仲間の決断

※消えた密書篇「応えたかった」の後のお話


「要?」


じっ、と要が手元のサンマの塩焼きを見つめている。箸は口元で止まったまま。向かいに座る僕の声は届いていないようで、なおも要はじっ、とサンマの塩焼きを見つめ続けていた。


「要って」


「………」


「あ、鉢屋先輩がじりじりとこちらに近づいてくる」


「………」


「(あれ)」


首元のジュンコも要の様子にゆるりと首をひねる。僕はため息をついて諦めると、味噌汁をすすりながら要を眺めた。


一ノ瀬要というのは大変お節介な人間である。困っている人がいれば身を削ってでも、罵られてでも手を貸す。それでその人が助かるなら、自分がいくら傷ついても良いという考え方なのだ。


そしてこいつの面白いところは、お節介をすることは慣れたものだが、お節介をされることに対して耐性がないこと。


自分に差し出された助けの手に、ひどく狼狽え、驚くのだ。


「………」


鶴亀 薫は要には「もういい」と言った。許してくれたのだ。話を聞くに、向こうにも非はあったようだから当然といったら当然なのかもしれない。


しかし、しかし、だ。


そんな言葉、鶴亀 薫が要を"許した"ということは、要にとっては釣り合わないのだ。


自分が鶴亀 薫の大切な密書を燃やしてしまった。これはとてつもなく大きな重りだ。要は自分の責任だと考えているのは間違いない。


要が、自分の責任だと、考えて、いることは、


「……………要」


「………」


「要っ!」


「!え、あ」


びくっと要の体が震えて、やっと僕と視線を合わせた。


「あ……ごめん、聞いてなかった。ええと、なんだっけ?」


思い出したようにサンマをつつき始める要に、僕は眉を寄せる。


「………薫くんの話だ」


カマをかけてみる。


「あ……そ、か。薫くんの話ね」


掛かった。
へらりと誤魔化すような笑い方。


「ああ、とりあえず彼は利吉さんの家で預かってもらうことになったんだろ?」


「うん。利吉さんのところなら安全だから。利吉さんの調査が終わるまではとりあえず利吉さんが預かるって」


「そうか。やっぱり利吉さんの報告待ちか」


要からの返答がない。
僕は釘を刺すつもりで、要を真っ直ぐみて口を開いた。


「それが一番、無難だよな」


かちゃん、と要の持っていた箸が音をたてた。


「…………そうだね」


笑顔は、嘘をついていた。



※※※


「作兵衛」


「ん?」


食事が取り終わって、要はちょっと用があるからとそそくさと席を立ってしまった。それを見送り、自分も食器を下げて、廊下を歩いていた作兵衛に声をかける。


「どうした孫兵?虫かごの修理か?」


「だったらいいんだけどな」


「なんかあったのか!?」


隣を縄で繋がれたままの左門がものすごい形相で割ってはいる。三之助も首をかしげつつ僕に視線を寄越した。


「少し相談がな」


「あれ?なにしてるの?」


振り返れば風呂上がりらしい数馬と藤内が揃って歩いてくる。要がいない、重なった偶然に僕は苦笑をこぼした。


「みんなに、話があるんだ」







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