中在家長次

最近、なんだか中在家先輩の様子がおかしい。


無口先輩とお節介後輩。
(山尾。さまへ!)


「…」


「どうしたの?難しい顔して?」


くすくす笑いながら僕の眉間をつつく雷蔵先輩に僕は我に帰った。熱の集まる顔を慌てて挟む。


「ぼ、僕難しい顔してましたか…?」


「すごーく。眉間に皺寄ってて、要らしくないね。どうしたの?」


「あー…すみません…ぼーっとしてたみたいで」


眉間を伸ばして苦笑すると、雷蔵先輩は少し眉をひそめて首をかしげる。


「大丈夫?具合でも悪いんじゃない?」


「大丈夫で…」


大丈夫です。と応える予定が後半が喉の奥につっかえて飲み込んでしまった。こつんと当たる雷蔵先輩の額と僕の額。


「ら、らい、らい…!」


「熱は無いけど……ふ、顔が真っ赤」


雷蔵先輩の両手に頬をはさまれて、僕はなにか言わねばとパクパクと口を動かすが、言葉は出てこなかった。


「あ、あの…雷蔵先輩…!」


「はいはいごめんね。からかいすぎました」


くすくす笑いながら手を離す雷蔵先輩に確信犯か!と頬がひきつる。しかしにっこりと微笑まれ、僕はいやまさか鉢屋先輩じゃあるまいし、と考えを改めた。


「さぁ話してごらん要。じゃないと今度はほっぺを食べちゃうよ?」


「ええっ」


慌てて頬を押さえるとまたくすくすと笑い声が上がった。うむむまたからかわれた。これ以上からかわれては僕の心臓が保たないので、僕は観念してポツリと言葉をこぼした。


「中在家先輩、なんだか最近様子がおかしいんです…」


「え?中在家先輩が?」


ふむ、と宙に視線を送った雷蔵先輩は中在家先輩の様子を思い出しているのだろう。僕はうなだれたまま、はいと返事を返した。


「何日か前、僕が池に落ちて体調くずしたの、知ってますか?」


「うん、八左ヱ門に聞いたよ」


「それからなんです。中在家先輩の様子がおかしいの」


「うーん…?」


腕を組んで首をひねる雷蔵先輩。僕も目をふせたままあのときのことを思い出す。


竹谷先輩とジュンコをみつけて、竹谷先輩がジュンコから僕を庇ったのはいいけれど、突き飛ばされて僕は池に落ちてしまった。


体調をくずした僕は医務室で一晩過ごすよう伊作先輩に言われ、医務室で寝ていたんだけど。


「(なにかすごく…悪い夢をみた記憶はあるんだけどなぁ…)」


「なんでだろうね…?うーん、要の体調を心配していらっしゃるとか…でも、うーん…?」


真剣に考えてくれる雷蔵先輩に、なんだか申し訳なくなって話を切り上げてしまおう、と口を開いた瞬間。雷蔵先輩はぽん、と手を打った。


「うん、よし!僕がちょっとだけ協力してあげる!」


「え?」


「うん、よしよし要次の当番はいつだっけ?」


「明後日ですけど…」


「明後日ね。了解」



※※※



「…」


「…」


そういうことか…!
扉を開けて入ってきた中在家先輩をみて、僕はなんだか申し訳なくなって曖昧に微笑む。まずい、ひきつったかも。


中在家先輩の方も、「…もそ」とつぶやいて奥の棚に引っ込んでしまった。


「うう…雷蔵先輩ぃ…」


今日は雷蔵先輩と僕の当番のはずだ。たぶん雷蔵先輩が中在家先輩に当番を代わってくれるよう頼んだんだろう。


奥の棚に引っ込んでしまった中在家先輩の背中にちら、と視線を送る。


「(雷蔵先輩がせっかく僕のために気を使って下さったんだし…大丈夫大丈夫。がんばれ僕)」


いやなにを頑張るんだ僕。


ぺち、と頬を叩いて、僕は明るい声で中在家先輩に話しかけた。


「な、中在家先輩」


「…」


くるりと中在家先輩が振り向く。しかしなんとなく僕と目を合わせようとはしない。


「新刊の本が入りますよね!いつでしたっけ!」


「………来週には」


「ああたしか、中在家先輩のお好きな方の本が入られるとか!楽しみにしておられましたよね!」


「…………ああ」


「よ、よろしかったらその人の過去の作品、拝見したいです。どれですか?」


「……………これ」


