能勢久作

※転生連載ららるら番外編。久作と名前のお話。


「…要…ここ、糸がほつれてるぞ…」


「えっ!?うわっ…!ごめんなさい…!」


いいなぁ。
中在家先輩。


「大丈夫だよ。ほら、もう一回解いて。ゆっくりやってごらん要」


「は、はい」


いいなぁ。
雷蔵先輩も。



※※※



真夜中の委員会活動。今回は古書の修繕だった。計算や接客や雑用なんかはソツなくこなせるが、なんというか、僕はすごく手先が不器用なのだ。


「…っ…と…よし…」


「ふふ、口に出てるよ要」


「えっ」


「慣れるまでゆっくりでいいって。ね」


「うー…すみません…」


申し訳ない。慣れれば!慣れればきっと!たぶん!


手先に神経を集中させてゆっくりゆっくり修繕していく。いつも繕い物とかビリビリにしてたっけなぁ…よし、いい感じだ。


これまでで一番うまく修繕できた古本を満足そうに眺める。次の本に手を伸ばしたところでパチッと能勢くんと目が合った。


「あっ」


「え?」


「あ、あ、あの」


目が合った瞬間。能勢くんは「あ、あ」と繰り返しながらわたわたと慌てだしてしまった。僕は首をひねりながら古本を取る。


「どうしたの能勢くん」


「あ、いや、あの、その」


「?」


「…えっと…、名前…」


「名前?知ってるよ。久作くんでしょ?」


「!」


かああ、という効果音がつきそうな勢いでみるみる真っ赤になる能勢くん。名前がどうかしたんだろうか?


「名前がどうかしたの?能勢くん」


「っ…、なんでもないです…」


そうつぶやいて俯くと作業を開始した能勢くんに僕は首をひねる。なにかあったのかな?能勢くん。


能勢くんにちら、と視線をやって、古本に糸を通した。



※※※



「これでおしまい、と」


「やー…さすがに疲れたねぇ」


「量が量ですしねー」


うーんと伸びをする雷蔵先輩に苦笑しながら修繕した古本をとんとん、とまとめる。しかしこの量の古本を今夜中に片付けられるかな。


「中在家先輩。この古本どうしますか?」


「明日…もう遅い。…解散」


「そうですね。よし、要は道具仕舞って。久作、古本をこっちにまとめよう。糸くず下に落とさないようにね」


「はい!」


道具を小さな葛籠に仕舞って糸くずを集める。能勢くんが塵取りを持ってきてくれた。


「ありがとう、能勢くん」


「い、いえ…」


「?」


やっぱり能勢くんの態度がおかしい気がする。少ししゃがみ込んで覗き込むと、能勢くんが目を見開いてバッと飛び退いた。


「な、ななななんですか?」


「あ、ごめんね。なんか能勢くん様子が変だから」


「えっ…」


「僕の性分だから、仕方ないって諦めてね?良かったら、力になるよ」


「一ノ瀬先輩…」


能勢くんがくしゃ、と顔を歪める。くすぐったそうな表情だ。僕が微笑むと能勢くんは視線を泳がせる。


「あ、の…雷蔵先輩と中在家先輩って、一ノ瀬先輩のこと、名前で呼びます…よね」


「うん?うん、そうだね」


「えっと…ぼ…僕、も」


「2人とも?もう上がっていいよー?」


「!」


「あ、はい。わかりました。お疲れ様でした」


「うん、おやすみ」


中在家先輩にお疲れ様でしたを言って能勢くんと図書室を出る。夜の学園を歩きながら、僕は苦笑して能勢くんを振り向いた。


「ごめん、続きね。僕の名前の話だっけ?」


「っ、いいです!」


「え?」


「すみません忘れてくださいおやすみなさい!」


「え、え!?能勢くん!?」


電光石火の速さで長家の方へ消えていった能勢くんは、制止の声も聞かず闇に消えてしまった。僕…なにか悪いこと言ったかなぁ。



短編って二ページ目いってもいいのですかね…



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