続き。(11111)

ゆっくり休め、と中在家先輩は僕の枕元に水の入った竹筒を置き、僕が「思い出しますね」と照れ笑えば掛け布団をかぶせられ布団に倒された。


「なんか、前もこんなことあったなぁ要」


そう竹谷先輩はけらけら笑って、お大事にと中在家先輩と部屋を出て行った。


「……」


しぃんと静まり返った部屋。布団に入っていると癖でいつも孫兵が寝ている左側をちらりと見てしまう。当たり前だが、孫兵はおろか布団も無い。


「うぅ」


音は無いはずなのに耳はきぃきぃと耳なりを響かせ、頭はぐわぐわと回っている。体を覆っている熱が気持ち悪かった。


孫兵が戻ってきたら、部屋を換気して僕は医務室にまた行こう。この上、孫兵に風邪をうつしたら申し訳なさで死んでしまう。


「はぁ」


町に行ったとき、具合の悪そうな人が目立つなぁと思ったらこういうことか。僕はため息をついて、意識を眠りへ無理やり突き落とした。



※※※


「では午後の授業はこれまで。小テストの結果は明日配る。解散」


あの、馬鹿。


「…」


手早く教科書をまとめて、いの一番で席を立つ。廊下に出ると、左門が向こうから走ってくるのが見えた。


「左門?」


「おお、孫兵!要のところへ行くのか!」


と言いながら僕の横をすり抜けようとする左門の首根っこをつかむ。


「そうだよ。ちなみに、要と僕の部屋はそっちではない」


「うん?そうか?僕はこっちだと思う!行くぞ!」


「左門、手を出せ」


「?」


左門が言われるまま、右手を僕に出す。僕はその手を取り歩き出した。


「おっ?おっ?そっちじゃないぞ!あっちだぞ孫兵!」


「左門、僕と君がつないでる手のなかには金平糖が入っている。離したらこぼれてどこかに行ってしまう。それが嫌なら、大人しく僕の言うことを聞け」


「えっ!?わかった!聞く!」


左門は態度と方向をくるりと変え、僕に大人しく付いて来る姿勢を取った。


力強さで左門に僕は勝てない。委員会と先輩の違いと言えばわかってもらえるだろうか、こいつを止められるのは作兵衛と言葉巧みな奴である。


「そーっと、そーっと、」


手のなかの金平糖がこぼれないよう、ゆっくりゆっくり歩を進める左門のお陰でスムーズに長屋に着くことが出来た。


僕は左門の手を下になるようひっくり返して、金平糖を渡す。


「よくやった左門。金平糖は無事だ」


「やった!ありがとう孫兵!」


「いいえ。ほら、入るぞ」


がらりと戸を開ければ、要は少し苦しそうな表情で布団に横たわっていた。


左門の嬉しそうだった表情が、歪む。似合わない表情だ。


「本当に全く、」


要の馬鹿。


※※※



真っ暗で、なにも聞こえない。自分がなにをしてるのかも、なぜそうしているのかも、わからない。


潜在意識のなかをふわふわと浮かんでいた僕は、鼓膜をたたく音に意識をすくい上げられた。


誰かの、話し声がする。


「よく寝てるなー」


「おい一緒に寝ようとすんな馬鹿三之助」


「わーん作兵衛が虐める」


「顔色ずいぶんよくなったねー。伊作先輩を呼ぶまでもないかな。薬なら僕が持ってきたし」


「途中、石に躓いて薬放り投げたときは冷や冷やしたけど」


「うん、藤内まじナイスキャッチだった。ありがとう」


「要はやく起きないかなー?僕お見舞い持ってきたんだ!」


「左門、静かに。あ」


目の奥が痛く、頭が働かない。視界に飛び込んできた数人の人間の顔を認識するのに、数秒かかった。


「みんな……?」


「おはよう要!」


「左門乗り出すなよ、危ない。要、食欲あるか」


孫兵が小さな土鍋を僕の前に置いた。体を起こそうとする僕を、数馬が支えてくれる。


「ありがとう。ていうか、あれ?みんな、お揃いで」


「まだ寝ぼけてんなー」


「むっ」


三之助に頬を軽くつままれた。その手をぺしりと作兵衛が叩いて「やめろ、病人に」と叱咤する。それを発端にか、三年生全員が口を開いた。


「全く心配したぞ。ほら、お粥。食べられるか」


「え、あ、うん」


「先生には言っておいたから心配すんな!中在家先輩も心配してらしたぞ」


「あ、ごめんなさい。ありがとう作兵衛」


「要要!僕お見舞い持ってきた!ほら、綺麗な花だろー!」


「わ、ありがとう左門。可愛いね」


「もう熱引いたのか?うりゃ、おでこの熱持ってってやるよ。僕、冷え性だから」


「ん。冷たい、気持ちい。ありがとう藤内」


「じゃあ俺も全身の熱を持ってってやろう」


「それは断る」


「えー……」


「ほら、みんな要で遊ばないの。病人なんだから。要、ご飯たべたら薬飲もうね。もらってきたから」


にこ、と数馬が微笑んでマシンガンのようなみんなの会話が落ち着いた。孫兵がお粥の乗ったレンゲを僕に突き出してくる。


「ほら、たべろ」


「え。あの、僕じふんで食べられるよ?」


「うるさい。目が焦点合ってないぞ」


「嘘」


ん、と孫兵がなおもレンゲを突き出す。みんなが居るなか、これはなんという羞恥プレイだろうか。


「……」


僕は、意を決してレンゲにぱくついた。零れないように孫兵がレンゲをすくう動作を取ってくれる。


「どうだ、屈辱か」


「えっ、孫兵なに?鬼?」


「俺もやりたい!」


今度は三之助がバッと手を上げた。素直にレンゲを渡す孫兵。いや待て!待とう!


「はい要。あーんしろ」


「…………うぅ」


「食べないとお薬飲めないぞー。ほれほれ」


仕方ない。やれば満足するだろう。さっきと同じようにレンゲを口にいれれば、三之助がなんとも言えない表情をする。


「あ、なるほど。支配欲が満たされるわコレ」


「ゲホッ!?なんてもの満たせてんの!?」


「僕もやりたい」


「悪乗りするな藤内!」


ぎゃあぎゃあと言い合いが始まり、終いには三之助が僕の寝間着を取り出して「着替えよう要」と言い出した。


「いやいいよ別に着替えなくても!!!」


「汗かいてんだろ、風邪ひくぞ。着替えよう」


「なにそれギャグ?」


「いいからほら」


「よくないからほらぁ!」


「でも汗かいてんなら着替えた方がいいのは一理あるな」


「作兵衛さん!?」


作兵衛は眉にシワを寄せて、「悪化する前に着替えた方がいいぞ」と真面目に返してくる。


「いや、いいって本当に!ちょっと何!?みんな酔ってんの!?さむ、さむい!布団取らっ……あああああ」


「こら君たち!!なにしてるの!!!」


11111!
(いやだって伊作先輩!要汗かいてるんですよ!着替えた方が!そうでしょう!?)(え?あ、まぁ、そうだけど……)(うわああああ)




11111hitありがとうございます!
すっかり遅くなってしまい申し訳ありません……せっかくリクエストいただけたのにこの体たらく……!

アミ様に捧げます。遅くなってしまい本当に申し訳ありません!リクエストありがとうございました!


ヤマネコ



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