久々知兵助

よくよく考えたら、俺は要と1対1で話したことが無いように思う。


いつもハチや勘ちゃん、雷蔵や三郎なんかと一緒に要と談笑している気がする。


いや、一度だけ。一度だけ要と1対1で向き合って話したことはあるけれど、俺はあの時は取り乱していたし、ちゃんと話が出来たかと言われれば自信を持って頷くことはできない。


「あ、久々知先輩!」


だから、少しだけ困ってしまった。


いきなり降り出した土砂降りの雨に、焔硝蔵が雨漏れしていないか気になった俺が確認に行くと、そこには少し濡れた髪の要が立っていた。


「要…?どうしたんだ」


駆け寄って尋ねると要は困ったように笑って、足元に置いてある木箱に視線を落とした。


「用具庫に手裏剣を運んでいたんですが…いきなり雨に降られてしまって、雨宿りです」


「そうか。なにかあったのかと思ったぞ」


「え?やだなぁ、なにもないですよ」


ふふ、と笑う要の笑い方は、最近雷蔵に似てきたように思う。


「久々知先輩はどうかしたんですか?」


「ああ、焔硝蔵が雨漏りしてないか気になってな。ちょっと確認に来たんだ」


「それは大変ですね。火薬が水に濡れたりしたら使えなくなってしまいますもんね」


僕も手伝いますよ、とするりとまるで挨拶でもするように出た要の言葉に、なんとなく苦笑して「頼む」と焔硝蔵の鍵を開けた。


「木箱を中に入れても良いですか?ちょっと心配なので…」


「ああ、構わない」


よいしょ、と木箱を持ち上げる要の声を背中で聞いて、屋根を見上げる。


「うーん…大丈夫…だとは思うが…」


「薄暗くて、よくわからないですね」


ザァアァ…という土砂降りの音が焔硝蔵を包んでいるようだった。要もキョロキョロと屋根を見上げては、壁をぺたぺた触っている。


「?要?」


「え?あ、えっと、雨漏りしてきた水が壁を伝ってきたらわかるかなぁ…と思いまして」


「はは、なるほどな」


照れ笑いする要になんとなくほわっとした気持ちになる。


"久々知先輩の心は後輩(ぼく)たちが殺させはしません"


そう言って、俺の目を真っ直ぐ射抜いた要。息を飲んで見つめ返せば、要は今のように照れたように笑って


"僕たちは久々知先輩が大好きですよ!"


人を殺めたあなたを
僕たちが軽蔑なんてするはずない。僕たちは、あなたが大好きです。


「…」


思い出してまた、胸をくすぐったいようなむず痒い感覚が走った。俺は誤魔化すように屋根を見上げながら、雨漏りを確認する。


「僕、地面が濡れてないか確認しますね」


「ああ、頼む。俺は火薬壺を確認するから」


「はい」


薄暗い中で、要が微笑んだのがわかった。じゃりじゃりと地面を確認しているであろう音を聞きながら、火薬壺のひとつに手を置く。


そういえば、要が泣くことってあるんだろうか?


ひとつ目の火薬壺を確認しながら、ふとそんなことを考えた。要はよく笑う。表情はコロコロ変わるが、笑顔が一番多い。


後輩と接するとき、友達と接するとき、先輩と接するとき、先生と接するとき、必ず要は笑顔を浮かべる。


「なぁ」


ぼんやりとそんなことを考えていたせいで、自分がいつの間にか声を出していることに気がつかなかった。


「要は、よく笑うな」


「え?」


じゃりじゃりと地面が濡れてないか確認する音が止まり、要の困惑する声が俺の耳に届く。


「なんというか…可愛い笑顔だよな」


「な、な、なんですか…?突然」


「すごく良いと思う。俺は要の笑う顔、好きだ」


「あ、ありがとう…ございます…?」


「うん」


後輩にみせる優しい笑顔も、先輩や先生にみせる照れたような笑顔も、友達にみせる柔らかい笑顔も、


"僕たちは、久々知先輩が大好きですよ!"


あの時のまるで太陽みたいな笑顔も、


「うん、どこも雨漏れはしてないな」


「ですね。大丈夫そうです」


ほ、とした表情の要に俺は薄く笑って、手裏剣の木箱を持ち上げた。慌てて要が駆け寄ったが、首を振って制す。


がちゃん、と焔硝蔵の扉を閉めて、要に木箱を返した。


「ありがとうございます!」


「いや、礼を言うのはこっちだし…」


ザァアァ…と雨足は強まるばかり。俺はふと空を見上げて、少し考えるとそこに腰を下ろした。


「? 久々知先輩?」


「座れ、要。雨が止むまでここにいるから」


きょとんとしたあと、ぱっと顔を明るくする要に、俺は頬を緩ませて隣に座る要の頭を撫でた。



笑う、あの子。
(要って泣いたことあるのか?)(えっ!?あ、ありますよ…?)(ふぅん、でもお前が泣いたら俺はどうしたらいいかわかんなくなるな)(え、え、じゃあ久々知先輩の前では泣かないよう…にします)(それはそれで嫌だ)(えええ…?)




久々知と1対1ってこんなに難しいのか、と思ってしまいました。豆腐は出さないぞ!絶対だからな!というフラグを私は見事にへし折りましたHAHAHA☆

さくさんへの捧げものです。私の息抜きに手伝っていただきました!本当にありがとうございます。なんだか久々知書いたら落ち着きましたw

リクエストありがとうございました!


ヤマネコ



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