三年続き
その電子音は、彼に絶望を知らせた。
「げっ……!?充電切れた!」
ケーキ屋から飛び出して携帯電話を握りしめ、富松作兵衛は途方に暮れていた。これでは要たちと連絡が取れない。
「合流ー!合流がー!」
がああっと叫びながらポケットと携帯電話を突っ込むと、いつぞやかの記念でもらったテレホンカードが出てくる。
これだ。
近くの公衆電話に飛びつき、慌てる手で受話器を取ってカードを入れる。そこで。要たちの携帯の番号なんて記憶していないことに気がついた。
「ですよね……」
ああああ俺の馬鹿!
なんで充電しなかった!
「お?お前は富松作兵衛じゃないか?」
「え?」
頭を抱えたまま振り返ると、華やかな出で立ちの4人が立っていた。ちかちかする目にひとまず軽く頭を下げる。
「あーどうも……皆さんお揃いで……」
「なにをしている。こんなところで」
滝夜叉丸が眉をひそめて、腕を組みながら公衆電話と作兵衛を見やる。
「そうか。彼女に振られたんだな可哀相に!可哀相だから、私の主催するパーティーに呼んでやろう!」
「いや……あの……」
「すごいんだよー滝夜叉丸くんのお家。Wiiがあるんだよー」
「タカ丸さんWiiに釣られてきたんですか……」
「ふん、僕は仕方なく行ってやるだけだ。こいつらだけだと大変だからな。僕がいなきゃ」
「ねぇねぇ作兵衛。要は?一緒じゃないの?」
首をかしげる綾部に作兵衛はあっと声をもらし、頬を掻きながら事情を説明した。
「はぁ?また左門が?」
「うちの三之助もか……」
片手を額に当てため息をついたのは、あの2人を後輩に持つ滝夜叉丸と三木ヱ門だ。
「それでみんなで探してるんだー。クリスマスにご苦労様だねぇ」
「僕らも手伝おうか」
「えっ!良いんですか!」
ちゃ、と携帯を取り出した綾部に作兵衛の表情がぱっと明るくなる。三木ヱ門と滝夜叉丸も頷いた。
「まぁうちの後輩だしな」
「仕方ない。みんなまとめてうちのパーティーに呼んでやろう」
「あ、もしもし要?僕も手伝うよ、ケーキ探し」
「(ケーキ優先!?)」
※※※
「ばっかやろ、だから豆腐は入れんな!買いに来たのは肉だろが!」
「ハチ!よく考えろ!豆腐も血となり肉となる!いいか、よく考えろ!」
「お前が考えろ!」
スーパーでぎゃあぎゃあ言い合うのは竹谷八左ヱ門と久々知兵助だった。竹谷は傍らにお惣菜のチキンを、久々知は木綿豆腐を持っている。
「みてみて!三袋で200円!安くない!安くない!」
「げっ……どれだけ持ってきたんだよ勘右衛門。胃がもたれる。これとこれは戻してこい」
「えー!!!」
「ジュースか炭酸か、あ、でもクリスマスだしシャンパン?うーん、うーん、」
「もう全部買っちゃえ雷蔵!俺も全部買っちゃお!」
「ばか、戻してこいって!………ん」
こちらも飲み物のコーナーで言い合う不破雷蔵、鉢屋三郎にカゴにめいっぱいにお菓子を詰めてきた尾浜勘右衛門。
ぴく、となにかに気がついたように顔を上げたのは、鉢屋三郎だった。
「うーんうーん。ん?三郎?どうかした?」
「……要がいる感じがする」
「は?」
「三郎?」
わけのわからないのことを言い出したかと思えば、いきなり走り出す鉢屋に雷蔵が虚をつかれ驚く。
「ち、ちょっと!三郎!?」
「あ、待って雷蔵!あー、あー、あ!すみませんこれ棚に戻しておいてもらえませんかすみません本当!」
カゴを近くの店員に押し付けて、鉢屋を追って行ってしまった雷蔵を勘右衛門も追いかける。
「雷蔵!待てって!」
その声にまだ言い合いをしていた久々知と竹谷が顔を上げた。
「あ?」
「えっあっ、どこ行くんだよお前ら!」
「緊急事態かな」
「ったく、行くぞ!」
※※※
「えっほんと!?うんうん、わかった!ありがとうね左近」
ぱちんと携帯を閉じて数馬がぱっと顔を輝かせた。
「左門と三之助、駅とは反対側の丘の上公園に走って行ったって!」
「あ、じゃあすみません綾部先輩。丘の上公園で合流でお願いします!」
「丘の上公園ってどこだよ?」
「前ジュンコと行ったな。たしかすっごいきつい階段が」
「「「嘘……」」」
※※※
「階段だ登れ三之助ー!」
「うおおおなんのこれしきぃいぃい!」
※※※
「えっちょっと三郎!要たちあの階段登っていくけど!?」
「行くぞ雷蔵!遅れるな!」
「一体なにがあったんだよ勘右衛門!」
「わかんない!」
「豆腐だけでも買ってくるんだったな……」
※※※
ずし、と足に鉛でも乗ったような感覚。あとで考えたら別に走って登る必要もなかったのだけど、僕たちはその階段を駆け上っていた。
「あと何段!?」
悲鳴のような数馬の声に、僕は「もうすぐ!」と大声を返す。荒い息遣いだけか絶え間なく僕たちを回り、そしてやっと、最後の一段を思いっきり踏み越した。
そこには。
まるで、クリスマスツリーの海のような。小さな小さな光の粒が、一面に敷き詰められて僕たちの視界を奪う。
「わ……」
思わず、僕は息を整えるのも忘れてその夜景に見とれた。
みんなが後ろで息を飲むのがわかり、僕ももう一度息を漏らす。
「すごい……ここってこんな高かったんだ……」
「まぁ、あれだけ階段登ればな。数馬、転んだとこ大丈夫か」
「すごいね孫兵!写真!写真撮ろう!」
「女子か」
目的も忘れてはしゃぎ出す僕らを連れ戻すように、あの2人の楽しげな声が僕たちを呼んだ。
「おーいみんなー!」
「ケーキ買ってきたぞー」
『ファースト・ワンダー!』
(走って走ってメリークリスマス!)
*オールキャラ出すはずが六年出す前に力尽きたで御座る。このあとみんなで合流して、滝宅で嵐のようなクリスマスパーティー
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