時友四郎兵衛




例えば、
例えば僕がサンタクロースなら。


僕は、僕は、


「メリークリスマス!要ちゃん!」


「あれ、しろちゃん」


今日はいつもより早起きが出来た。パジャマ姿に起きたばっかりでぼへぼへの髪だけど、仕方ない。僕の姿を見て、いつも僕の面倒をみてくれる要ちゃんは優しく微笑む。


「おはよう、しろちゃん。今日はいつもより早いのね」


「く、クリスマスだから」


「ふふ、そっか。でもねしろちゃん、クリスマスは明日よ。今日はクリスマスイブ」


「あ、そっか」


「今ご飯作ってるから待っててね。今日は体育委員会があるんでしょ?お弁当も作るから」


「うん!」


くるりと方向転換したところで、僕ははた、と気がつく。違う違う!早起きしたのは要ちゃんのお手伝いをするためだ!


「要ちゃん!」


「あ、しろちゃん。ジャムどうする?イチゴとマーマレードがあるよ」


「え、あ、イチゴ!」


「じゃあはい。トーストはもう出来てるから先食べちゃって良いよー」


「うん!」


くるりと方向転換して、テーブルにトーストとジャムの瓶を置く。焼きたてのトーストにイチゴジャムをめいっぱい塗って、頬張った。


「おいしいー」


「良かった。はい目玉焼き」


「うん!……あれ」


「どうかした?」


「ううん……?なんでも」


「?」


「あ、要ちゃん!」


トーストを置いて僕は身を乗り出す。


「今日、ケーキ食べようね!」


「うん、良いよ。しろちゃんなにケーキが好き?」


「チョ……」


違う違う!要ちゃんが好きなケーキ!今日は要ちゃんが好きなケーキを食べるんだ!


「、あ、要ちゃんが好きなケーキが良いな」


「え?私が好きなケーキ?」


「うん!」


よしよし。今年のクリスマスは要ちゃんが好きなことをするクリスマスにするんだ。


いつもありがとうって、テレビみたいに要ちゃんにサプライズするんだ。


「そうだなー……私はチョコレートケーキが好きかな」


「ほんと!?」


思わず顔が輝く。
要ちゃんはくすくす笑って頷いた。


「うん。私はチョコレートケーキが好きだよ」


よし、頑張って委員会をはやく終わらせてケーキを買ってお部屋を片付けして、料理は僕じゃ出来ないけどケーキはやっぱり僕が!


「わかった!僕、委員会行ってきます!」


目玉焼きとケーキを頬張って、僕は傍らに置いていた鞄にお弁当を入れて肩かけると慌ただしく立ち上がる。


「え?もう?あ、しろちゃん、私、今日は6時半に来るからね!」


「わかった!行ってきます!」



※※※



「いけいけどんどーん!」


「いけいけどんどーん!」


その元気な声は学校裏の山に大きく木霊していた。先頭を走っていた七松小平太は楽しげに後ろを振り向く。


「なんだ四郎兵衛!今日は元気だな!良いことだ!」


「はい!」


「よーし、なら今日はもう四周追加だ!いくぞ!」


でええええっという声が後ろの先輩たちと重なる。ち、ちょっと!ちょっと待って!要ちゃんとのクリスマスパーティーに間に合わない!



※※※


平日の夜と土日に私はお隣の時友四郎兵衛くんの面倒をみている。しろちゃんのご両親は仕事人間で、なかなかお家に帰ってこれないので私がしろちゃんのご飯を作ったりするのだ。


その日もアルバイトを終え、しろちゃんのお家に向かう。


「お邪魔します。しろちゃん?帰ってるー?ケーキ買いに行こう?」


いつもはパタパタとしろちゃんが出迎えてくれる……のに?あれ?それよか、廊下は真っ暗だ。


どうしたんだろう。
お部屋で宿題してるのかな。


「しろちゃん?しろちゃーん?」


名前を呼びながら、ぱちんとリビングの電気をつけた私の目に飛び込んできたのは


「わぁ……すごい」


どたばたとあちこちにゴミ袋。掃除機やクッションが放り投げられ、ぐちゃぐちゃと散乱している。


そして、しろちゃんはリビングのソファで折り紙にまみれながら眠っていた。


「しろちゃん、しろちゃん起きて。しろちゃん?」


「んー………………要ちゃん?」


「おはようしろちゃん。一体なにがあったのかな?」


私の言葉にしろちゃんは、はっと目を開け慌てて体を起こした。周りを見回して真っ青な表情で私を見る。


「要ちゃ……間に合わな…っ……うわああああっ」


「えっ!し、しろちゃん!?」


ぶんぶんと首を振って火がついたように泣き出すしろちゃんに、私はなにが起きたのかわからずオロオロとしろちゃんの背中をさする。


「っえ……ぅうう……」


「どうしたのしろちゃん。怒らないから、ゆっくり話して?」


「っ……要ちゃ、…っ驚かせよ…と……っえく、」


「私?」


「お掃除、して、…ケーキ、買っえ……きたの、に……ぼく、ねちゃ……ん……」


ぼろぼろと大粒の涙をこぼすしろちゃんに、私は思わず笑ってしまった。


「?、要ちゃ、?」


「ありがとうしろちゃん。嬉しいよ」


「でもっ……しっぱい…」


「ううん、私すごく嬉しいしびっくりしたよ。だから大成功だよ、しろちゃん」


「うええええっ」


咳が切れたようにしろちゃんが私に抱きついた。それを抱きしめて、よしよしと背中をさする。


「ありがとうしろちゃん」



『例えば僕がサンタなら』
(あなたを世界一、幸せにします)

[ 6/8 ]




「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -