仲間の決断03

どうしたらいいんだろう。というのが、数馬の正直な思いだった。


要にも、もちろん孫兵や作兵衛や左門や三之助にだって、怪我なんてしてほしくない。城に侵入なんて、やめてほしい。


だから、僕は行かないの?
みんなの背中をこのまま、見送ってしまうの?


「ねぇ、藤内」


「ん…?」


前を歩く藤内は、こちらを向かないまま数馬に返事を返す。


「先生に、知らせる?」


「………」


藤内からの返事はない。
きっと藤内もどうしたらいいかわからないんだ、と数馬は思った。


「正直な気持ち、さ」


「!うん」


「数馬は、どうしたい?」


「え……?」


予想しなかった問いに、狼狽えが口から零れる。


「え……と、」


僕は?


要がすごーくお節介で、困っている人がいると厄介事でもすぐに手を貸してしまうのは知っている。


でも、今回のは作兵衛が言った通り、レベル、事情が違い過ぎる。なにが正しいのか、わからない。


「僕はね、僕の、浦風藤内としての正直な気持ちはさ」


藤内は苦虫を噛み潰したような表情をして、苦笑した。


「僕も、ついていきたいんだ」


「!藤内……?」


「それこそ、そんなわけないのにさ。僕ら七人なら、大丈夫だって、怖くないって、どこかでそんな、確証もないのに」


「……うん」


わかるよ、という言葉はあまりに弱く空気に溶け消える。


「駄目だと思うのに。正しくなんてないのに。きっと出来るわけがないのに。……僕ら七人ならって」


「藤内」


藤内の両手を、数馬がただぎゅと握る。


「僕は城に行くのが、怖いよ。失敗できないなんて、ガタガタ震えが止まらない」


でも


「でも、みんなを行かせてしまう方がずっとずっと怖い。僕がいたらなにか変わったのかって後悔する方がずっとずっと嫌だ」


数馬と藤内は顔を見合わせて、小さく笑った。


※※※



月は沈んで、星影もなし。
闇は包んで、黒を落とす。


要が動くのを感じ取った僕は、要が出て行ったのを確認して用意しておいた武装を身にまとい静かに外に足を運ぶ。


「ギン、ろ組に合図を」


生物委員会で飼っている人見知りの狼の子どもを、ろ組へ走らせる。これでいい。打ち合わせ通り、もうろ組は武装をして待機しているはずだ。


「要」


なんの意味もないのに、名前をつぶやいた。声が闇に消え入る。ため息をつくと、ろ組三人が足音をかき消しながらこちらに近づいた。


「先輩たちに見つからないように。スピード勝負だ」


「ああ左門!でっかい声で返事しなくていい!」


僕の言葉に元気よく応答しようとした左門の口が作兵衛によって塞がれた。


「茂みの深いところで、人馬で行く。小松田さんの見回りが来る前に」


「わかった」


「上げるのは俺に任せろ」


腕っ節の強い作兵衛が上げる係を買って出てくれた。左門は口を塞がれたまま「ぐがまも!」とオーケーサインを出す。


「行くぞ」


足音を殺しつつ、茂みの深いところへ移動する。要は別の方向へ向かったので、鉢合わせすることは無いだろう。


「孫兵からな。孫兵、俺が行くまで左門と三之助を絶対に離すなよ」


「心得た」


「いくぞ」


ガサッ


と、草むらが揺れた。心臓が勢いよく跳ね、内側から胸をたたく。見つかった?固まる僕たちにその草むらはクスッと笑い声を漏らした。


「僕だ」


「とーなっ!ぐもっ」


「だから!お前は!」


「藤内、数馬……?」


草むらから現れた藤内と数馬は、照れくさそうに小さく笑顔を浮かべる。僕らを見据え、藤内が静かに口をひらく。


「僕は、やっぱり要についていくのが正しいとは思えない」


藤内と数馬は、僕らと同じように、武装をしていた。


「でも、行くよ」


「みんなの怪我を治せるのは、僕しかいないからね!」


数馬も笑う。
重りが、あれほど重かった心に乗っていたなにかが。すぅと無くなって行くのを感じた。


詰まりそうになる声をおさえて、僕は力強く、頷く。


要、要、
今行くから。僕もすぐ、行くから。


だから、だから、!
誰も欠けることなく、七人みんなで。


「みんなで、いこう!」



仲間の決断
(僕たちは行くと、決めたのです)








※※※※※※
ししししし死亡フラグなんかじゃないんだから!



※ブラウザバックでお戻りください。




 



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -