富松作兵衛
※クリスマスなのに風邪をひいてしまった作兵衛
「作兵衛は可愛いね」
「はぁ!?」
私が林檎の皮を剥きながらぽつりと呟くと、布団にくるまっていた作兵衛が起き上がってくるような勢いで叫んだ。
「あ、違った。作兵衛は格好いいね」
「な、な、な、馬鹿なこと言うな!」
ピピピ
「お。どれどれ」
電子音が聞こえて、失礼して作兵衛の服に手を突っ込むと「ぎゃー!」と声を上げて抵抗したが、中から上手く体温計を取り出す。
「38度……ね。まぁだいぶ良くなったんじゃない?」
「いきなり服にっ……」
「まぁまぁ。頭は痛む?」
「かなり。要のせいだ」
「あらら」
作兵衛の額に手を乗せれば、作兵衛は気持ちよさそうに目を細めた。
「作兵衛、はやくよくなるといいね」
よしよしと撫でて、なにか飲み物を取ってこようと立ち上がる。すると服をグッと鷲掴みにされた。思わず体制を崩してよろけてしまった。
「さ、作兵衛危ないよ」
「……帰んのか」
「え?」
「帰んなよ」
「……」
私は苦笑をこぼして、作兵衛の前に腰を下ろしてぎゅうと手を握った。
「帰らないよ。今日はここに居てあげるから、クリスマスだしね」
「……ん」
「なにか飲み物持ってきてあげるから。ついでにお腹に入れなきゃね」
「ん」
「……いや、作兵衛?」
立ち上がろうとする私に、作兵衛は腰に抱きついて頷く。いや、立てない。立てないから作兵衛。
「作兵衛、立てないよ」
「ん」
「ん、じゃなくて。作兵衛?さーくべ?」
わしゃわしゃと髪をいじくり回せば、くすぐったいのか身じろぎする。
「止め……」
「離してって作兵衛。すぐ戻ってくるから」
「頭いたい……要…」
「ん?」
「死ぬ……」
「大袈裟な」
くすくす笑って作兵衛を優しく撫でる。急に作兵衛が甘えたさんになってしまった。
「よしよし作兵衛。はやく治してみんなで遊びに行こう。ね?」
「んー……みんな……?」
作兵衛は少しムスッとした表情をして、さらに腰に抱きつく腕に力を込める。
「いい、ずっと、こうしてっから……」
「作兵衛?」
「俺、だけ、でい……ん…」
すぅすぅと柔らかな寝息。私はため息と苦笑をこぼして作兵衛を布団に寝かせた。
「おやすみ作兵衛」
『眠る前のおとぎ話』
(目が覚めて握られた手に心臓が止まる)
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