続き。(25000)

「ど、どうしよう……」


布団に入って何10分か経ったころ。僕はもぞもぞと布団のなかで寝返りをうっていた。













「はー……怖かった」


「結局あいこが続いてみんなで開けたな」


「うん。怪談話も三之助の話だけで終わっちゃったしねー」


よっこいしょ、と敷き布団を取り出して孫兵に渡す。ジュンコはまたいつも通りに首に巻きついていた。


「よし、敷けたぞ」


「待って待って、髪解くから」


「明日の服は」


「置いた置いた。あれ?孫兵教科書は?」


「仕舞った。明日午前中は三年生は野外授業だろ」


「うわー…そうだった。ジュンコどうするの?」


「竹谷先輩に預ける」


シャー


「そっか。よし、寝よう。おやすみ、孫兵、ジュンコも」









とか、こんな流れでいつものように布団に入った。までは良かったのだ。そこから。問題はそこからだった。


「………」


"迎えにくるからね"


「………」


"山姥が"


まずい!これはまずい流れだ!!全く関係ない昔、前の世界で見た恐怖グロ画像とかゲームとか浮かんでくる!


「ま、まごへー」


縋るような気持ちで孫兵の名前を呼ぶ。


しかし、返ってきたのは安らかな寝息。僕はそーっと起き上がって孫兵の布団を覗いた。


「……寝てる?」


「……ん、……」


すぅすぅと眠る孫兵。
僕は顔を両手で覆い、ため息をつく。


「孫兵のばか……なんで僕より先に寝ちゃうのー……」


うう、まずい。
厠に行きたいのに!でも、こんなに気持ちよさそうに寝てるし、明日野外実習なんだからちゃんと寝ないとだし。


「1人で、いこう」


つぶやいて立ち上がる。大丈夫、大丈夫。いつも通りあの誰もいない廊下を進んで、真っ暗外の厠に行くだけだ。


うん、それだけ。それだけ。


「(超怖ぇえ……!)」


そ、と孫兵を起こさないよう静かに障子を開ける。明かりの全く無い廊下は本当になにが出てもおかしくない雰囲気だ。


頼りない月明かりの中。僕はどこからなにが来ても対応できるよう、慎重に足を運ぶ。


「よし……ここを抜ければもう少し……あれ?」


五年生の部屋が並ぶ廊下。その向こう側に、なにがぼんやりとした光が見えた。


なんだろう。
首をかしげながら、ゆっくりその明かりに近づく。蝋燭の明かりだ。どうやら、まだ誰かが起きていたらしい。


人がいる。ほ、として前を通ろうとする。


「お待ちなさいな」


「え?」


ぴた、と思わず足を止めてしまった。しゃがれた老婆の声だ。


「あんた、どうしたんだい。そんな青い顔をして」


「え……あの……?」


どこからか聞こえるその声に、僕はびくびくしながら周りに注意を巡らせる。狼狽える僕にはお構いなしに、老婆はヒッヒッと笑いながら言葉を続けた。


「えぇ?化け物をみた?ふぅん、そうかい。………ちなみにその化け物、こぉんな顔じゃなかったかぇ?」


「え?なに……」


「ぎゃあああーっ!!?」


「!?」


ドパンッと障子が弾けた。その音と共に飛び出してきたのは竹谷先輩で、僕はドッドッとうるさい心臓をおさえながら竹谷先輩に近づく。


「だ、大丈夫ですか?」


「ってて……あ、あれ?要?要だ」


竹谷先輩はぽかんとしながら僕を見上げている。


「あっはは八大丈夫?て、あれ。要」


「尾浜先輩?」


「こんばんはー」


尾浜先輩はへにゃ、と笑みを作って僕の頭をゆるゆる撫でる。その後ろから久々知先輩もひょこっと顔を出した。


「要、どうしたこんな晩に」


「あれ、皆さん勢揃いですか……?」


「あ、要。どうしたの?」


「雷蔵先輩まで!」


本当に勢揃いだ。どうしたんだろう。首をかしげると、僕の後ろでひゅ、と空気を切る音がした。


「いやぁなに、ちょっと怪談話をな?お前もどうだ」


振り向くと、顔のない老婆が僕を覗き込んでいた。


「にぎゃっむぐ!?」


「駄目だよー要ーこれ以上騒ぐと先生に見つかっちゃうからなー」


耳元で尾浜先輩の声がして、そのままずるずると部屋に引きずり込まれた。視界の端では雷蔵先輩が老婆を叱りつけている。


「要をからかわない!」


「へいへいっと」


老婆がくるりと回転すると、雷蔵先輩の顔に変わった。どうやら、鉢屋先輩が化けていたようだ。


「もう……やめてくださいよ鉢屋先輩」


「涙目じゃんか要」


はは、と笑って鉢屋先輩の親指が僕の目尻を拭う。


「要座れ」


「え?でも久々知先輩……」


「そーだな!座れ座れ」


「八!」


「いーじゃん雷蔵。向こうはどんな話したのか気になるしさ!な!」


「向こう?」


尾浜先輩がよっこいしょ、と腰を下ろしながら頷く。


「三年生で百物語してたんでしょ?」


「えっ!?なんで知ってるんですか!?」


「食堂で俺と三郎が聞いたんだー。で、雷蔵と八と兵助も誘って俺たちもやろうってさ」


「あ、じゃあさっきのは…」


怪談話をしていたのか。


「百物語って百話目を話し終えたらなにかが起こるってやつだよね?」


「えっなんだそれ怖っ」


雷蔵先輩の言葉と怖がる竹谷先輩に僕は苦笑して首を振る。


「それが一話目で怖くてお開きになっちゃったんです。後半はじゃんけん大会になっちゃって」


「そうか、それは勿体無い」


え?と表情を固めれば、鉢屋先輩は蝋燭で顔を妖しく照らしながら、ゆるりと笑った。


「じゃ、次の話いくぞ?」


「えっ!?あの、僕も同席ですか!?」


「だって勿体無いし」


「いやなにがですか!」


「いやぁああもう無理三郎無双もう無理俺寝れない今日寝れない!」


「寝なきゃいいじゃん」


「勘右衛門つめたい!」


「うるさい八」


「ごめん雷蔵」


そんな会話をしている他五年生を余所に、久々知先輩が僕を引き寄せて隣に座らせた。


「く、久々知先輩?」


「怖くなったら言え?」


「…………久々知先輩。あの、大丈夫ですか」


真っ青な顔でぎこちない笑顔を浮かべる久々知先輩に、僕は「あぁ……」と素直に久々知先輩に従って腰を下ろした。


「久々知先輩、僕怖くなったら言います」


「ああ、わかった」


「なんて空気が読める後輩を持ったんだろう僕は」


雷蔵先輩が僕の頭をぽふぽふ撫でて、僕は何故か終わったはずの怪談話にまた参加することになってしまった。






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