仲間の決断02 要はおそらく行ってしまうだろうと。僕は直感していた。 「たぶん今夜。要はツルカメ城へ行ってしまうと思う」 事情の説明をその言葉で締めくくると、揃ったメンバーは個々になんともいえない表情を浮かべていた。 「ほんとなのか?その話」 沈黙を破ったのは左門だった。みんな聞きたいことは同じのようで、視線が僕に集まる。 「残念ながら、全部本当の話だ。要が偶然密書を預かって、燃やしてしまった」 「要のことだもん、きっとすごく責任を感じているよね……」 数馬の言葉に藤内がため息をついて同意する。 「どう考えても、向こうに非があるんだけどな」 「そう言っても、あいつは納得しないだろうと思う。意外に頑固だしな」 僕の言葉に左門がバッと両手を上げて「それが要のいいとこだ!」と声を上げるので、みんな苦笑する。 「いいとこかぁ?忍者にとってはマイナスだろ」 「なにを言う作兵衛!いいとこだ!僕が認める!」 「なぁ、孫兵」 ぶんぶん腕を振りながら怒り出す左門の隣で、三之助がまっすぐこちらを見つめていた。なんとなく、あ、見抜かれてるな、と感じつつ視線を返す。 「孫兵、なにするつもりだ?」 こいつ、変なところで勘がいい。 「僕は要に、手を貸そうと思う」 「は…?」 藤内の信じられない、という視線を僕はまっすぐ受けた。 「要を一人で行かせたくないんだ。僕は、ついていく」 「本気で言ってんのかよ孫兵」 眉にしわを寄せ、表情の固い作兵衛が僕を睨みつけた。 「俺らまだ三年生だぞ?城に侵入なんて実習じゃぁほとんどしたこともない。実力だって宙ぶらりんなの、わかってるだろ」 「三年生が二人集まったら?」 僕は退かない。 「たしかに、要だけじゃ駄目かもしれない。だから僕も行くんだ」 「冷静になれよ孫兵!レベルが違い過ぎるって言ってんだ!」 「……みんなには話しておきたかった。僕、想像以上にびびってるんだ。だから、」 一人で行くことを決断した要は、きっともっともっと。怖いだろうな、と。 「あいつはきっと、一人で行ってしまう。下手すれば一人で死んでしまうかもしれない。僕は要の決断を踏みにじりたくない。だから、ついていく」 かたかたと手が震えた。怖い怖い怖い。でも、震えた手を繋げばきっと震えは止まるだろうと。信じたい。 「!」 ふいに、僕の右手に熱が乗った。あたたかい、ぽかぽかした手。 「僕もいくぞ!孫兵!」 「左門……」 「三人寄れば文殊の知恵だ!三年生三人で、えーと、六年生に匹敵する力になる計算だぞ!」 「四人なら七年生だな」 左門の頭をぽんと叩きながら、三之助がけらけら笑う。そしてにっと僕に笑いかけた。 「俺も行く。要のこと、心配だしな!」 「ありがとう……」 「ああもう!」 吹っ切れたような威勢のいい声がして、作兵衛が膝を叩いて立ち上がった。 「お前ら二人が行くなら俺も行くしかねぇだろうが!」 「おおー!男前だぞ作!」 「きゃー作兵衛!抱いて!」 「調子のんな!」 ばしっと、三之助と左門の頭を二人同時にひっぱたいた作兵衛に、こんな状況なのに笑ってしまう。 「孫兵」 僕の名前を呼んだのは藤内だった。みれば藤内は作兵衛ほど露骨ではないが、やはり固い表情で。隣に座る数馬は不安げに様子を見守っている。 「僕は、止めるべきだと思う」 「………ああ」 「話を聞けば、利吉さんが動いてくれているみたいだし。なにも僕らが行く必要はないと思うんだ」 「………」 「これが、正解だろ?」 痛いくらいの正論。 中途半端な実力と中途半端な知識。僕らが行く必要はない。 「僕は……」 数馬がつぶやいて、膝の上で固く拳を握る。 「僕は誰にも、怪我をしてほしくないよ……」 「僕らは、行かない」 正しいことしている。なのに、ずしりと僕の心に重りが掛かった気がした。 「ごめん。行こう数馬」 「……うん」 そのまま、は組二人が部屋を出て行くまで、誰も言葉を発することはしなかった。 ここで沈黙を破らなくてはいけないのは、僕だ。 「準備をしよう。なにがあってもいいように。夜中、要を追おう」 僕の言葉にろ組の三人はゆっくり頷いて、要が戻ってくる前に静かに部屋を出て行った。 そして、夜がくる。 → ※ブラウザバックでお戻りください。 |