カラクリコンビ
街に散りばめられた宝石のような光の粒。赤や青や黄色や緑。光の粒はもみの木に回り、てっぺんに星が輝いたらクリスマスツリーになる。
楽しそうな声があちこちで弾けて、走っていったりぐるぐる回ったり優しく囁いたり。そして絶妙のタイミングで、雪が降る。
「ほー…それがホワイトクリスマス」
「要なに読んでるの?」
「絵本!すごい、綺麗。兵ちゃんも読む?」
「読みません。ケーキ、全部食べちゃうよ」
私たちは放課後の教室でコンビニのケーキをつついていた。私がぺらぺらページをめくっている間に、もう半分も食べられている。
あー!と声を上げると三治郎が苦笑しながら、ケーキの刺さったプラスチックのケーキを差し出してくれた。
「はい、どーぞ」
「ありがとー三治郎。あーん」
「あ、要の紅茶飲んで良い?もう飲んでるけど」
「えっ。あーもーいいよ。はい三ちゃんもあーん」
「あーん」
ぱくっとショートケーキを口に入れてやれば、三治郎の表情が幸せそうに綻んだ。
「あ、ちょっ……いちゃつくな!」
「美味しいかね?三ちゃんや」
「うん!はい兵ちゃんあーん」
「……あーん」
ケーキを回し食べしながら、私はまたさっきの絵本をぺらぺらめくる。三治郎がくすくす笑いながら口を開いた。
「好き?その絵本」
「うん。挿し絵がね、すごい綺麗だよ」
「ホワイトクリスマス?」
兵太夫がプラスチックのフォークをくわえながら、本の題名を読み上げる。私はうんうんと頷いた。
「クリスマスに雪が降るの。良いよね、一度みてみたい」
「こっちほとんど雪降らないからな、難しいだろ」
「僕もホワイトクリスマスしたことないなぁ」
ぺらぺらとページをめくりながら、私は「そうだよねぇ」とため息をついた。
「難しいよね……」
「「……」」
私はパタンと本を閉じて、立ち上がろと腰を浮かせた。その刹那、ぱしりと本を閉じた手を兵太夫が掴む。
「え……?」
「見せてやろうか。ホワイトクリスマス」
「は?」
「おっけー!そうと決まったら準備しなきゃね!要悪いけど、ケーキ片付けといて!兵ちゃん行こ!」
三治郎がコートを掴んで教室から飛び出す。ちゃっかり私の紅茶を持って行きやがった。
「えっ!えっ!ちょっと!?」
「連絡を待て」
ぺち、と両手で頬をはさまれ、呆けている間に兵太夫がサッとショートケーキの苺を摘んで走り去って行った。
「なんなの……?」
※※※
「屋上?えっ本文が屋上だけなんだけど、えっ」
どうすりゃ良いんだ。
あれから何十分か経ち、なんだよ放置かよーとぶすくれているところに兵太夫からの意味の分からないメール。
「屋上に上がって来いって?」
そうとしか取れないよね?
ケーキの空箱が入ったビニール袋をゴミ箱に捨てて、コートを羽織る。がらりと扉を開ければひんやりとした空気が体に触り、私は身を縮めて廊下を歩き出した。
「さむ……」
屋上ってそもそも開いてるんだっけ?階段を上りながら首をひねるが、まぁあの2人のことだからなんとかするんだろう。
屋上に近づくにつれ、私はなにか音が聞こえてくることに気がついた。
「なに?」
ゴゥンゴゥンとなんの音か判断できない。屋上への扉をそっと開けると、そのゴゥンゴゥンという音は頭上から聞こえてきた。
「遅い!凍え死ぬだろ!」
「うわっ。兵太夫?どこ?」
「上だよー」
三治郎の言葉に上を見上げれば、2人はなにか大きな加湿器のようなものを挟んで並んで立っていた。
「わ、わ、なにしてるの」
「要は上がってくるなよー。下にいるのが一番綺麗なんだ」
「綺麗?」
「ライトつけるよー」
がちゃん!と音がして屋上が明るく照らされる。兵太夫は加湿器のような機械の前にしゃがみこんで、脇についたホースを取り外した。
「よーし行くぞ!三治郎後ろ支えて!」
「おっけー!」
「「せーのっ」」
その瞬間。
ドドドッという音がホースから噴射された。驚いて目を閉じて身を縮める。
「なに……?」
ぱちん
耳元でなにかが小さく弾け飛んで、私は目を開けた。
そして、息を飲む。
なんて
「綺麗……!」
ホースから水のように大量に噴射されているのは、シャボン玉だった。
ライトを受け、きらきらと七色に光るシャボン玉はまるで流星群のように私に優しく降り注ぐ。思わず、手にシャボン玉をつかんで微笑んだ。
「すごいすごい!2人が作ったのこれ!?」
「今話しかけないで!」
「えっ」
見れば兵太夫は必死の形相でホースを握り、天に向けて固定している。三治郎が兵太夫の背中を支えながら、笑った。
「ごめんね要!これ綺麗なのは良いんだけど、ホースから出る威力が強くてさー!」
「えっえっ私も手伝おうか!?」
「いいから見ろって!お前のためにやってるんだから!」
「で、でも」
「いい!」
「あーもう!手伝う!手伝うからみんなで見よう!」
屋上に散りばめられた宝石のような光の粒。赤や青や黄色や緑。七色の光の粒は私たちを回り、てっぺんに星が輝いたらクリスマスツリーになる。
楽しそうな声が私たちのあちこちで弾けて、走っていったりぐるぐる回ったり。
そして絶妙のタイミングで、雪が降る。
『ホワイトキャロル』
(七色のホワイトクリスマス)
[ 7/8 ]