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