25000!

久し振りに気の合う三年生全員で食べる夕食。そんな中、三之助がいきなり立ち上がって意気揚々と口火を切った。


「怪談話しよーぜ!」


「は?なんだよ藪から棒に」


すかさず言葉を返した作兵衛に、僕たちは相槌を作兵衛に丸投げしてもぐもぐと夕食を口に運びながら話を聞く。


「いやさーこの夏なんっっっっにもイベントが無かっただろ?」


「花火大会したじゃん」


「最後には六年生の花火バレーになってたけどね」


肩をすくめて笑いあう僕と数馬に三之助は苦虫を噛み砕いたような顔をして、「あれは怖かった」としみじみ頷く。


「怪談話かー!僕怖いのいっぱい知ってるぞ!」


「え、なに?やるの?もうやる方向でいくの?」


「なんだ要、怖いの苦手なのか?」


にやにやと嫌な笑みを浮かべているのは三之助で、僕は目を泳がせながらも返答する。


「いや、聞く分にはへい、平気だけど」


「噛んでるぞ」


「黙らっしゃい孫兵め」


「いや普通に大人しく寝ようぜ……俺はな、今日もお前ら探し回って疲れてんだよ」


「なんだ作兵衛!怖いのか?大丈夫だ!僕がついてる!」


「怖かねぇ!有り難迷惑!寄んな寄んな!」


「どーだかぁ?作兵衛は夜一人で厠行けないもんなー」


「おいてめぇ自分のこと棚に上げてんじゃねぇぞ!お前もだろうが!」


迷子に挟まれ散々いろんなところをつつかれた作兵衛は、がぁあっとそれをはねのけ三之助と左門の頭をひっぱたいた。


「あぁ上等だよ!怪談話でもなんでもやってやるわ!」


「おー!」


「やだ作兵衛男前!!」


「作兵衛ったら最近食満先輩に似てきたんじゃない?ねぇ藤内?」


「ああ。というか本当にやるのか……」


わりと冷静なは組コンビに、僕が怖くないのかと尋ねれば藤内は「怖いわけないだろ!」とそっぽを向いたが、数馬は


「まぁ………ねぇ?」


と適当に誤魔化されてしまった。


「誰の部屋でやるんだ?」


「えっ孫兵やるの?やるの?」


「要が怖いなら僕も一緒に聞いてやってもいい」


「嬉しくない!嬉しくないんだけど!むしろ反対してほしかった!」


「じゃあ風呂終わったら、俺たちの部屋集合な!」


そう締めくくり、やっと夕飯に手をつける三之助。僕はどうしようと顔を真っ青にしながら食事を口に運んだ。


※※※



「それでさ、その2人の子供は親の手伝いが嫌で家出してずっと2人で夕方になっても家に帰らないで遊んで暮らそうな!って」


蝋燭を持った三之助がぽつり、ぽつり、と恐怖を部屋に満たしていく。夕食後、ろ組3人の部屋。僕たちは一人一人蝋燭を握りしめ、三之助の話に耳をかたむける。


「夕方になっても、2人はずっとずっと遊んでた。楽しくって楽しくってたまらなかった。そして日が沈みかけた頃ようやく、どこか夜をこせるところを探さなきゃいけないことに気がついたんだ」


「親はまだ探しに来ねーのかよ……俺は出てった時点で探しに行くぞ…」


「たぶん作兵衛だけだよそれ」


三之助は誰の話だと首をかしげて、続きを紡ぐ。


「でな?山の近くの畑に物置のためか小さな小屋があったんだ。開けたら中には誰もいなくて、ここなら大丈夫だろうと2人はその小屋で夜を過ごすことにした」


小屋の壁はところどころに穴が開いていて、真冬だったら凍え死んでいただろう。少年2人は小屋の壁にもたれかかって、楽しげに鍬(くわ)や鋤(すき)なんかをいじくって遊んだ。


