続き。(25000)

「それからその山は……」


「、っぅ……ぇっ…」


「えーとだから…」


「……ずっ、ぅ」


「……」


部屋のなかは僕の嗚咽と冷たい視線で埋まっていた。


「は、ハードルが、高過ぎ、ますっ……」


ものすごい話を聞いてしまった。しかも語り手が卑怯過ぎる。くるくる変わる声音、表情、ましてや顔さえも。


オチを聞く前に僕の精神の方に限界がきた。


「三郎さいてー」


「お前も一緒に煽ってたくせになに知らん顔してんだ勘右衛門」


「もう、本気出し過ぎだよ三郎。だから要に嫌われるんだよ」


「う……」


「要、大丈夫か」


「いや、むしろ、久々知先輩大丈夫ですか……」


視界が歪んでいてもわかる真っ青な顔色の久々知先輩。みれば竹谷先輩も同様に真っ青だ。


「いや、駄目だ、確実に今日寝られないわ」


「大丈夫だよ八。寝返りをうったら真横に顔がとかそんな」


「ばかやめろ勘右衛門!!」


「ほーら騒がないの。もうそろそろお開きにしないと。ごめんね要、付き合わせて」


ゆるゆると雷蔵先輩が頭を撫でて、僕の涙を拭ってくれた。


「っず、……はい。おやすみなさい」


「うん、おやすみ。ほら三郎、要を送ってきなよ。泣かせたの三郎なんだから」


「へーい」


「よーしお開きお開き」


「ちょっ勘右衛門まて。先にいくな先にいくな先にいくな」


「兵助びびり過ぎ」


じゃあね、と尾浜先輩と久々知先輩が部屋を出て行った。僕を鉢屋先輩が立たせる。


「よし、いくか要」


「、はい」


「おらおら。もう泣くな」


「っぅ……すみません」


「……」


「?鉢屋先輩」


「ああ、なんでもない。じゃあ行ってくる」


「行ってらっしゃい。布団は敷いておくからね」


「なぁ雷蔵、俺今日こっちで寝ていい?」


「えーなに八怖いの?仕様がないなぁ。布団自分で持っておいでよ」


ぱたん、と障子を閉めて鉢屋先輩が行くか、と苦笑した。


「やー悪かった悪かった」


「悪かったって思うならにやにや笑うのをやめて下さい…」


「要って結構怖がりなんだなー」


「その場はわりと平気なんですけど……鉢屋先輩のはレベルが違い過ぎました。もうー……今日寝られるかどうかー…」


「大丈夫大丈夫」


瞬間、きゅっと視界が藍色に染まって鉢屋先輩が僕を自分の胸に押しつけた。


「むっむっ!」


「怖くないおまじないをしてやろうか。幽霊に襲われるのと、七松先輩を敵に回すの。どっちが怖い?」


「!」


それは……七松先輩を敵に回す方が怖い。僕の回答を待たずに、鉢屋先輩は「な?」と笑った。


「心配すんな。七松先輩より怖いものはたぶんそう無いぞ。そう考えろ」


「はい」


「よしよし」


がしがしと頭を撫でてくれる鉢屋先輩を見上げて、僕は鉢屋先輩を見直した。いつも意地悪してくる鉢屋先輩だけど、


「鉢屋先輩」


「ん?」


「鉢屋先輩、優しいですね」


「………え」


ぴた、と鉢屋先輩の表情が止まる。僕はにこにこと笑いながら、続ける。


「僕、鉢屋先輩は意地悪な方だと思ってました。でもやっぱりすごく優しい方です。僕、頑張って寝ますね」


「…あー、これが噂に聞く」


「?」


「いやなんでも」


「要」


鉢屋先輩がまたわしわしと僕の頭を撫でた瞬間。僕の名前を、聞き覚えのある声が呼んだ。


見れば寝間着姿の孫兵が廊下に立っている。


「孫兵!起きたの?」


「心配で探したんだぞ」


「ありがとう。鉢屋先輩、ここまで大丈夫です。ありがとうございました」


「……ああ」


「おやすみなさい」


鉢屋先輩がなんとも言えない表情で、ひらひらと手を振る。孫兵が廊下を歩きながら、「なにしてたんだ」と尋ねる。


「うーん、五年生に捕まっちゃって怪談話。怖かったー……レベルが違い過ぎたよ」


「ふぅん」


「あ、ていうか僕厠……あーまぁいっか。もう遅いしね」


「そうだな。こんな夜遅く出歩くのは良くないぞ。危ない」


「うん、そうだよね」


はやく寝よう。僕は孫兵に苦笑しながら自分の部屋を戸を開ける。


「あっ、要。今探しに行くとこだったぞ」


「……………え?」


戸を開けた目の前には、孫兵がびっくりしたような表情で立っていた。


「厠に立ったのは気がついてたけど、何時まで経っても戻ってこないし」


後ろを振り向けば、いたはずの孫兵はどこにも見当たらず、忽然と姿を消していた。


「………孫兵」


「ん?」


「今日一緒に寝よう」


「は?」


僕は孫兵に真っ正面から抱きついてぶんぶん首を振った。


「怖くない怖くない怖くない七松先輩の方が怖い七松先輩の方が怖い」


「おい、ちょっと、なに言ってんだお前」


「うわあああああもう絶対怪談話とかしないから僕!!!」



25000!
(シャー)(ぎゃあっ)(ジュンコだジュンコ!物音にいちいち反応するな!寝られない!)(ううー……)




安定の幽霊オチ。怪談話ネタでした。

その場は平気だけど、寝るときやら髪を洗うときやら、嫌なタイミングで思い出しますよね……怖い話は。

みはる様素敵なリクエストありがとうございました!遅くなってしまい申し訳ないです!


ヤマネコ



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