続き(66666)

プリントをコンクリートの出っ張りに置き、鉢屋くんの横でプリントを解き始める。


うおーコンクリートの上だから字がぐにゃぐにゃになる。下敷き引かなきゃ駄目だな。え、えーと、次の( )に入る単語を……ん、ん?


「……」


あ、そっか。あれだあれだ。前の時間に習った単語。


「……ねぇ」


よしよし。今回のテストこれから出るのかなぁ。


「……ちょっと」


だとしたらちょっと単語の量が……ここの構文難しいし……やだなぁ。


「あー……一ノ瀬、先輩」


「え?」


唐突に名前を呼ばれたので顔を上げると、鉢屋くんがなんとも言えないどこか照れたような表情でこちらを見ている。


「呼んだ?」


「あー……まぁ、はい」


「どうしたの?」


「……ここ、過去形にしないと」


とんとん、と鉢屋くんが指差したのは、先ほどまで僕が解いていた例文だった。


「単語は合ってると思いますけど、"〜だった"ってなってますからここは過去形に……」


「お、おお……そっか……」


「あとここ、スペルミスです」


「えっうそっ!?」


うわー!2つ下の子に課題のプリントすっごいだめ出しされてるよ僕!恥ずかしいなんてレベルじゃないよ!


「うー……と、ここ?」


「そうですね」


「あーほんとだ……うへー恥ずかしい。ありがとうね」


せめてもの誤魔化しに照れ笑いを浮かべれば、鉢屋くんは少し表情を崩して笑ったような気がした。


「英語、苦手ですか」


「んー僕ケアレスミスが多くって。いつも怒られるよ」


「へぇ。あ、ここ引っ掛けですよ?引っかかんないで下さいね」


「えっ、なに?なに?ち、ちょっと考えさせて!」


くす、と鉢屋くんからまた笑い声が漏れた。これ以上先輩として凡ミスするわけにはいかないので、シャーペンを握りなおして真剣考える。


「ん、ん。あーあーなるほど……ここが……」


「………雷蔵の顔、やめろって言われたんですよね」


ぴた、と僕の手が止まった。
顔を上げれば、いつの間にか鉢屋くんと僕の距離はほとんど無くなっていて、でも鉢屋くんは僕から視線を逸らしている。


「学校でのメイク禁止は男子でも例外じゃないとかなんとか。あいつ、生活指導なんで」


「………うん」


「不破の真似なんかしてなにを考えてるんだって、言われて」


鉢屋くんが、雷蔵の真似をしている。それはどうして?


「でも、これをやめるわけには、いかないんで」


その一言に痛いくらいの思いが詰まる。それを感じて、僕はシャーペンを置いて静かに鉢屋くんの話に耳を傾けた。


「そうやって反発して、教室で揉めると、迷い癖のあいつが困るから」


ああ、
そうか、わかった。


顔を上げない鉢屋くんの頭にポンと手を乗せる。鉢屋くんは驚いたようで、はっと顔を上げて目を瞬かせた。


「優しいね、鉢屋くんは」


「!」


ぐ、となにかを我慢するように鉢屋くんの表情が歪んだ。


「違う!わたしは、雷蔵が迷惑なのを、知ってるくせにやめようとしない!最低なやつなんですよ!」


「雷蔵から、言付け。まだ伝えてなかったね」


「?」


「"迷惑なんかじゃないからはやく戻ってこい馬鹿"って叱ってくださいだって」


その言付けに鉢屋くんの表情がぽかんと呆けた。


「お見通しみたいだよ。仲良しなんだねぇ」


「……わたし、」


「君は鉢屋三郎くんだよ。それが君なんでしょう?」


瞬間。ぼろっ、と鉢屋くんの目から涙があふれてこぼれ落ちた。


「えっ!?あ、鉢屋くん!?え、え、ごめん!ごめんね!?」


「っあーなんでもないです!なんでもないですから!」


「いや、でも」


「いーからプリントやってください!はやく!」


「う、うん」


ごしごしとブレザーの裾で乱暴に目元を拭う鉢屋くんを気にしながら、僕はまたシャーペンを握った。しばらくして、屋上の暖かな、ぼやけた雰囲気にチャイムの音が溶けていった。




66666hit!
(あーやばい、好きだ、この先輩)



※※※
66666hit!ありがとうございます!!

ららるら主と鉢屋との絡みを!とのことで、どうしようかしらー!と考えていたところだいぶ前にどこかで吐き出した現パロ年齢操作を思い出し、書いてみた所存です。すみません。

個人的にららるら主に敬語使ってる五年書くの楽しいので、番外編に何本か上げるかもしれないです。需要?なにそれ地名?わーお。

ネコ柳さまに捧げます!
遅くなって申し訳ありません!楽しんでいただけたら幸いです。


ヤマネコ



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