困惑と子供



「天城伊吹と申します」


「ふむ。天城殿の弟子だな。話はよく天城殿から聞いていた」


忍術学園の学園長は柔らかく微笑んで俺の頭を上げさせた。


「天城殿たっての願いだ。聞き入れよう。伊吹くん、一年間、しっかりと学びなさい」


「ありがとうございます」


「ふむ、しかし伊吹くんは背が高いのう」


「はぁ、どうも」


からからと笑う学園長になにがおかしいのかと首をひねる。やがて後ろの障子に気配が近づいた。


「善法寺伊作、参りました」


「おお、入りなさい」


現れたのは緑色の忍服を着た俺と歳の変わらなそうな男だった。


「伊吹くん、彼は君の編入する六年生の善法寺伊作くんだ。伊作、彼を空いている六年長屋に案内してあげなさい」


「はい」


「ありがとうございました」


「うむ」


もう一度頭を下げて障子を閉じた。小さく息をつく。忍術学園の学園長と聞くから、どんな人かと思ったが。


「(雰囲気が少しだけ、長に似ているな)」


「ねぇ」


声をかけられ立ち上がって振り向く。俺が編入する六年生だというこの男は、忍者というよりはいささか優しそうに見えた。


ま、偏見か。


「僕は六年は組の善法寺伊作というんだ、よろしくね」


「伊吹だ。天城伊吹」


手を差し伸べられたので取って軽く振る。善法寺は人懐っこい笑顔を浮かべて「伊吹か、良い名前だね」と歩き出した。


「じゃあ長屋まで案内するよ。そのついでにいろいろ説明するから」


「手間をかける」


「気にしないで。これから一緒に学ぶ仲間なんだから」


仲間?
なんだ、そりゃ。


眉をひそめたが善法寺はあれこれ指差しながら建物の説明をする。


「とりあえずは大まかに説明するよ。ここを真っ直ぐ行ったら食堂。食堂のおばちゃんの料理は一度食べたら忘れられないくらい美味しいから、楽しみにして」


「……ああ」


「ああ、でもお残しをするとそれはもうすっごい怒られるから気をつけてね。あ、ここは医務室」


医務室と札が掛けられた障子を前に立ち止まって、善法寺が障子を開けると中には違う色の忍服を着た少年たちがなにやら忙しそうに動いていた。


「あ!伊作先輩!」


「やぁ乱太郎、みんなも。揃ってどうしたんだい?今日は全員で委員会活動の日じゃないよね?」


「あー伏木蔵が薬箪笥をひっくり返しちゃってー」


「すみませんん……」


「みんなで片付けてたわけだね。あ、伊吹。丁度良いから説明するよ」


「え、」


蚊帳の外で自分で長屋を探した方がはやいんじゃないかと考えていた俺の思考が、ぱっと現実に戻る。


「ここでは忍服の色によって学年が分けられてるんだ。乱太郎、伏木蔵」


はーいと一番小さな少年二人が手を上げる。水色の模様の入った忍服を着ていた。


「この子たちは一年生。一番下の学年の子たちだよ。左近」


「はい」


「この子は二年生。青色の忍服。数馬」


「はいっ」


「若草色は三年生。ちなみに四年生は紫色で五年生は紺色。で、僕たち最上級生の六年生は緑色だ。覚えた?」


「?ああ」


そんなの覚えてなんの役に立つんだろう。忍術学園というのはテストがあるらしいから、それに関係するのだろうか?


「この子たちは僕が委員長を務める保健委員会の後輩たちなんだ」


「委員会……?」


聞き慣れない単語だ。
眉をひそめると、善法寺が「そう、委員会」と頷きながら説明する。


「この学園には委員会活動があるんだよ。伊吹の学校には無かった?」


「俺は……学校で忍術を教わっていたわけじゃないから」


「え?そうなんだ。てっきり、風魔の里とかから来たのかと思ってたよ」


ぱちくりとまばたきする善法寺の周りにわやわやと少年たちが集まった。眼鏡をかけた少年が俺を見上げながら口を開く。


「伊作先輩、この方は?」


「六年に編入する天城伊吹だ。今、学園長に言われて案内をね」


「へぇえ……六年生に。実力のある方なんですねー……あ、はじめまして。三年は組の三反田数馬といいます」


「一年は組の猪名寺乱太郎です!」


「一年ろ組の鶴町伏木蔵ですー……よろしくお願いします」


「二年い組の川西左近です」


「…………六年に編入する、天城伊吹だ」


名乗ればわぁあと声が上がって、わらわらと俺の周りに下級生たちが集まってきた。


「っ、!?」


「わぁー背が高いんですねぇ!僕もこれくらい高くなるからなぁ」


「乱太郎、失礼だろ!」


「ざっとこなもんさんみたいですねー三反田先輩」


「そうだなー…かっこいい」


そのうちペタペタと俺の腰やらに触り出す下級生たちに、俺は完全にパニックに陥って固まる。


忍びの里の子供たちはみんな俺を怖がって寄っては来なかったし、たまにやってくるクソ餓鬼は俺を目の敵にしていたからこのような注目のされ方は初めてだった。


どうすりゃ良い。


「っ、」


べたべたべたべたとなにが面白いのか、下級生たちは俺に触ってくる。いい加減我慢の限界がきた俺はひとまず、えー水色だから、一年生2人の首根っこを掴んでべりっとはがした。


「ええい、触るな!」


「わぁっ!伊吹先輩力持ちなんですねー!」


「は?」


怒鳴りつけたはずなのに、眼鏡をかけた少年はキラキラと目を輝かせてきゃっきゃっとはしゃぐ。顔色の悪い少年の方も「すごいスリルー」とかなんとか言いながら眼鏡少年とはしゃぎ出す始末だ。


「なに言ってんだお前ら、俺は怒って……」


「伊吹先輩っ!肩車してくださーい!」


「あ、ずるい乱太郎ー」


「ね、ね、伊吹先輩」


「……」


全く持って意味がわからなすぎる。俺は目に見えて怒っているのに、この一年生2人は変わらずべたべたと触ってくるし、怯えない。


「伊吹は背がすごく高いからねー。遠くまでよく見えるんじゃない?」


にこにこと愛妻のように穏やかに微笑む善法寺は、俺に断る余地を与えなかった。


「わーっ!高い高い!」


「……」


きゃっきゃっと乱太郎が俺の頭上ではしゃぐ。それをみて、善法寺が「良かったねぇ、乱太郎」と微笑む。


「伊吹せんぱぁい、次、僕もやりたいですー……」


「………ああ、順番な」


「やったー!」


「全く、乱太郎も伏木蔵もー」


「まぁまぁ数馬。伊吹も楽しそうだし、馴染めそうで良かったよ。あ、左近もしてもらう?肩車」


「しっ……ししししないですよ!」


「(帰りたい)」






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