浦風藤内

※転生連載ららるら。藤内と仲良くなる話。一年生篇。



「食堂の当番?」


「うん、それを教えるからって先生が呼んでたよ」


同じクラス、同室で仲良くなった三反田数馬。不思議な髪色の彼はそう言って僕の忍たまの友を持った。


「僕が部屋に戻しておいてあげる。行っておいでよ」


「わかった。ありがとう数馬」


手を振っては組教室出る。うろ覚えの廊下をすれ違った先輩たちに挨拶しながら歩いて食堂に向かう。食堂の入り口がみえたところでおばちゃんと男の子の声がした。


「へぇ、じゃあ要くんは旅籠の息子さんなの」


「はい。」


「じゃあお料理は得意かしらねぇ」


「あ、父さんが料理人なんですけど、僕は包丁に触ることさえ禁止されてましたから…」


「え?そうなの?」


「厳しい人なので…下手なことすると抜刀されかねませんよ」


「ええ?包丁で?あっはは、面白いわねぇ。要くん」


「いやマジな話なんですこれ…」


「こ、こんにちは!」


少し緊張して声が震えた。すると、ひょこっとカウンターからくせっ毛の髪を揺らしながら男の子が現れる。


「こんにちは!浦風藤内くんですか?」


「あ、うん」


同じ制服の色なのになんで敬語なんだろう?そう思いながら首を縦に振ると、そいつはにこっと笑顔を浮かべる。


「はじめまして。僕は一ノ瀬要といいます。よろしくお願いします」


「あ、入学式に遅刻してきた…」


「あー。そうです。その四人組の1人です」


苦笑する一ノ瀬の後ろからおばちゃんが現れた。そして僕も厨房に入るよう促され、あわてて袖を捲りながら厨房へ駆け込む。


「じゃあ2人でジャガイモの皮むきをお願いね。頼むわよ」


「はい」


「わかりました」


桶に山ほど入ったジャガイモを一ノ瀬と協力して外に運ぶ。水の入った桶も準備して、一ノ瀬と並んでよいしょと腰を下ろすと皮むきを始めた。


「…」


「…」


沈黙。


しゅるしゅると向くのは僕で、しゅる……しゅる……と向くのは一ノ瀬だ。ちら、と一ノ瀬を窺えば、目玉が飛び出すのではないかというくらい真剣に皮むきをしていた。


「…」


しゅるしゅるしゅるしゅる


「…」


しゅる……しゅる……しゅる


「…」


しゅるしゅるしゅるしゅる


「…」


しゅる……しゅる……しゅる


「だあああ!」


ついに耐えきれなくなった。一ノ瀬はといえば、いきなり大声をあげて立ち上がった僕をポカンと見上げている。


「どうかしました?」


「力!いれすぎなんだよ!」


「え?力?」


「皮むきに決まってるだろ!それに包丁の持ち方も間違ってる!刃が滑ったらどうするんだよ!」


「指が…切れるはず…?」


「うるさーい!」


「うう浦風くんが聞いたんじゃないですか!」


ため息をついて一ノ瀬に向かい合う。


「よくみろ。こうやって包丁を置いて、親指を滑らせるんだ。あまりえぐるなよ。ジャガイモが小さくなる」


「おお…父さんが向いたジャガイモみたい…」


「…ちらっと聞いたけど、一ノ瀬の家は旅籠なんだろ?包丁持ったことないのか?」


「抜刀は怖いですし…」


「…本当の話なのかそれ」


「本当も本当。うちの見習いさんが殺されかけて、それからトラウマなんです」


真っ青な表情からして本当なんだろう。僕は「とりあえずやってみろ」と空気を変えて、作業を再開した。


「浦風くんは器用なんですね」


「ああ、うん。まぁ」


「風呂掃除とか宿帳とかお客さんの案内とか、ドジっ子のフォローなら自信はあるんですけどねぇ」


しゅる…しゅる…と、まあわりかしマシになった皮むきをしながら、一ノ瀬が苦笑する。


「なぁ、一ノ瀬」


「はい?」


「なんでお前は敬語なんだ?」


「え?」


「僕はお前の先輩では無いし、敬語を使われるほど僕は偉くない。それと」

浦風くんはふん、と顔をそらしてジャガイモの皮むきを再開した。


「僕のことは藤内でいい」


「藤内く…ん」


「藤内!」


「(ビクッ)藤内……!」


「よし」


満足した。薄く笑ってみせると一ノ瀬も照れくさそうに笑った。


「藤内って優しいんだね」


「は!?」


「なんていうか…うん。藤内って優しいんだね」


「に、二回言うな!」


「藤内って優しいんだね」


「三回言うなー!」


怒鳴ったけど一ノ瀬はケラケラ笑うだけだった。僕は口をつぐんで、またジャガイモの皮むきに戻る。



「ったく、お前は……っ!?」


ため息をついてまた刃を滑らせようと、すればピリッと痛みが人差し指に走った。続いて、じわりと赤い液体が人差し指から滲み出す。


「っ…てて…」


「え?わっ!?大丈夫藤内!?指切った!?」


「ああ、大丈夫だよ、大したこと……」


ジャガイモを置いて怪我した方の手をなんともないと振れば、一ノ瀬はその手を取ると躊躇いもなく僕の人差し指をぱくりと口に入れた。


「………!?」


「ん、痛い?あ、そうだ前に余計にもらった絆創膏が……」


「な、な、な、な、!?なにしてんだよお前ぇえ!!!」


「え?」


絆創膏を手に持ったまま、一ノ瀬がキョトンと立ち上がった僕を見上げる。


「ばっ……指、口に…き、汚いだろ!」


「あ、ごめんね。嫌だった?」


「違う!血!血だよ僕の!この馬鹿!」


すると一ノ瀬はまたキョトンとした顔をして、やがて小さく吹き出すと僕の人差し指に手際良く絆創膏を巻いた。


「汚くないよ、全然」



指先に熱が乗った。
(あー……)(?どうしたの藤内)(いや、昔のこと思い出して恥ずかしくなっただけ……)(ふぅん?)




指ぱくってやるのは要くんのお父さんの癖がうつったやつですとか要らん設定。

だって親方が昴さんの指ぱくってやって「舐めとけ馬鹿、気をつけろ」とか言ってんの想像してなんか……なんか……私自給自足で生きていけると思った。


上げるの忘れてた短編。食いつなぎにうpです。



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