三年全員

「えっ左門と三之助がケーキ持って行方不明になった!?」


クリスマスだし藤内の家で(一番広い)ケーキでも食べようと集まったのに、肝心のケーキを持った迷子2人が消えてしまった。


「作兵衛は?」


「会計してたらいなくなってたって……」


携帯電話を耳に当てながら孫兵に言えば、藤内が片手を額に当てため息をつく。


「あの2人……」


「ねぇ探しに行った方が良いんじゃない?いま街のなかガラ悪い人も結構いるよ」


心配そうな表情を浮かべた数馬に頷いて僕らは上着を羽織った。


※※※




「あーっ要先輩要先輩っ」


「あれ!」


商店街を歩いていると、見知った顔に呼び止められて僕は目を見開いた。


「皆さんもお揃いで!」


「きり丸!なにしてるの、こんなとこで」


「ケーキ売りのバイトっすよー。急遽入っちゃって」


わらわらとみんなできり丸を囲む。サンタ服を着たきり丸は、ケーキの箱らしきものを持ってケーキどうすっかと薦めてくれた。それに眉を下げたのは数馬でキョロキョロと辺りを見回す。


「大変だなぁ。乱太郎としんべヱは?」


「まぁ慣れてますから。急遽だったんで、みんなで集まってたとこから抜け出してきたんス」


へへ、と笑うきり丸に僕は眉を下げた。少し考えて、口を開こうとした瞬間


「きーりちゃーん」


「きりまるーっ」


ばたばたと足音がしたかと思えば、向こうから見知った顔が集団で走ってくる。


「えっみんな」


「やー良かった見つかって」


「乱太郎がマンホールに落ちそうになってさー」


「言わないでよ!」


乱太郎としんべヱがきり丸な笑いかけ、その後ろからもばたばたと走り寄ってくる一年は組のみんな。


「喜三太!マフラー巻けてない!引っ掛けるぞ!」


「はにゃあー…ありがとー金吾ー…きり丸手伝いにきたよー」


「さむいさむいさむいさむい信じらんない!さっさと売って買えるからね!」


「寒がりだなぁ兵太夫は、ほら俺のマフラーも巻け」


先頭をぱたぱた歩いてきた喜三太と金吾が、きり丸の持っていたケーキの箱を取る。ぶるぶる震えながらやってきた兵太夫に団蔵が無理やりマフラーを巻きつけた。


「ね、虎若。僕なら女物のサンタ服でも似合うと思うわない?」


「あーかもな。寒いからやめとけよ三治郎」


「あれ、皆さんお揃いでどうしたんですか?こんばんは」


「庄ちゃんたら冷静ね」


遅れてやってきた三治郎と虎若。庄左ヱ門はしっかりと僕たちに礼をして、伊助が苦笑した。


「みんな、なんで」


「良いからさっさと売っちゃおう、きりちゃん」


乱太郎が微笑んで、僕は孫兵に腕を引かれた。


「ここは大丈夫だ、お節介は止めていくぞ要」


「うん。じゃあねきり丸」


「へへ……はい!」


「頑張ってね乱太郎」


「あ、すみません三反田先輩!ありがとうございます!」


「しんべヱもな」


「はーい!浦風先輩も!」


ぱたぱた大きく手を振る三人から離れ、僕たちは走り出した。


※※※



「はっしれソリよー!僕のごっとくー!」


「リア充を轢いてしまえ!クッリスマッスー!へい!」


ばたばたと騒がしい音と共に、めちゃくちゃな歌詞。びっくりして足を止めると、向こうもこちらに気がついて足を止めた。


「あーしろじゃん!」


「つ、次屋先輩!」


嬉しそうにこちらに近づいてくる自分の委員会の先輩に、時友四郎兵衛はぱちくりと目を瞬かせた。


「おお!能勢久作!」


「げ……神崎左門先輩……」


「しーろーしーろー」


「わぁあんっやめてくださいー!帽子がずれちゃうぅ」


「やめてやってください、次屋先輩」


「川西に池田も。みんなで遊んでんの?」


「ええまぁ、これからケーキ買いに行くところです」


三郎次が答えると三之助は「おっ」と自分の小脇に抱えていたケーキの箱を自慢げに四郎兵衛に見せた。


「俺らもうケーキ買ってきたんだー。良いだろしろべー」


「ケーキ持ってあんなバタバタ走ってたんですかぁ…?」


帽子を直しながら四郎兵衛が言うと、久作の腕をぶんぶん降って左門が「歌うたいながらな!」と楽しそうに頷いた。


「というか次屋先輩、神崎先輩。富松先輩はどうしました?」


訝しげに尋ねる左近に2人はぴたっと止まって、首をかしげる。


「あれ?そーいえば作兵衛は左門?」


「ケーキのお金払ってたぞ!」


「そーか。だってよ川西」


「いやだってよじゃないですよ。勝手にケーキ屋飛び出して来たんですか!」


「下手すると強盗ですよお2人とも……あと神崎先輩もう手離してください」


「なんだよ冷たいぞ能勢!」


ぷりぷり怒り出す左門とそーだそーだと悪ノリ始める三之助を尻目に、左近は携帯電話を取り出して四郎兵衛と三郎次を見やる。


「三反田先輩に連絡した方が良いよな?」


「うん。きっと探してるよっ」


「なにやってんだよ富松」


「あ、2人とも今三反田先輩に連絡取りますからそれまで……」


携帯電話を耳に当てて、左近が振り向くと迷子に絡まれ生気を抜かれた久作だけがぽつりと座っていた。その向こうを迷子2人がバタバタ走っていく。


「……え」


「おい久作っ!なにやってんだよ2人は!?」


「要先輩がサンタガール要先輩がサンタガール……うわああああ」


「どどどどどうしたの!?久作!?久作!?」


真っ赤な顔で取り乱す久作を慌てて取り押さえる三郎次と四郎兵衛を眺めながら、左近は繋がった電話に苦笑をこぼしながら唇を開く。


「あ、もしもし三反田先輩?今、次屋先輩と神崎先輩を見かけました。ええ、逃がしてしまいましたけど、駅とは反対の丘の上の公園の方向に行きましたよ」




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