雑渡昆奈門
ピンポーン
というインターホンにバイトで疲れた体に鞭打ち立ち上がる。暖房がようやく回ってきて、お風呂でも入ろうかと思っていたのに。全くなんだってんだ。
「はーい、どちら様ですか?」
一応、女の一人暮らしなので用心して問いかけると予想もしない聞き覚えのある声が聞こえた。
「サンタさんですー」
「えっ。……あ、叔父さん?」
慌ててドアを開けると、ほんのりと頬の赤い叔父さんが手をひらひら振りながら立っていた。スーツ姿でマフラーも巻かず、コートを脇に抱えている。
「久し振りー要ちゃん」
「お久しぶりですけど……どうしたんですか?入ってください、さむいのに」
「あーどうもー」
「外も雪なのに……あーちょっと待ってください。今タオル」
コートを預かってパッパッと肩の雪を払ってやれば、叔父さんは久し振りにゆるゆると私の頭をなでる。昔からの叔父さんの癖で、かなり身長の高い叔父さんからはお酒の香りがした。
「呑んでたんですか?」
「うん。部下が彼女に捨てられてねー慰めクリスマスディナー」
「うわぁ……」
「要ちゃんはクリスマスなのにバイトかな?」
「えっ……なんで知ってるんですかっ」
「見てたもん」
クスクスと笑いながら、やはりゆるゆる頭を撫でる。
「見てたよ、要ちゃん頑張ってたねぇ」
「見ないでくださいよ……どうせ寂しいやつですよ私は」
「良いんだよそれで」
「ええー良くないですよ」
「良いの」
叔父さんがゴロゴロと猫のように甘えてきた。お酒が入るといつもこうだ。お酒のにおいがする叔父さんは色っぽくて困る。
「要ちゃんには、私がいるから良いでしょ?」
「お、叔父さん?酔ってます?」
「酔ってないよー」
私の首にすり寄る叔父さんはどうやらかなり酔っていらっしゃるらしい。諦めてされるがままになりながら、叔父さんの背中を軽くたたく。
「酔ってる人はみんな酔ってないって言うんですよ。送って行きますから、行きますよ」
「嫌」
腰に回る手が強くなるたび、強いお酒の香りが頭を回ってくらくらする。あれ?あれれ。
「お、おじさ……?」
「酔っ払いのやることだから、許してよ」
「えっ…やっ」
「あと、そうだな」
左耳から毒薬でも流し込まれているような感覚。叔父さんの甘いお酒の香りとクリスマスの雰囲気に押し流されて、私は抵抗していた両腕の力を失う。
「クリスマスだし、許して」
『ニコラスはおちゃめ』
(仕方ないよね、許してよ)
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