能勢久作2

朝の食堂でも。


「あ。能勢くん、おはよ」


「おはようございます!では僕はこれで!」


廊下ですれ違っても。


「あ、能勢く」


「こんにちは!ではこれで!」


僕は能勢くんに綺麗に避けられるようになってしまった。


「う、うー…」


「わぁ!?要が泣いてる!?」


「なにがあったんだ要?」


「…そういうお前らもなんで泥だらけなんだ迷子コンビ」


「いやぁ作を探してて」


「作が迷子でな!困ったもんだ!」


「…うー…!」


2人の相手(突っ込み)面倒くさいよ作ー!と泣き出した僕に、わたわたと慌てる2人。


「どうしよう三之助!なんで要泣いてるんだ!?」


「寂しいんだきっと」


「そうか!大丈夫だぞ要!ぎゅー」


「ちゅー」


「三之助気持ち悪い」


「要辛辣」


「あれ、要?」


「うおっ要が泣いてる」


身を寄せ合う僕ら3人に、僕の大好きな優しい声がして顔を上げる。すると心配そうな顔をした雷蔵先輩と、なぜか顔を輝かせた鉢屋先輩がいた。


「どうしたの?要」


「どうしたんだ!要!」


「同じような台詞なのに伝わってくる気持ちにこうも違いがあるんですね…」












「久作の様子がおかしい?」


「…はい」


縁側に腰掛け、耳を傾ける雷蔵先輩に頷く。迷子コンビなら先ほど連行されました。鉢屋先輩も連れて行ってくれたら良かったのに。作兵衛め。


「鉢屋先輩。重いです」


「固いこというな」


「…」


「本当に元気ないな」


鉢屋先輩にひょいと持ち上げられて膝に乗せられた。いつもなら全力で拒否するそれも今はなんだか力が出ない。もうすり寄ってくる鉢屋先輩とかどうでもいい。


「…僕、なにかしたのかもしれません」


「心当たりがあるの?」


「ないです…けど」


「久作はなんて言ってたの?」


「中在家先輩と雷蔵先輩が僕の名前がどうとか…?」


「なんだそりゃ」


耳元で鉢屋先輩の声がして思わず身をよじる。しかしガシッと腰に腕わ回されているので動けない。雷蔵先輩はうーんと考え込んでいる。


「くすぐったいか要?」


「、わかってるならやめてくださいよ…」


鉢屋先輩はふふ、と耳元で笑うと顔を首にうずめた。


「んー」


「う、ひゃ!?」


「こら三郎。止めなさい」


「ははは」


「んー、久作のことだけどね。ふふ、2人で話すのが一番だと思うな」


「え?」


「雷蔵、お前なんか知ってんだろ?」


「ふふふ、うん。でもまぁ、これはやっぱり2人でちゃんと話した方がいいよ」


「…」


ちゃんと、話す。
僕がちゃんと能勢くんの話を聞いてあげなきゃ。能勢くんは僕の後輩なんだから。


「…そうですね!わかりました!ありがとうございます雷蔵先輩!」


「いいえ。気にしないで」


「離れてください鉢屋先輩」


「…もー少し落ち込んでて良かったのに」


「なにか言いましたか」


「いーえ」


「僕、能勢くんのところに行ってきます!」



※※※



「能勢くん!」


「うわっ!?、一ノ瀬先輩!?」


勢いよく障子を開け放つと忍たまの友を読んでいる能勢くんがいた。逃げられないように素早く入室して障子を閉める。


「良かったぁ部屋にいたのかぁ。同室の子は?」


「み、見ての通りいません…けど…あの、なにか?」


「能勢くん!」


「は、はい!」


「聞かせてほしいんだ!」


「え、ええ?」


「能勢くんが委員会のあった夜にしようとしてた話!」


「!」


また能勢くんの顔が真っ赤になった。ぶんぶんとちぎれんばかりの勢いで首を振る。


「わ、忘れてくださいと言ったじゃないですか!」


「いや、でも!ほっとけないし!」


「ほっ…!?」


「能勢くん僕の大事な後輩だし!いつも僕のこと助けてくれるし!だ、だから能勢くんがなにか悩んでるなら、力になりたいし!」


「…一ノ瀬、先輩」


「ええ、と…僕の悪い性格で…ごめんなんだけど…」


みるみるしぼんでいくのがわかる自分の声に涙が出そうになった。嫌われちゃうかなぁ、迷惑だって。


「…、…あの」


「!」


ぎゅ、と、
能勢くんが僕の手を握ってくれた。顔を上げるけどうつむいてしまっている能勢くんの表情は見えない。


「さ、避けるようなことして…すみません…」


「ううん。」


「僕…先輩のこと…な、」


「?」


「名前で…呼びたい…です」


ぶわあ、と涙があっという間に目に溜まって、僕もうつむいて脱力した。


「なん、だあ…そういうことかぁ…」


「え…?」


「僕がなにかして、嫌われちゃったけど思ったよ…はあぁ」


「そんなこと!」


「うん、ふふ。ありがとう」


「?」


顔を上げて微笑むとまだ真っ赤な能勢くんと目があった。今度はそらさずに僕を窺うような視線だ。


「僕も久作くん、て呼びたいな。いい?」


「…、はい!要、先輩」


「なぁに久作くん」


「へへ…」




名前は君だけの物だから。
(要先輩!)(ん?なぁに久作くん)(…)(名前呼ぶたびに照れないでよ)




楽しかった…
久作ぎゅっぎゅっ!
しかしこれるるらら連載に入れた方がいい気がしないでもない。



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