7500!

※ららるら主現代パロディ


「はい、どうぞー」


「す、すみません。お邪魔します」


7500!
(さくさまへ!)


まさか憧れの雷蔵先輩の部屋にお邪魔できると思っていなかった僕は、もう緊張と喜びとで完全に混乱していた。


手に持った途中で買ったケーキ屋さんの箱を落とさないよう両手でしっかり持ち、そろそろと部屋に上がらせてもらう。


本当に"まさか"だった。
本屋さんで参考書を買うのにうろうろと迷っていると、後ろから委員会の先輩である雷蔵先輩に声をかけられたのだ。


「やぁ、要。偶然だね」


「雷蔵先輩!こんにちは!」


「うん、こんにちは。なんの本を探してるの?」


「あ、英語の参考書です。でも僕、参考書買うの初めてなので、どれが良いかわからなくて」


「そっかぁ、ちゃんと勉強してるんだ。偉いね」


ゆるゆると頭を撫でられて照れ笑いを浮かべる。雷蔵先輩は並ぶ参考書の背を指でなぞりながら、「うーん…」と声を漏らした。


「そうだなぁ…こっちのは授業についてくには十分だけど…うーん…あ、でも単語覚える分には発音が書いてあるこっちの方が良いかなぁ…」


あ、でも。あ、でも。
と雷蔵先輩がどんどん棚の奥へ移動していく。同時につつつ、と指も上や下、横に滑っていく。


「あ、でも参考書は自分のレベルに合わせた方が良いのかなぁ。それとも授業内容に合わせるべき?ああ、でも…でも…」


「あの…雷蔵先輩…?」


「この参考書はずいぶん僕もお世話になったっけ…ああ、でもこれは要の学年のじゃないし…うーん、」


「雷蔵先輩ー」


「うーん、うーん、うーん…?」


「…」


僕が尊敬して憧れる雷蔵先輩だけど、先輩には"悩む"という悪い癖がある。いろんな参考書を手にしては首をひねる雷蔵先輩に、僕は苦笑して自分も参考書を手に取った。


「あ、そうだ!要、うちにおいでよ!」


「え?」


ぽん、と手を打ってなんの脈絡もなく雷蔵先輩がそう言った。思わずぽかんと雷蔵先輩を見上げると、先輩は手に持った参考書を置いてはにかみながら答える。


「うちの部屋にたくさん参考書があるんだった!これから時間ある?」


「あ、はい…」


「じゃあ今からおいで!」


とまぁ。そういう流れで、僕は今あの雷蔵先輩のお部屋に足を踏み入れているのであった。


「飲み物オレンジジュースで良いかな」


「あ、はいっ」


「ふふ。そんな緊張しなくて良いよ。なにも取って食おうってわけじゃないんだから」


「えっと…すみません」


動揺し過ぎだ僕。いやでも気持ちはわかるぞ僕!


「はい、どうぞ」


「ありがとうございます」


「ちょっと待ってね。あっちの部屋にまとめてあったと思うんだけど…」


オレンジジュースの入ったグラスを渡して、雷蔵先輩は奥の部屋に入って行った。たくさんある参考書とやらを取りに行ってくれるんだろう。


僕はドキドキしながらグラスを両手にはさんで煽る。雷蔵先輩…アパートに一人暮らししてるのかぁ。すごいなぁ、格好いいや…


キョロキョロ、と失礼ながら周りを見渡すと、なんだかおしゃれなコンポが置いてあったりして、更にドキドキしてしまう。


「(うわぁ、うわぁ、)」


その横には壁に埋め込まれた本棚があり、色の違う背表紙がずらりと並べられていた。さすが雷蔵先輩、中在家先輩に続く本の虫である。


そわそわと落ち着かなくて、また両手でグラスを煽ると、玄関のドアがガチャリと開いた。


雷蔵先輩のお部屋は玄関からすぐ室内に続く構造になっている。ドアが開いて見えた顔は。


「ただいまー」


「…は、は、は、は、」


鉢屋三郎先輩だった。
いつもなにかと僕を追いかけ回しては楽しんでいる雷蔵先輩と瓜二つの僕が苦手な人物。


ち、ちょっと待って?
今この鉢屋先輩おかしなこと言わなかった?


