11111!

足の軸から、ぐらぐらとぶれていく感じがした。


なんとなく朝気怠い感じはあって、でも今日は大事な小テストがあって、そのためにせっかく孫兵と勉強したのに勿体無かったから。


それに今日は雷蔵先輩との図書当番の日だし。あと今日は人気の唐揚げ定食だって、左門が喜んでたし。


ええと、それで、だから、


「要っ…!?」


うん?どうしたの作兵衛。そんな真っ青な顔して。怒ったり青くなったり忙しいんだから、作兵衛は……


ぐるんっとひときわ大きな揺れがきた僕の脳に、足は支えることが出来ずに、ぐらりと崩れた。



※※※



「おかしいなぁ、もう要来てると思ったのに」


いつも自分より幾分かはやく来て準備をしているはずの後輩が、今日は珍しく遅刻のようだ。


貸し出し帳簿に記入しながら、ちらちらと入り口の戸を見やる。いつも時間をきっちり守るせいか、嫌に遅刻の理由が気になってしまう。


一体、どうしたんだろう。


「んー…捜しに行った方が良いかなぁ。もしかしたら綾部の落とし穴に落ちてて抜け出せないのかもしれないし……いや、でも今日の図書当番は僕と要だけだから僕がここを離れるわけにはいかないし、うーんうーん」


は、違う違う。
優柔不断を発揮してるバヤイじゃない。


「雷蔵っっ!!!」


「っうわ!?」


思考にどっぷり浸かっていた僕は、突然呼ばれた自分の名前に思わず盛大に肩をびくつかせてしまった。


「び、びっくりした……どうしたのハチ」


「大変なんだ!要が、急に倒れて!」


「え…?」


ぴたっと止まった思考に、急速に結びつけられる要が当番に遅刻した理由。


「どういうこと!?なにかあったの!?」


「聞いた話じゃ、治療法が無い流行り病でっ……もしかしたらもう話すこともって…!」


「そん、な……こと、」


なに?なに?どうして?
一体なぜ、なぜ、僕の後輩が……!


「要いまどこに…!」


「医務室!」


最後まで聞き終わらないうちに図書室を飛び出す。要、要、要…!


ハチもその後ろから付いて来て、僕たちは医務室へ少しでもはやくと足をめちゃくちゃに動かした。



※※※


「ほんっとにすみませんでした……!」


医務室で気を取り戻した僕を有無言わず抱きしめた中在家先輩に、作兵衛は何故か土下座をして謝っていた。


「え?え?」


状況がわからず、されるがままの僕に僕の頭の上で中在家先輩がぽつりと呟く。


「驚いた……」


「すみませんんん伊作先輩に流行り病だって聞いて要目覚めないしもう助からないんじゃないかって思って中在家先輩の前で取り乱したりして本当なんていうかもう!!!」


どうやら倒れたらしい僕を医務室に運び、善法寺伊作先輩に流行り病と診断された後、いつもの彼の被害妄想が暴走したらしい。


僕は申し訳ないなぁと思いながら、ぐらぐらする頭にぎゅっと目をつぶった。


「それで……伊作はどこに……」


「中在家先輩…あの、すみません…苦しい…です」


「……」


苦しいと訴える僕の言葉に、中在家先輩は意地悪をするように抱きしめる腕に力を込めた。


「心配した……」


「う、すみません。朝ちゃんと医務室に行くべきでした…」


「大丈夫か!要!」


「作兵衛も迷惑かけてごめんね……もう大丈夫だから」


「うわー良かったー!」


「中在家先輩もすみませんでした。心配をおかけしてしまって……」


中在家先輩は僕を離して、いつものようにゆるゆると頭を撫でてくれた。


「もう大丈夫です。それより、うつしてしまいますから」


「要っ!!!!」


バンッと勢い良くひらいた障子から、切羽詰まった雷蔵先輩の姿が現れた。


「っ、要!大丈夫!?あの、僕!」


中在家先輩と作兵衛が目をぱちくりさせて見守るが、雷蔵先輩はその2人が目に入っていないようで、真っ青な表情のまま僕の前に膝をつく。


「目が覚めたんだね?どこか痛い?」


「要!」


雷蔵先輩の震える両手がするりと僕の両頬を包む。僕が口を開こうとしたが、遅れて登場した竹谷先輩がそれを拒んだ。


「起きてても平気なのか」


「要、」


「!?」


やはり竹谷先輩も真っ青な表情だ。そしていきなり、僕の名前を呼んだかと思うと雷蔵先輩がぽろぽろと泣き出してしまった。


「僕が泣いたって仕方ないのに、ごめんねぇ、要、ぅ……」


「あ、あの」


「だってもう要は喋れ………あれ?」


「喋ってる!」


「いやそりゃ喋りますよ!どうしたんですか2人して?」


「う、うわああああ良かったー!!なんともないんだね!?」


「はい、流行りの風邪に掛かっただけです。ご心配おかけしてすみません、あの委員会も……」


眉を下げれば、竹谷先輩はホッとした顔をして「良かったぁ俺の聞き間違いかぁ」とこぼした。


「委員会当番は……私が代わろう……」


「あ、中在家先輩!」


「いらっしゃったんですか」


ぱちくりと目を瞬かせ、雷蔵先輩は我にかえり慌てて涙を拭った。ゆっくり立ち上がり、中在家先輩が僕の背中をさする。


「ここはたくさんの生徒が来る……伊作に許可を取るから…部屋で休むのがいい……」


「そうですね。すみません、みんなに迷惑をかけてしまって」


「もう、心臓に悪いよ要」


「ていうかたぶんその聞き間違いの発端俺です……」


がくっと前屈みに手をつく作兵衛に、竹谷先輩は「お前かー!!」と作兵衛の頭をわしゃわしゃと探ってけらけら笑った。


「作兵衛、三年の先生に要のこと知らせてやれな?」


「うぅ……本当にすみません先輩方……」


「気にするなって!見る限り作兵衛が側にいたから要をちゃんと医務室に運べたんだろ?偉かったな」


「そうだよ。ありがとう、作兵衛」


「へへ……」


作兵衛が照れたように笑い、僕も微笑み返す。顔の熱や痛みはひかないが、みんなの気遣いが嬉しい。


「さて…」


「!?わっ」


瞬間、ふわりと視界が宙に浮いた。中在家先輩は涼しい顔で僕を横抱きに抱え直す。


「部屋に行こう。雷蔵、委員会へ。……あとで私も行くから」


「あ、はい!」


「じゃあ俺、布団敷きますよ。作兵衛、先生に伝言を頼んだぞ。そのまま午後の授業に行って大丈夫だ」


「はい!お願いします!要、見舞いに行くからゆっくり休めよ!」


すちゃ、と手を上げて医務室を後にする作兵衛、僕の頭を一撫でして雷蔵先輩も委員会に戻った。






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