9999&100000!

いつからだろう。
要を、孫兵に取られただなんて嫉妬するようになってしまったのは?


9999&100000!



要は、困っていても困っていなくても誰にでも手を差しのべるお節介焼きな悪い癖がある。でも自分が困っているときはぐっと耐えて飲み込んで、人にそれを晒し迷惑をかけることはいけないと戒めていた。


「どうしよう……」


まだ、俺たちが一年生のときの話だ。委員会にもほどほど馴染んできた頃だったと思う。


要の後ろ姿がみえたから近づいた。


「要?」


「あっ」


振り向いた要の表情は真っ青で、俺はびっくりして要の肩を掴んでしまう。


「要!?どーした!具合悪りぃのか!?」


「ちが、違うよ、作兵衛」


慌てたように手を振る要に俺は訝しげな表情のまま首をひねる。要はバツの悪そうな顔をしたまま、視線を右往左往させてやがて諦めたように口を開いた。


「あのね……台、を」


「台?」


「うん……図書室にあった踏み台をね、僕、こわしちゃって……」


要は今にも泣き出しそうだ。みれば要の背後に足の部分になる板が折れてしまい、なぜか大きな穴があいた踏み台が置かれている。


「直そうと思ったんだけど……その、僕、すごく不器用でね……?」


三年生となった今はだいぶ緩和されたが、このころの要は細かい作業が苦手で目も当てられないくらい不器用だった。どうやら金づちを降り下ろして穴をあけてしまい、もうどうにもならなくなってしまったらしい。