ただいまって、言わなかった?


「うわあぁああぁ!なんで!要じゃないか!!」


「ひっ」


僕を見るなりぱあっと顔を輝かせる鉢屋先輩。ブーツを脱がないまま、ダダダッと四つん這いになって僕の元へ寄ってくる。


「なんで俺の部屋に要が?なに?遊びに来てくれたの?俺のために?」


「な、な、違いますよ!なんで僕が鉢屋先輩のためなんかに…違いますから!」


「ツンデレさんめ!」


「ぎゃああっ」


鉢屋先輩に抱きつかれて、僕より大きな体の鉢屋先輩に抵抗できるわけもなく、あっけなく倒れる。空のグラスがゴロンと転がった。


「や、何するんですか!あなたは本当になにを考えてるんですかぁ!」


「お前は可愛いなぁ相変わらず」


「嬉しくありません!ときめきません!絵面がむさ苦しいです!」


精いっぱいの抵抗をするがこの人ぱっと見は細身なのにどこにこんな力があるんだ。押さえられた腕が動かない。それを良いことになにを考えているのか、鉢屋先輩が僕のシャツに手を突っ込んだ。


「やっ…!?」


「お前ほっそいなー。なに部だっけか」


「いゃっ…ちょっとなにを…ひ、くすぐった…」


ガチャッ


と。扉が開いて。僕にとっては救いの神がにこにこと微笑みながら鉢屋先輩の名前を呼ぶ。


「三郎。君は靴も脱がないでなにをしてるのかな?」


「や、やぁ雷蔵様…いらっしゃったのですかー…」


「なにをしてるのかな?」


「いや、ほら、可愛い後輩にはちょっかい出したくなるというか…苛めたくなるというか…」


「なにをしてるのかな?」


「はいすみません」


あっさりと鉢屋先輩は僕を離してくれる。雷蔵先輩は眉を下げて、少し外れてしまった僕のシャツのボタンを閉めてくれた。


「ごめんね、大丈夫だった?」


「大丈夫です…慣れてますから…」


ははは、と乾いた笑みをこぼすと、雷蔵先輩は「全く三郎は」と鉢屋先輩を睨んで大きな紙袋を僕の前に置いた。


「あれ、それ兵助が置いてった参考書じゃん」


「そうそう。要が参考書が欲しいらしくて、これなら兵助のだし気軽に試せるかなぁって」


「え?でも良いんですか?久々知先輩のなんですよね?」


「大丈夫じゃないか?あいつの部屋狭くて本が入りきらないから、ひとまずってうちに置いてあるだけだしな」


「うちは収納スペースは多いからねー」


「あ、あの、雷蔵先輩と鉢屋先輩は…」


おそるおそる尋ねると雷蔵先輩がにこっと微笑んで答えた。


「僕と三郎、ルームシェアしてるんだ」


「ああ、そうだったんですか…」


なるほど。納得だ。


「びっくりしたー。帰ってきたら要がいるから」


「だからってセクハラして良いわけないよね三郎」


「すみませんでした」


鉢屋先輩が顔を青くしながら何故か雷蔵先輩に謝る。そして、僕に視線をうつして手を打った。


「そうだ要。今日おわびに夕飯食べてけよ。俺が美味しいの作ってやるから」


「え?鉢屋先輩が?」


「こう見えても料理は僕より上手いんだよ三郎。手先が器用だからかな?」


「雷蔵が大ざっぱなんだよ」


「ご馳走になって良いんですか?」


「おわびおわび」


がしがし、と頭を撫でられて、僕は思わず頬をゆるませながら応えた。


「楽しみです!」


「…要の好きなもの作ってやろうか」


「えっほんとですか!?わあ、どうしよう、えっと…」


「(可愛い…)」


でれでれと僕を撫でる鉢屋先輩に、雷蔵先輩はため息をつきながら携帯電話を取り出した。


「全く、そうやって可愛いがれば要も威嚇しないのにね」



7500!
(あ、もしもしハチ?今から夕飯食べにこない?要もいるよー)(おーい兵助、勘ちゃん。要がいるから夕飯食べに来ないかってー)(要?行く)(ご飯ー!行く行く!)


おまけ



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