ひゅ、と僕の方を見ずに本を差し出す中在家先輩。僕はああ、だめだと思いながら「ありがとうございます…」と本を受け取る。


「…」


「…」


沈黙。
いや、図書室は私語厳禁だからさっきの会話ができたのも奇跡的なんだけど。なんだか、痛い沈黙。


いつも僕の目を見て話してくれる中在家先輩が、最近僕を避ける。目をふせたり、泳がせたりする。


なにか怒っていらっしゃるのかなぁ、中在家先輩。僕が粗相をしたから?それとも潮江先輩に言われた、体調管理がしっかり出来ていないと?


考え出すと止まらない。


なにかしてしまったなら謝りたい、僕とまた目を合わせて話してほしい。自分で気がつけないのが情けないけれど、なにか粗相をしたのなら叱ってほしい。


「…要」


「…っ…あ、はい」


「ここ、字を間違えている…」


そんな何も変哲のない一言で、僕の涙腺はあっけなく決壊してしまった。


「…っふ、…す、すみませ…」


沈黙。沈黙。沈黙。
中在家先輩が変に思う、はやくとまれ、とまれ、!


「要…?」


戸惑ったような声が聞こえて、思わず顔を上げる。が、ぱちっと目があって中在家先輩は少しだけ焦ったように、また僕から視線をそらした。


「、っ、中在家先輩、!」


止まらない、止まらない、


僕は胡座をかいている中在家先輩の前に座り込んで、腕をつかんで訴えた。そらさないで、どうか。


「僕、なにか、粗相、しました、か」


「え…」


「中在家先輩、僕と…目を合わせて、ひく、くれないです」


「…」


「僕、なにか、中在家先輩に…っ、失礼なこと、」


瞬間。僕の言葉を切るように、中在家先輩が僕の頭に手を乗せた。ひく、と言葉を飲み込む。


「……すまない」


「…?」


「…要を、傷付けたな」


「っ、いえ!僕が…」


「違う」


ストンと中在家先輩の声が僕の中に降りて、口をつぐむ。


そして中在家先輩は僕をまっすぐ見ると、ごにょごにょと言いにくそうに口を開いた。


「お前が…風邪をひいた日が…あったろう…」


「え…?」


なんで中在家先輩が知って?


「その夜、鍛錬のあと、医務室に行ったら…お前が…寝ていて…息が絡まって呼吸ができなくなっていた…」


「ええっ!?」


悪い夢をみているせいだと思っていた。過呼吸状態に僕が陥っていたってこと?


「伊作は医務室から出払っていて…どうにかしようと…水を…」


「?」


「…お前の口に、……口で移したんだ」


「はい」


「…」


「…?」


「…」


また中在家先輩が僕から視線をそらした。


「………も、もしかして僕を避けていた理由はそれですか?」


「………」


こくんと頷く中在家先輩。僕はまたはらはらと涙を零して、首を降った。


「中在家先輩が気になさらなくても…!」


「嫌、…だろう?」


「嫌じゃありません!」


思わず声を荒げた僕に、中在家先輩はキョトンと視線を戻す。僕はぎゅ、と中在家先輩の腕をつよく掴んで、真っ直ぐ強すぎるくらいの視線で告げた。


「嫌、じゃ、ないです」


「…」


「だから、もう僕を避けないでください…」


「…」


中在家先輩はもう一度「すまない」と言うと、僕を抱き上げて膝に乗せた。


「要…もう当番は覚えたか…」


「ずっ…はい!もうばっちりですよ!」


「…じゃあ貸し出し帳簿をつけてみろ。見てやる…」


「はい!」


僕は中在家先輩の膝に乗ったまま、筆を握って貸し出し帳簿を開いた。



中在家長次と一ノ瀬要。
(わりと良いコンビ)




おまけ

このあと2人で仲良く図書当番します。まぁそれはおまけの方で。みなさんお忘れというか、わからないまま読んでいるでしょうか、これ"一年生篇後日"の話なので要くんは今一年生です。ややこしくてすみません。

山尾。さんに捧げます!リクエストに答えられたら不安で不安で仕方がありません!!先にすみませんと言っておきますみません!!!(ふざけるな)

リクエストありがとうございました!


ヤマネコ



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