尾浜勘右衛門


メリメリ
メリークリスマス


皆さんに幸せ届けましょう。クリスマスケーキに乗せて。幸せと愛を届けましょう。


「はい、当店クリスマス限定ケーキのチョコですね。ありがとうございました」


メリークリスマス皆さん。はやくケーキ全部受け取りに来てください。


「はぁ……あとちょいかな」


限定ケーキの受け取りリストを見て、私は再度ため息をつく。バイト終わったらどうしよう。ご飯たべなくて良いかなぁ。


「要ちゃん」


「えっあ、勘ちゃん」


「どうしたの?ボーっとして」


ひょこっと顔を出したのは私とは違うレジで対応していた同じバイト生の勘ちゃんだ。


「あー後ちょっとだなって。勘ちゃんは?」


「うん、俺ちょっとトイレ行って来るから売り場お願いできる?」


「いいよ。行ってらっしゃい」


ひらひらと手を振って見送る。不思議な前髪をぴょこぴょこさせながら、勘ちゃんがお店の奥に消えていった。


「よし、あと少し」


「あのー」


「あ、はい」


お客さんだ。ぱっと表情を業務用に切り替えて対応する。見れば柄の悪い高校生が5人。そのうち2人は女の子だ。リア充め。


「いらっしゃいませ」


「うわっこのチョコのやつ超うまそーじゃね。ていうかこの二種類だけ桁違いにうまそー」


「ここはクリームでしょー」


2人の男の子がわいわい話すのを、上機嫌で先頭の男の子が制する。


「ばっかどっちも買えばいんだよ。あ、これどっちも。おい、割り勘な」


「あっ…」


表とここの貼り紙読まなかったのか。


「申し訳ありません、こちらは事前電話予約限定のクリスマスケーキでして」


「はぁ?」


先頭の高校生が露骨に顔を歪めた。うわ、と思いながらも頭わ下げる。


「すみません。あちらのショーケースのケーキを……」


「えーこのケーキが良いよねー」


「超美味しそうだもんー」


女の子たちの声を受けて、先頭の男の子は財布を持ち上げて私を睨みつけた。


「金払うからさ、どうせ余りあんだろ?」


「申し訳ありません。予約の無い方にはお売り出来ないんです」


あ、馬鹿わたし。と思いながらも退けない。


そのうち苛立ったように後ろからもう1人男の子が口を挟んだ。

「金出すって言ってんだからさーお姉さん。融通きかせてよ」


「大変申し訳ありません。あちらのケーキをお求めください」


「良いじゃん、余ってんじゃないそこの箱そうなんでしょ?」


「こちらは予約いただいている方の物なんです」


「それを売れって言ってんのよ!」


女の子2人まで声を荒げ始めた。視界の端でお客さんたちがざわめき始める。


駄目だお店に迷惑をかけてしまう。でも、でも、!


「お客さま」


暖かい安心する、でも凛と張る声に私は驚いて顔を上げた。


「勘ちゃん……」


「お客さま、これは営業妨害ですか?」


「はぁ?なんだよ」


「こちらのケーキは前に電話を掛けないと買えないんですー。わかります?理解してます?」


「っお前、俺らは客だろうが!嘗めた真似……」


「お客さまは神様ですが、君たちはただの迷惑な人なのでこちらには追い出す権利があるんですよ」


ちゃ、と携帯電話を取り出す勘ちゃんに、男の子たちは息を飲んだ。


「悪い子はお巡りさんに捕まえてもらわないとね」



※※※



「はい、要ちゃん」


「あ、ありがとう」


バイト生のロッカールームのパイプ椅子に腰掛け、私は勘ちゃんからカフェオレを受け取って息をついた。


「しっかし笑っちゃったねー。拍手するんだもんお客さんたち」


「うん……良かった、大人しく帰ってくれて」


「要ちゃん?ああいうときは店長を呼ぶの!真っ向から相手してるんだから、びっくりしたよ」


「だって……」


退きたくなかった。


「みんな限定ケーキ楽しみして電話予約してくれてるのに、あの子たちはズルいでしょ。退けなかったの」


カフェオレを一口含み、勘ちゃんを見上げて苦笑する。


「かなり怖かったけどねー。年下なのに情けないなぁ」


「そんなことないよ」


なでこなでこと勘ちゃんが私の頭を優しく撫でる。優しい声に反感は起きなかったので、照れ笑いを浮かべた。


「かっこよかったよ、要ちゃん」


「震えてたけどね」


「そんなことない」


勘ちゃんは私を撫でながら口から零れ落ちるように笑う。


「やっぱり俺、要ちゃん好きだなぁ」


「……え?」


「良い子だった要ちゃんにはプレゼントあげなきゃね」


わしゃわしゃと髪を探って、勘ちゃんは私にそっと顔を近づける。


「好きだよ、要ちゃん。キスしてもい?」


「………どうぞ」




『ミンスパイの構成要素』
(たぶんほとんどカフェオレの味)

[ 5/8 ]




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