これは何色?
「数馬くん数馬くん、赤は英語でなんて言うんですかぁ?」
耳に不快な声。その声に、知っている名前が聞こえて僕は足を止めた。
数馬?
声の元をキョロキョロと探す。僕は買い物をしている途中だった。エコバックを下げたまま、さっき曲がった通りを戻れば、学生服を着た三人の少年が歩いていた。
「こいつ、赤の英語もわかんないんだぜー?」
「馬鹿じゃねぇー?」
ケラケラとあからさまに誰かを傷つける声音。そしてその声にうつむき耐えていたのは、僕の大好きな藤色だった。
「じゃあ数馬くん数馬くん、青は英語でー?」
「……」
「うわー!青の英語もわかんないのかよ!」
「ちょっと」
「「「!」」」
気がつけば、僕は数馬を取り囲んでいた学生服の少年の片腕を掴み上げていた。
「なにか知らないけど、穏やかじゃないね。なにしてるの?」
「はぁ?なんだよお前!」
腕を掴まれた少年は、一瞬ぽかんとした表情だったが腕を振り解こうと大きく振った。仕方ないのでパッと離す。
「要さん……」
数馬が真っ青な表情でこちらを見つめていた。余計なことをしてしまっただろうかという思いが、一瞬胸をついたがここで数馬が嫌がっていた。なら、助けたい。
「誰だよあんた?」
「数馬の知り合いじゃね?」
じろじろと無粋な視線を向けてくる少年2人に、僕はその視線を受ける。
「ば数馬の知り合いか」
「俺たち今忙しいんでー」
ふむ、年上が出てくれば怯むと思ったがうまくいかなかった。僕はどうしたもんかとひとまず、眉を寄せて少年2人を見る。
「随分なこと言うね。馬鹿が馬鹿やってるようにしか見えないけど」
「っ……はぁ?」
え、うわこんな簡単な挑発には引っ掛かった!
少年2人は互いに顔を見合わせると、数馬と見比べて僕を睨みつけてきた。
「あんた数馬のなに?」
……しかもすごい痛いとこついてきてんですけど。
「なにと言われると……」
なに?僕って数馬のなに?
友達……っていうは少しどころだいぶ違うし、知り合いというには……なんか違うし、
腕を組んで考えた結果、僕はぴたりと当てはまる答えを見つけた。
「むかつくんだよ」
「「は?」」
「誰だろうと、数馬が嫌がってることしてる奴がいたら、むかつく。君たち2人に僕はかなりむかついてる。だからこういう餓鬼くさいことするのやめてくれると嬉しいんだけど」
「はぁ?何様だよ」
「頭おかしいんじゃね……?」
「おかしくて結構。でもってイジメ駄目絶対。次やったら、お巡りさんに通報しちゃうよ?」
にこ、と笑って僕が携帯電話を取り出すと、さすがに"警察"という単語を聞いた少年2人が怯んだ。
「知るかよ!ば数馬庇うなんてお前も馬鹿なんだな!」
「行こうぜ」
ばたばたと少年2人は走り去っていった。ふぅ、と息を吐いて、少年2人の背中を見送りながら携帯電話をポケットにしまう。
「、あの……」
遠慮がちな声に僕はひやり、としながらも慌てて笑顔を繕って振り向いた。
「余計なことしてごめん。大丈夫だった?」
「い、いえ、違うんです。僕が……っ、あいつらに目をつけられたから悪いんです」
「僕、大人気なかったね。あー……ごめん、本当」
数馬のことだから、引きたくなかったって言ったら、数馬はどんな表情をするだろう。
「いつもは、こんなじゃないんですよ!?僕の学校は、先輩とか後輩とか優しい人ばっかりなんです!」
「うん」
「僕の所属してるの保健委員会なんですけど、不運委員会なんて呼ばれてて……でもみんな本当に優しい人ばっかりなんですよ!」
「数馬」
数馬の手を取って、視点を合わせるようにしゃがみ込む。
「数馬、なにに怯えてるのかわからないけど」
その言葉に、数馬は息を飲んで言葉を飲み込んだ。僕は安心させるように握る手にぎゅ、と優しく力を込めた。
「僕、初めて数馬のこと話してもらってるの、すごい嬉しいよ」
「え……?」
「数馬、いつも僕の話すごく丁寧に聞いてくれて嬉しかったから。僕も数馬の話、聞きたいと思ってたんだ」
へへ、と笑いかけると、数馬も照れたような笑顔を浮かべて頷いた。
「聞いてくれるなら」
「聞く聞く、不運委員会っていうのすごい気になる」
「あ、いや、そこはあんまり聞かないでもらえると……」
「え?そうなの?」
「うー……はい」
「ま、立ち話も何だし……」
あ、でもここからならいつもの公園より、僕のアパートの方が近いかなぁ。冷凍食品買っちゃってるし。
ちらりとぶら下げたエコバックに目をやって、僕は数馬に笑いかけた。
「数馬、ここからなら僕のアパートの方が近いから、良かったらお茶飲んでいく?」
「えっ……いいんですか?」
「いいよいいよ。あ、大丈夫。僕は掃除ができる系男子だからね!それなりに綺麗にしてあるよ。……まぁ絵の具とかは散乱してるけど」
「要さんの絵、もっと見たいです!」
絵の具という言葉に、ぱっと顔を輝かせて数馬が僕の荷物に手を伸ばした。
「僕、持ちます!」
「え?あ、大丈夫だよ?いろいろ買っちゃったから、重いし」
「でも、なにもしないでお邪魔するのは……」
「んー……じゃあ、半分こしよう。そっち側持って」
「はい!」
数馬は肩掛けの学生カバンをかけ直して、エコバックの半分を持った。少し軽くなった荷物に足取り軽く、僕たちはアパートを目指した。
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同じ時間軸でもう少し続きます。
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