激憤を放つ

ようやく部屋について荷を置く。長屋の部屋はたいてい二人部屋らしいのだが、数が合わないという理由で俺は布団が一組だけある部屋に通された。


「………つかれた」


何故かスムーズに案内をされなかった。主に善法寺が足を取られたり下級生がついてきたり善法寺が滑って縁側の外へ飛び出し穴に落ちたり、善法寺が、善法寺が、


「ぜっんぶ善法寺のせいじゃねぇか……!」


あの野郎。
やり場のない怒りをひとまずため息に込め、荷を解く。この学園の制服に着替えよう。


自分の荷を解きながら、静かな部屋で思考に落ちる。


「もう、自分で食事を作らなくて良いのか」


それは便利かもしれない。
風呂炊きやら給仕やら薪割りやらが当番制だと聞いたが、今までの生活は出来ないだろう。


それと


「………子供が多い」


先ほどの医務室にも何人もいたが、案内の間にも何人か見かけた。きゃっきゃっとはしゃぎながら走り去っていく子供をみて俺はなんとなく目眩がした。


子供というのは、理屈が通じない。たしかに自分にも子供だった時代があったが、思い出したくもない記憶だ。


「ま、関わらなければいいか」


そうだ。俺がここにきたのは就職のためなんだから。なにも子供と仲良くする必要はないだろう。


どうせ、一年間だけだ。


「……」


荷を整理していた手を、ふと止めて意識を探る。


気配。
気配だ。生きている人間の窺うような息遣い。


「なにか用か」


低く、声を出す。
相手からは殺気を感じない。大方、俺が編入生だから様子を見にきたというところだろう。


「ほう、気がついていたか」


凛となる男の声。
天井から現れたのは善法寺と同じ緑色の忍服を着た、綺麗な男だった。


「ふむ、失礼した。私は立花仙蔵という。君と同じ六年のい組だ」


「……天城伊吹だ」


「伊吹か、良い名だな」


ゆるりと微笑む立花に俺は「どうも」と頭を軽く下げる。


「それで、なんの用だ」


「なに、六年に編入生がくると聞いて少し興味があっただけだ」


「興味?」


「ああ、それと少し……なに、忠告というか、注意というか」


立花が顔をしかめ腕を組み、苦笑を零しながら口を開いた瞬間だった。


「いっけいけどんどーん!!!!!!」


と声と共に、閉まっていた障子がドパンッと弾け飛ぶ。文字通り、弾け飛んだ。立花がサッと屋根裏に逃げ出したのを視界に捕らえつつ、飛んできた障子を受け止める。


「っなんだ!?」


カッとなって叫べば、障子をぶっ飛ばした男はきらきらと輝いた表情で笑い出した。


「あっはっはっ!よう!はじめましてだな編入生!私は六年ろ組……」


「てめえ!!!」


名乗ろうとしていたらしい男の言葉を無理やり遮り、怒鳴りつける。男はキョトンとした表情で首をひねった。


「なんだ?」


「ざけんな!どうしてくれる!この障子!」


「え?」


「意味がわかんねぇっつってんだよ!障子をぶっ飛ばす必要がどこにある!」


「えーっと、ごめん?」


「謝って済む問題じゃねぇだろうが!!」


「ああ、少し遅かったようだな、伊吹」


すとん、と逃げ出した立花がまた畳に降り立った。飄々とした態度に俺は立花に噛みつく。


「……お前知ってたのか」


「いや。ただこうなるだろうな、と予想はしていた。だから忠告というか注意にきたと今言おうとしていたところだ」


「遅せぇよ……くそ、どうすんだこれ……」


「まーまー怒るなよ!」


「誰のせいだと思ってやがる!」


ボロボロの障子を前に途方にくれる俺に憐れみの視線を向ける立花と、おそらく反省していない無礼男。


「そうだ!忘れてた!私は七松小平太というんだ編入生!よろしくな!」


「うるせぇ失せろ」


「なんだよー怒るなよーなぁなぁ、編入生の名前は?」


「…………伊吹だ、無礼男」


「私は無礼男じゃないぞ!七松小平太だ!」


「知るか、お前なんか無礼男で十分だ」


つんつんとつついてくる鬱陶しい七松の手を払って睨みつける。七松は眉をさげて壁に寄りかかりながらにやにやと様子を見ている立花に声をかけた。


「なぁなぁ仙蔵ーもしかして私嫌われたのかな?」


「っく……いや、照れ隠しかもしれないぞ小平太」


「!そっか!伊吹は照れ屋なのか!」


「良いから障子を直していけ」


頬をひきつらせながら障子を押しつけると七松は顔をしかめて「やり方がわからん」と首をひねりやがる。


「おいてめえ……」


「伊吹ー!食堂に誘いにきたよ……って、えええ!?なに!?し、障子が」


「おお伊作、遅かったな」


「せ、仙蔵?なんで伊吹の部屋の障子がぶっ壊れてるの?」


「まぁ、いろいろとな」


「いいか七松。俺はな、お前が大嫌いだ」


「えっ!なんで!」


「うるせぇ理由は自分で考えろ」


長、なぜあんたが俺をここにやったのか、詳しく教えろ。今すぐに。今すぐに!






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