気持ちに嘘はない
し、シュミレーションをしようか。
「数馬、あげよう」
いや、駄目だろ。簡潔かつ直球過ぎる。いかん。もっとこう。
「数馬、この花この間話したお婆さんと偶然知り合って、頂いたものなんだけど。花とか嫌いじゃなかったら、僕だと枯らしちゃうしもらってくれるかな。ああ要らなかったら」
長い!長い長い!
もっと簡潔に!
「数馬、花嫌いじゃなかったらもらってくれないかな」
いや、いいけどなにか物足りないような。
「あー!!!!」
プランターにちょこんと花を咲かすブルーデイジーを前に、僕は頭を抱えた。
簡単な話。数馬に花を渡すのが恥ずかしくなった次第である。
「だってよく考えたら、数馬誕生日でもないのに花って……今の男子中学生に花って……いや花に罪は無いんだけど、それをあげたいと思う僕に罪はあるそうだ僕が悪い!」
どう考えても、理由が思いつかない。
ただ、数馬が喜んでくれたら、それでいいんだ。よくわからないけど、それで。
「そうだ、それで行こう。今度文化祭にお呼ばれするお礼みたいなこう……」
「要さん、こんにちは」
「うわっ!」
慌てて振り向き思わず姿勢を正す。数馬はいつもの学生服でカバンを抱えながら、きょとんと僕を見上げた。
「大丈夫ですか…?」
「えっ、あっ、うん。大丈夫大丈夫大丈夫」
「でも、すごい汗ですよ?」
「へ、平気平気」
大丈夫だ大丈夫だ。
恥ずかしいのは一瞬だけ、切り出せ、切り出せ、
「今日は早いんですね、要さん」
「うん、はは、ちょっとね」
熱い、顔が熱い、
「そうだ。今日僕の友達に…」
行け!
「あ、あのさ数馬!これ、あげよう!」
「………え?」
きょとんと目を見開く数馬。おいやっちまった結局一番最悪な……!と思うが僕の口は止まらない。
「この間話したお婆さんと仲良くなってさ、も、もらったんだ。それで」
意味もなく、ごしごしと口元を拭う。数馬はプランターを受け取って、その花を見つめた。
「数馬の髪の色なんだ、その花」
「……!」
「だから、その、数馬にあげたくて」
あ、駄目だ柄じゃない。恥ずかし過ぎる。僕はうつむいたまま、必死に次の言葉を考える。
心臓が僕を急かす。
熱が僕を落ち着かせてくれない。
「あ、嫌いだったら」
「……、すみ、ません」
え?
顔を上げた途端、飛び込んだのは涙に濡れるブルーデイジーで。
「すみませ……ごめんなさい、っ、すみません…っ…!」
ぼろぼろと絶え間なく、数馬の瞳から涙がこぼれ落ちる。ひく、ひく、と嗚咽に阻まれながら謝罪を繰り返す数馬に、僕はパニックになりながらもしゃがみ込んだ。
「か、数馬?どうしたの?」
「僕っ……ず、と言わなきゃ、って…思っ……ぅあ」
「数馬、大丈夫だよ、落ち着いて」
数馬の涙も、謝罪も、止まらない。ブルーデイジーを持つ手が、震えている。
「僕、僕、ず、と、」
どうして。どうしてだろう。
「い、つか!、言わなきゃって……わか、て、」
何故だろう。
「僕、僕、」
「僕、――――色がわからないんです」
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