かこーん

「「三之助ええぇえ!」」


「いいぞ藤内作兵衛、もっとやれ」


「止めなくていいのか」


「その前に孫兵さんは僕になんか謝ることあるよね?」


「経験ってどっちのだ!?」


左門が無邪気な笑顔で首をひねる。聞かなくてもよろしいのに数馬が「どっちって?」と尋ねた。


「恋仲になった回数ってことか?それとも夜の回す」


「三之助ええぇえ!」


「なんで俺に怒鳴るんだよ要!」


「三之助が左門に余計なこと吹き込んだんだろ!こんの!」


「怒った顔も可愛いな要」


「ときめかねーよばーか!」


バシャバシャとはねるお湯に顔を歪めながら、また孫兵さんがさらりと発言する。


「六年生じゃないのか、普通」


「あー六年生かぁ!」


左門も孫兵の言葉に頷く。おいおいなに勝手に話進めてんだよだれか止めろよ!


「やっぱり立花仙蔵先輩とか?」


「えっ…」


「やめたげなよ左門…藤内が真っ青になってる」


「まぁ、立花先輩は冷静だし格好いいしね」


よしよしと藤内を撫でながら数馬が苦笑する。


「えー?だったら食満留三郎先輩は?目つきは悪いけど、それが格好いいーっていうくのたま見たことあるぜ」


「えっ…」


「三之助までやめたげなって…よしよし。赤くなったり青くなったり忙しいな作兵衛は」


「要…う、うちの委員長は女をとっかえひっかえする人だったのか…!?」


「待て作兵衛。どうしてそうなった」


「いやいや!ならうちの潮江先輩だって負けてないぞ!」


「うちの委員長だって!なんたって暴君だからな!」


興奮気味に腕をぶんぶん振る左門に、三之助まで悪乗りを始める。


「ちょっとちょっと勝負じゃないんだから!」


「そーいう数馬のとこの伊作先輩は?」


「え?」


「伊作先輩は優しいからな!きっとモテモテだぞ!」


「えー?でも伊作先輩って不運だろ?」


「あーたしか伊作先輩は不運委員長だからな!」


「…っ左門も三之助も勝手なこと言うなよ!たしかに伊作先輩は不運委員長だけど、それを上回るくらい優しい人だから!」


その言葉に、しーんと静まる大浴場。ハッと我に帰った数馬が慌てて「いやっ…あの…」と口を開いた瞬間、弾けるような盛大な拍手が沸き起こった。


「えっ…えっ…」


「数馬っ…!」


「偉いぞ数馬っ…!」


「わっ要、藤内!?なんで泣いてるの!?」


「感動したぞ数馬!涙が止まらない!」


「涙もなにも泣いてねーだろ三之助」


「むーこれは伊作先輩が強敵かぁ…」


「強敵ってなに!?なんの話!?」


「僕は……竹谷先輩が一番モテると思う」


また静けさが大浴場に訪れた。まず、発言したのは孫兵で当の本人はどういうつもりか無表情だった。


あーまぁ、でも…


「竹谷先輩なら僕もわかるかも」


「要は竹谷先輩みたいな人がタイプなのか!?」


「作兵衛さん作兵衛さん、落ち着いてください。竹谷先輩はなんていうか、一緒にいて気負わなくていいっていうかね」


「あとあの人は生物に優しい」


「それって動物にモテるって意味のモテる?」


げらげらと三之助と左門が笑い出し、おいおいそう言う意味かよ真面目に竹谷先輩褒めちゃったじゃねーか!と僕は孫兵に冷たい視線を向けた。


「でも五年生なら僕は雷蔵先輩が一番モテると思うなぁ。優しいし」


「ああ、僕もよく助けてもらう。雷蔵先輩優しいよね」


「怖くないしな」


うんうんと同意してくれるのは数馬と作兵衛だ。雷蔵先輩は優しくて格好良くて僕の憧れの先輩だ。なんだか嬉しくなってふにゃりと笑うと、背中にのしっと三之助が乗っかってきた。


「要は本当に雷蔵先輩好きだよなー」


「好き…!?違うよ!好きとかじゃなくて…!」


「ふん」


「なんで鼻で笑うんですか孫兵さん」


「そーかぁ。僕は委員会に五年生がいないからよくわからないけど、久々知先輩は髪がさらさらしてて綺麗だなーって思うぞ!」


にこっとはにかむ左門のが髪も十分さらさらしてて綺麗だと思うんだけど、僕は曖昧に相槌を打った。


「ああ、雷蔵先輩といえば鉢屋三郎先輩は…」


「却下」


「なんだよ却下って」


藤内の言葉を間髪入れず僕が遮ると、藤内は眉をひそめて首をひねる。


「鉢屋先輩はしつこい。優しくない」


「優しいのがいいとか女の子かお前は!」


「要と鉢屋先輩、すごく仲良く見えるけど…」


「なにを言い出すの数馬…!?やめてよ…」


「あれか。要、ツンデレ」


「ぶっ飛ばすよ三之助」


ぎろ、と三之助を睨むが三之助は素知らぬ顔だ。


「しかしそうか…俺たちもあれだな…行く行くはこう…」


遠い目をしながらの三之助の言葉に、藤内は眉をひそめながらたしなめるように口を開いた。


「あのなぁ三之助、忍者の三禁ってのが…」


「夢くらい見させろ」


「三之助こわい顔こわい」


よしよし、と数馬が三之助の肩に手を置いて、浴槽につからせた。ふがふが言いながら三之助が浴槽に大人しく沈む。


「はー…もうなんていうか三之助からは鉢屋先輩臭を感じるよ最近…」


「…」


「あれ、どうしたの?孫兵」


なにやら呆れ顔で大浴場の入り口を見つめる孫兵。孫兵はちらりと僕に視線を投げると、木の扉を指差した。


「え?なに?」


「静かに」


孫兵が唇に指を置く。なんだなんだと騒ぎ出した迷子を作兵衛が黙らせて、僕たちは木の扉を見つめて耳を澄ませた。



いいか!まだだ!まだ続くぞ!!



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