ちゃぽーん

「ん?なに?どうしたの孫兵」


「誰か、いるような」


「え?」


耳をすまし気配を探れば、確かに誰か戸の向こうにいるようだ。孫兵は眉をひそめて「なんで入ってこないんだろう」とつぶやく。


「誰だろうな。炙り出してやろうか」


三之助が小声でそう言ってにやりと笑った。


「炙り出す……?どうやって?」


僕が首をひねると、三之助はまたもや小声でテキパキと指示を飛ばした。


「孫兵と左門、作兵衛を押さえろ。数馬は藤内押さえて。いいか?」


「はっ……?おいなにをむぐっ」


「作兵衛!しー!だ!」


「左門が一番うるさいよ」


「なにするんだよ三之むがっ」


「よくわかんないけど、これでいいの?三之助」


「え?なんでみんなそんな従順なの?」


三之助の指示に従順に従う左門たち三人に僕が慌てて止めに入ろうとしたが、三之助に肩を掴まれくるりとそちらを向かされる。


「よし要、脱衣場に聞こえるように声を出せ。いいな?」


「えっ!?なに!?なんで僕!?」


「要が一番、反応がいいからに決まってるだろ。ほれ」


「あっ!?ちょっと!?や、やめ、やめて…っ……」


三之助の手がくすぐるように僕の体を徘徊する。抵抗しようと押す手に力が入らない。


「ふはっ、ふぁ、あははは!ちょっお願いやめ、」


「んー?本当にやめてほしいか?要」


「ぅあ!?ちょっと待って本当どこ触って、!あははははやめてやめてやめて!!」


「後ちょっとかな。うりゃりゃりゃりゃ」


「あはっ、ははは!もう、本当、やめっ……!!」


ばしゃばしゃと顔にかかるお湯に顔をしかめて、苛立ちが頂点に達した僕はキッと三之助を睨んで大声を上げた。


「もういいっ加減に、!無理っらから、……ぅう、やめてってば!!!!」


その声が大浴場に響いた瞬間、今まで沈黙を保っていた木戸がバァンッと大きな音を立てて開いた。


「不純同性行為禁止だバカタレェエエエェ!!!」


「あー開けちゃいましたよ」


「なに開けてんですか潮江先輩ー」


「だからやめようって言ったのに!」


先頭切って現れたのは、潮江文次郎先輩だった。その後ろから残念そうに綾部先輩と鉢屋先輩が顔を覗かせる。


「お前らはなんで風呂でそんな話をギンギンギンギン」


「潮江先輩噛んでます噛んでます」


「黙れ鉢屋!おいこら左門!お前は!俺がなんだって!?」


「潮江先輩は経験豊富な方です!!!」


「止めんか!!!」


「ま、まぁまぁ文次郎。ごめんね、僕らもお風呂失礼するね」


伊作先輩が潮江先輩の肩をなだめて、浴槽につからせた。綾部先輩と鉢屋先輩も浴槽につかる。


「みんなの印象が聞けるのってちょっと新鮮でしたねー」


綾部先輩がけらけら笑いながら言うのを聞いて、作兵衛がおそるおそる先輩方を窺う。


「先輩方、いつからあそこで話を……」


「誰が一番経験豊富〜な辺りから」


「全部じゃないですか……」


綾部先輩の回答に作兵衛は頭を抱えて浴槽に沈んだ。潮江先輩はまだ左門に説教をしている。


「良いか左門!忍者には守るべき三禁というものが」


「潮江先輩それでも男ですか!!!」


「いつになく噛み付いてくるな次屋!」


「ま、まぁまぁ潮江先輩。例えばですよ、例えば」


宥める数馬の言葉に、伊作先輩も苦笑しながら頷く。


「そうだよ文次郎。例えばだよ。仮定の話なんだから」


「うぐぐ……」


「そうですよ!で、真相は如何なんですか!!」


「例えばなんだろう!真相もなにもあるかこのバカタレ!」


潮江先輩が左門を捕まえてしまい、諦めたような表情の伊作先輩が数馬に微笑んだ。


「でも、有難うね数馬。嬉しかったよ。そこは盗み聞きして良かったかな」


「えっあっ……」


「数馬もよく委員会を手伝ってくれるし、下級生を面倒見てくれるから僕も助かってるよ。有難う」


「あ、あ、あの……」


ぱしゃぱしゃとお湯を叩きながら慌てる数馬に、微笑む伊作先輩。和やかな雰囲気に僕が頬を緩めると、ばしゃんと音と共に体をの動きを封じられた。


「ぬぁっ」


「そんで要は?俺がなんだってね?」


「鉢屋先輩は優しくないから嫌だそうです」


「孫兵ええぇぇえええ」


「へーえ?じゃあ優しくしてやろう」


「いいですいいですいいです!!していただかなくても!!!」


「遠慮するな」


「してません!!」


「おやまぁ藤内。またタカ丸さんに髪綺麗にしてもらったの?」


「あ、はい。捕まってしまって」


暇なのか藤内の髪を三つ編み始める綾部先輩に、怒号の止まない大浴場。やがて僕はやっと復活した作兵衛によって助けられた。


「ほらほら文次郎、そんなに怒らないの。今日怪我したとこはやく治そうってお湯に浸かりにきたんでしょ」


「…ああ、ほら左門。立ち上がったままだと冷える」


「はい!」


「いいかお前ら、女を口説くときはこう……」


鉢屋先輩の手が僕の背中を支え、顎を指で上げさせる。視界の端に話を真面目に聞く三之助が目に入り、おい止めろと叫びたくなるが視線が逸らせない。


「とにかく見つめろ!熱っぽい視線を注げ!」


「おい鉢屋……」


「ちょっと今大事なところなんですよ潮江先輩!そして左耳元でささやく!愛してる、要」


「……うええ」


「おー要が落ちた!すげー!」


「いやどう見ても引いてるだろ。ていうかもう勘弁してやって下さいよ鉢屋先輩」


作兵衛がずるずる僕の体を引きずってくれた。


「綾部先輩、僕の三つ編み大量に作んないで下さいよ」


「んーなんか楽しくなってきちゃった」


「もう……おーいお前らそろそろ上がるぞ。のぼせる」


「はーい!」


「ばか左門こっちだ!三之助はいつまで鉢屋先輩の話聞いてんだよ、のぼせるぞ!ほら!」


「ちょっと待って今すげーいいとこああああ……」


「じゃあ僕も上がります。失礼します伊作先輩」


「うん、また委員会でね」


「孫兵いくよー」


「ああ。あ、じゃあ」


失礼します先輩方、とみんなで軽く会釈をして大浴場を後にした。


「後輩ってすぐ大人になるんですねー」


綾部先輩がのほんと呟いた言葉に、伊作先輩が苦笑で応える。


「あはは、そうだねぇ。まぁ、あの歳だから」


「全くたるんでる!鉢屋!お前は後輩に」


「まぁまぁ潮江先輩、これも先輩の務めですって」


「黙れ!バカタレ!」


かぽかこ、ちゃぽん
(とあるお風呂のおはなし)

おまけ



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