「……はぁ、貸せよ」


「え?」


「俺がやってやる」


「え、あ、」


「大丈夫だよ。用具委員会で何回か道具の修理したし、お前より上手くできる。要、用具庫いくぞ。使ってない板あるかも」


「あ、あの作兵衛」


今までの時間でこいつの性格がなんとなくわかっていた俺は、いいから!と無理やり要の手を引き用具庫に走り出した。


結局、修理は夕飯ギリギリまでかかってしまったが、なんとか元に戻った踏み台を図書室に返し、俺と要は笑った。


「あの、作兵衛。本当にごめんなさい。手伝わせて……」


「はぁ?なんで謝るんだよ。俺が貸せって言ったんだ。俺が勝手にやったんだ」


「……うん」


要は夕日とはにかみながら笑った。


「ありがとう、作兵衛」


瞬間に、
俺の心臓は鳴ってしまったのだ。


「……このことは二人の秘密な」


「え?」


「ば、バレたら、怒られるかもしれないだろ」


「う、うん。わかった」


秘密、と怒られる、という言葉にドキドキしているのだろう要は、こくこくと赤い顔で頷いていた。


要との秘密。


「あ、作兵衛、夕飯おわっちゃう」


「行こう」


ドキドキした。
急に要がきらきらして見えて、どんどん理由がついて要はさらにきらきらしてゆく。


「要!」


「はーい、なぁに作兵衛」


「お前これ、落としてたぞ」


「あ」


「全く。気がつかなかったのかよ。ほら」


要はしっかりしているように見えて、実は結構そそっかしい。よくうっかり、をする。その日も忘れ物をして、俺から忍たまの友を受け取り、照れたように笑っていた。


「ありがとう作兵衛。なんだか最近、作兵衛に助けられてばかりだねぇ」


「お前は結構そそっかしいよな」


「えっ。そ、そうかな」


「腕、墨ついてるぞ」


「えっうそっ」


うわーと言いながら誤魔化すように笑う要と、むくむく膨らんでく気持ち。こそばゆくて、あたたかくて、居心地良いそれ。


「作兵衛?」


名前を呼ばれて、自分がいつの間にか慈しむように要の髪の毛を触っていたことに気がついた。あっ、と思ったが必死に落ち着けて意地悪い笑みをうかべてみせる。


「お前って本当に癖っ毛だよなぁ」


「ああ、うん。ねぇ?本当に困るんだよ?これ」


要は眉をしかめて前髪をつまむ。なんとか誤魔化せた。


「雨の日とかワカメみたいだし、結い上げても首元がくすぐったくてさー」


「苦労してんだな」


「立花先輩みたいにさらさらだったら良かったのにね」


「ふわふわで悪くないだろ、癖っ毛も」


「そうかなぁ」


「要」


要が呼ばれた声に振り向いて、俺の手からふわふわの癖っ毛がするりと零れて離れた。


「あ、孫兵」


「こんなところにいた。今日僕とお前、炊事当番だぞ」


「あっ。そうだった。ごめん孫兵。じゃあね作兵衛」


「あ、おう」


「全く、僕はお前のお守りじゃないんだぞ?昨日だって……」


「わぁあ待って!!言わないでって言ったのに!!すぐ行くから!!」


なにか言いかけた孫兵を慌てて遮り、すばやく手を取って「また食堂でね作兵衛!」とばたばた走り去ってゆく。


ザザァ


孫兵がくく、と笑いをこらえながら要をからかう声が聞こえた。


「……」


ザザァ、と胸に黒いもやがかかっていく。あの二人は仲が良い。あいつらは組が一緒だから、授業も、当番も、寝るときもいつも二人でいる。


いやだ。とつぶやく。
そんなの、ズルいと。


「要……」


そこから、苦しくなった。
要はやっぱりきらきらしていた。俺はどんどん息ができなくなった。


でも、でも平気なふりをした。そうしなきゃ、要が悲しむのがわかったからだ。そのうち俺は孫兵と要が一緒にいることで痛むどこかを、隠すのがずいぶん上手になった。


要要要


時が積もるたび、好きが溢れ出す。俺が孫兵だったら良かったのに。ああでも、俺が孫兵だったら、要は俺を作兵衛とは呼んでくれないから、それは違うのかもしれない。


「要、なにしてんだ」


「んー?」


そんな思いを抱えたまま。
心が悲鳴を上げたまま、体ばかりが成長した。


「ああ作兵衛。委員会帰り?」


たまにどうしても会いたくなって、偶然を装って要の元へ足を運んでしまう。要は部屋で手紙を広げていた。


「入って入って。中在家先輩から手紙がねー面白い本を送ってくださるって」


「ほー」


要はやっぱり、きらきらしている。


ずいぶん伸びた髪は今は首元をくすぐることもなく、腰のあたりをゆらゆら揺れて。きらきら星を含んだまつ毛がぱちぱちと弾ける。


「卒業しても本をたくさん読んでるみたい。さすが中在家先輩だよねぇ」


くすくす笑う要に、俺も可笑しくて笑った。よく食満先輩もちょくちょくお菓子を引っ提げて用具委員会に顔をだす。


「そういえば作兵衛。左門と三之助は?」


「今日は二人とも後輩に連れ出されてるよ。委員会活動」


「そうなんだ。じゃあ作兵衛ゆっくり出来るね?」


「………孫兵は?」


お茶の急須を引っ張り出しながら、要が「孫兵?」と首をひねる。


「ああ孫兵ならジュンコとお散歩だよ。今日は月が綺麗だからって」


ほっとしてしまう自分が嫌になる。そんな俺の思いに気がつかない要は月がみえるようにと障子を少しだけ開けた。


「本当に綺麗だね」


きらきら


「ああ、綺麗だ」


ドキドキする。


「綺麗だよ、要」


くらくらする。


「?作兵衛?」


大丈夫。苦しいのも、ドキドキするのも、死にたくなるくらい切なくなるも、要を壊してしまいたくなる衝動も、もう、慣れた。


「お茶」


「え?あ、はい」


「うん、うめぇ。菓子ないのか?」


「んーと、たしかこの間買い物に行ったから……」


すきだよ
あいしてるよ


きっと伝えられない。
このきらきら。



99991&100000!
(月が綺麗だなー要)(綺麗だねぇ)



※※※※
10万HITありがとうございます!

作兵衛のホモくさいのを!ということでこんなのが出来上がりました。心理描写に溺れて書いてく感じだったのでゴポゴポと書き上げることができました。

英原ララさまに捧げます。
楽しんでいただけたら嬉しいです。


ヤマネコ



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