立花仙蔵

※男主注意


「うええっ…立花せぇんぱぁ…!」


「…要」


自分の胸で泣く後輩に、私は苦笑して頭を撫でてやった。


泣き虫なこの後輩は、二年生の特徴のようなもので強がりなところがある。頑張り屋なのだが、ストレスを内側に溜めてしまい上手く外に出すことのできないタイプだった。


初めて出逢ったときは手裏剣を持ったままうつむいていた。強がって「なんでもないですから!」とそっぽを向いたが「手裏剣が上手く的に当たらないのだろう?」と核心をつついてやれば、唇をかんでぽろぽろと涙を零す。


「私が教えてやろう。もう泣くな」


「…っ…は、い」


要を気にかけるようになったのはそれからだった。要が1人のときは声をかけ、話し相手になってやった。見え隠れする核心をつつくと、面白いくらいにじわりと涙が要の瞳に浮かぶ。


それを必死に押さえ込もうとする姿が愛しくて、私は緩む頬をおさえながら「私の前でなら泣いても構わないだろう」と言い聞かせた。


要がその言葉に甘えるようになった途端、ストレスが溜まると私の部屋へ飛んできて制服でも寝間着でも関係なしに私にしがみついて泣くようになった。


「要、そんなに泣くな。せっかくの可愛らしい顔が台無しだぞ」


「…可愛いなんて…嬉しくありませんっ!」


「そうか?ふむ。ではなにを言えば要は笑ってくれるだろうな」


「…っ…」


「ゆっくりでいい。話せ。聞いてやる」


震え途切れる小さな声でぽつりぽつりと要のストレスが現れる。相槌の代わりに背中をさすってやると、要は小さく嗚咽を漏らしてまた泣き始めた。


「うぇ、ぇえ…」


「?仙蔵?」


戸を開けたのは同室の潮江 文次郎だった。私が顔を上げると、文次郎は要に視線をやってため息をついた。


「またか」


「まぁな」


「おい要!いつまでもめそめそと…」


「しおえせんぱ…?」


いつもの調子で後輩を叱ろうとした文次郎に気がついた要が、ぐしゃぐしゃのまま顔を上げた。すると、文次郎の動きはぴたりと止まる。



「……なぁ、仙蔵」


「なんだ」


「なぜ俺はこいつを前にすると叱れなくなるんだ」


「…知るか。はやく布団を敷け。私の分もな」


「へいへい。要、遅くならないうちに帰れ」


呆けている要の頭をガシガシと撫でて、文次郎が布団を引っ張り出し始めた。


「潮江先輩、どうしたんですか…?」


「さぁな。あーあ、綺麗な髪がぐしゃぐしゃになってしまったな」


手櫛で整えてやると、くすぐったそうにして要が笑う。


「そんな風に笑うのも、ぐしゃぐしゃになるくらいに泣くのも。私の前だけだな、要」


「…ご迷惑、ですか?」


窺うような視線を向けられ、私は要の頬に手のひらをするりと滑らせて微笑んだ。


「いや?私が許可したのだから迷惑ということはない。…よしよし落ち着いたな、さぁ部屋に戻れ」


「…っはい。おやすみなさい、立花先輩」


潮江先輩も失礼しました、と頭を下げてパタパタと廊下を走る音が聞こえた。


「随分、入れ込んでるな」


「ああ」


私は文次郎の方に顔を向け、妖艶に唇で弧を描いてみせた。


「あれは、私の物だ」


あれは私以外に弱みをみせてはいけない、あれは私以外に寄りかかってはいけない。


私がいなければ生きていけないというほどに、私を欲すらなければいけない。


「なぁんて」


「…お前な」




ため息は弧を描く。
依存してるのはどっちなんだか。



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