その瞬間だった。


「こう……ズルッ…ズルッ…って」


三之助が自分の下に敷いていた座布団を、畳の上で引きずる。ズルリズルリ、といつもは何にも感じない音が鼓膜に張り付いた。


「なにかを引きずる音が、小屋の外で聞こえるんだ」


ごくり、と誰かが唾を飲み込む。沈黙が三之助に話の続きを促す。


「2人は何だろうと思って、音のする外を壁に開いた穴から覗いてみた」


ズルッ……ズルッ……


音は続いている。
見れば髪がボロボロで土色に汚れた肌の腰の曲がった老婆が1人、小屋の周りをぐるぐるなにかを引きずって歩いていた。


「引きずっていたのは、老婆より一回りくらい小さい麻袋だった。で、老婆はなにかぶつぶつ言いながらやっぱり小屋の周りをぐるぐる回ってんだ」


「え……位置ばれてるんじゃないの、それ」


「いるのはわかるけど、どこにかはわからないって感じだな」


「孫兵なんでそんな冷静なの?庄左ヱ門くんが化けてるの?」


「こ、こんなのが怖いのかよ要。なぁ数馬?」


「藤内、さっきから裾掴まないで」


「で!で!どうなるんだ!」


「そうそう、孫兵のは当たりでさ。老婆は"どこじゃ……どこじゃ……"って呟いてるのを2人の1人が聞き取ったんだ」


まずいと少年は思ったが、恐怖で足が竦んで動けなかった。逃げなくては、という思いだけが走って足がついてこない。


「そして不運にも、無理やり動かした震える手が近くの鍬を倒してしまった」


その瞬間、少年たちの震えは止まったが同時に、老婆の足音が真っ直ぐ小屋の扉に向かうのが聞こえた。少年はもう1人の少年の腕を掴んで、近くの藁の山に飛び込んだ。


飛び込んだと同時に老婆が扉を開けた。少年たちが息を殺す。


「おいで……出ておいでな……怖くない……おいで」


ぼそぼそと老婆がつぶやく声が聞こえる。少年の1人はこっそり、藁の隙間から様子を窺った。


「!」


少年は息を飲んだ。
あの麻袋が少年の目の前に転がっている。そして、継ぎ接ぎだらけのその袋からは


「子供の手が飛び出していた」


三之助が無表情でそう告げる。麻袋から飛び出した子供の手。あ、ちょっと待って怖い。普通に怖い。


そのうち老婆は倒れていた鍬を持ち出して、狂ったのように藁に叩きつけ始めた。それを合図にしたかのように、麻袋から悲鳴が響き始める。


子供の悲鳴が麻袋から溢れ出して、少年たちの背中を押した。もう限界だった。少年たちは藁から飛び出すと一目散に走り出す。


「後ろからは鬼のような老婆の声。少年2人はただただ家へ家へと走って逃げた。そこで2人は母親から教えられていたことを思い出した」


"いいかい、山でいつまでも遊んでいては駄目だよ。迎えにくるからね"


「山姥が」


ふ、と三之助は蝋燭を吹き消した。


「あ、駄目、無理」


僕は蝋燭を置いて隣の孫兵の肩に頭をうずめる。


「どーだ!怖かったろー?かくいう話してる俺も、ひ、膝がガクガクだ!」


「うあー!そういえば、僕も母さんからそういうこと言われたような気がする!」


「左門もか。俺もこの話、母ちゃんから聞いたやつなんだ」


「三之助も?」


「うん」


孫兵は顔をうずめる僕の頭をぽんぽんとたたく。


「毒蛇が布団に侵入してるのにぐーすか寝てるやつがなに怖がってるんだよ」


「嫌、無理、本当に無理。今もその押し入れの中とか山姥居そうな気がして無理」


「おいやめろ」


「だから裾を引っ張らないでよ藤内。でもすごい怖かったね……麻袋のなかの子供の悲鳴とかその麻袋のなかには実は何人か入ってて……とか考えちゃうよ」


「やめてえええええ」


ぶんぶん首を振る僕に、数馬が「うん言わなきゃ良かった」と青い顔で頷く。


「なぁなぁじゃんけんで、負けた人が押し入れ開けてこようぜ……」


「「「は!?」」」


三之助の突然の提案に、僕とは組コンビが目を見開いた。見れば三之助と作兵衛が青い顔で肩を組んでいる。


「いやだって考えてみろよ。なぁ作兵衛」


「俺たちそこから布団取り出さなきゃいけねぇんだぞ……」


「「「……」」」


「なぁ孫兵、ジュンコはー?」


「乱闘になったりしたら怖いから、部屋で休ませてる」


ほのぼのと話す左門と孫兵を巻き込み、じゃんけん合戦が始まった。







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