後日談
その画家には、才能がありませんでした。
しかし、"才能が無い"の一言では諦められないくらい、画家は絵を描くのが好きでした。
才能が無くたって、誰かに自分の絵を否定されたって、画家は構いませんでした。
何故なら画家には、自分を愛してくれる人がいましたから。とてもとても、幸せでした。
「要さん!帰ってくるなら言ってください!僕、迎えに行ったのに!」
「えあー……数馬を驚かせたくて……ごめん、ね?」
「もう!」
僕のキャリーをガラガラと引きながら、数馬はぶすっと頬を膨らませた。
「ごめんって数馬。機嫌直してよ」
「僕がどれだけ要さんに会いたかったか、要さんはわかってないんです!言ってくれれば……もっと……」
「ん、ありがとう」
数馬の手を取ると数馬の顔がボッと赤くなる。こういうところは変わっていない。嬉しくなってくすくす笑う。
「数馬は可愛いね」
「……要さんは格好いいですよね」
「そう?」
「大人の余裕って感じです」
「さぁ、どーかなぁ」
実際心臓は暴れてるし、顔は熱くて仕方ないんだけれど。僕はあ、と思い出したようにリュックからスケッチブックを取り出した。
「忘れるところだった。これ、うちの地元をね。たくさん描いてきたんだー紹介したくて」
「わぁ!見せてください見せてください!!」
パッとキャリーからも僕からも手を離してスケッチブックを手に取る。苦笑しながら一緒にスケッチブックを覗き込めば、数馬は丁寧にページをめくっていく。
ああ、何年も会ってなかったけれど、こういうところも変わっていない。
数馬はスケッチブックから顔を上げて、可愛らしくはにかんだ。
「うん、やっぱり要さんの絵は綺麗です」
才能の無い画家は幸せでした。
白黒の少年も幸せでした。
白黒の少年は御伽噺の本をめくるように、楽しげにスケッチブックをめくりました。
ずっとずっと、画家は少年の世界に優しく優しく、色を灯してゆきました。
end!
(下ご挨拶↓↓↓)
※ここまで画家のはなしを読んでいただき、本当にありがとうございました!ツイッターのお題診断から生まれたのお話ですが、まず「全裸待機!」とお声をいただいた山尾。さんにありがとうございます!
途中なぜか私が泣きながら書いていましたが、この話は"あなたの○○が好き"の言葉はなににも勝るよね!というのをテーマに書きました。
嬉しいし、天にも昇る気持ちですよね。それが2人の障害を乗り越える糧になってパーンみたいな!!(当初のプロット)
なんにせよ、無事完結してほっとしました。本当にありがとうございました!
ヤマネコ(2012.02.07)
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