投書は新聞や雑誌の活字を集めてつぎはぎしたものではない。それは、最初からこういう印刷をほどこされた本の一部であり、この詩の最終ページそのものだったのだ。
 「詩は完成したかね」
 市長が前を向いたまま、僕に尋ねる。笛の音はいつの間にかブラス・セクションに引き取られ、そのユニゾンが地球を七周半する軌道に入りかけている。
 「これは……、詩の一部なんですね」
 「古い詩だ。信じられないぐらい遠い昔に書かれた詩だ」
 ブラスの音が止んで、ピアノが鳴りだす。軽いジャズのように、単純なコード進行を軽快に行ったり来たりする。それに乗って、歌う男が歌いだす。まるで鼻唄をもて遊ぶような、ノンビリした歌いかただ。
 「この詩集を作ったのは、わたしの古い友人なのだ。
 当時、わたしらは〈首都〉にいた。わたしと、この詩人と。
 詩人は、本業は役所の建築士で、仕事の暇にこんな詩を作ったり、建つあてもない建物のスケッチを描いていた。その頃本業の方で、大きな鉄の橋を架ける工事の設計の下働きをしていて、それにはずいぶんと熱を上げていたようではある。
 わたしはといえば、独学で経済を勉強していた。あの頃は唯物主義が大はやりで、誰もそれに夢中になっていたものだったが、わたしはヘソ曲がりで、産業革命前後のイギリスにおける商品流通の変化と雇用の関係、それに伴う婚姻件数と人口増加の統計比較などを地道にやっていた。まあ、金にも話題にもならない、近代経済学以前の、当時からすでに忘れ去られていたような学問だ。
上尾の美容室 美容院
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -