黒門伝七

僕は優秀なんだ。
成績はいいし、忍術の知識だってあほのは組の何倍だってあるんだ。


なのに。なのに。


「は…?」


「うん。金吾くん、かっこいいなぁって」


「金吾って…は組の皆本金吾か?」


「そう。剣術が得意なんだってね。かっこいいなぁ。私剣術って苦手だから、教えてほしい」


「っ…剣術なら、僕が」


「伝七は実習ダメダメでしょー?」


知識バカなんだから、とくすくす笑う。この学園に入る前から一緒にいたのだから、このくらいの減らず口は慣れっこのはずだったのに。


「…っ」


グサリと深く僕に突き刺さる。


「いつも戸部先生と稽古してるよね。たまぁにくのいち長屋にも声が聞こえてくるんだよ」


「…そうかよ」


「?伝七?」


首をかしげて課題をする要の手が止まる。でも僕は要と目を合わせることができなかった。


要が盗られる。
ましてや、一年は組なんかに。


「どうしたの伝七?具合悪い?医務室いこうか?」


「いいよ。なんでもない」


「そう?」


窺うような視線を向けられているのはわかったが、やはり顔を上げられない。


どうしようどうしよう。
どうやったら要の気を金吾から逸らせる?


もし金吾が要を好きになったらどうしよう。そしたら、僕の入る隙なんて。


「伝七」


声がして、要の指がこつんと僕の眉間をついた。いきなりのことに息がつまり、同時に顔に熱が集まる。


「な、な、なにするんだよ!」


「すごい皺寄ってる。なにか難しい考えごと?」


「…!べ、べつに!」


「伝七は嘘つくのが下手だなぁ。昔から」


くすくす。
要の笑い声が僕は好きだ。声も髪もいつの間にか全部好きになってて。


だから、だから


「要」


「なぁに、伝七」


金吾なんかに、盗られたくない。


「好き」




嫉妬と朱色。
真っ赤に染まったきみに、僕はにやりと笑ってみせた。



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