五年生※現パロ ※現パロ。みんな小学校低学年。 「うーわーあー!」 ジュース取ってくるね!と階段を降りて行った雷蔵の悲鳴に一番に反応したのは三郎だった。「どうした雷蔵!」と飛び出していった三郎に、じゃれ合っていた八と勘ちゃんも雷蔵の漫画を一緒に読んでいた私と兵助も目を丸くする。 "今日、おかあさんとおとうさん、夜にならないと帰ってこないんだ" 寂しそうにうつむく雷蔵に「じゃあ俺たちが一緒にいてやる!」と勝手に三郎が決めたことで、私たちは雷蔵の家に遊びにきていた。 「どうしたんだろ?」 「いこう要」 「あっ待てよ兵助!」 私の手を取ってすたすたと歩き出す兵助を、慌てて勘ちゃんと八が追いかけた。一階の廊下に降りるとふるふると震える雷蔵とホウキを構える三郎がいた。代表して呆れ顔で私が尋ねる。 「…なにしてんの?」 「要っ…」 目に涙をためて雷蔵が飛びついてきた。ぱっと離れた手に、兵助が「あっ」と声を上げたような気がするけどそれより今は雷蔵だ。 「なんだなんだ!」 「どうしたー?」 遅れてバタバタ階段を降りてきた2人に、「ぎゃああ!」と声を上げて三郎が怒鳴る。 「ばかんえもん!ばかはち!ドタバタするな!」 「なんだよ?」 ばかはち呼ばわりが気に入らないらしく、八が眉をひそめる。すると雷蔵が震える手で壁を指差した。 「「「「…」」」」 沈黙。と同時に私たち4人は事態を完璧に把握した。その壁にはそれはもう見事なG様がいらっしゃったのである。それに向かってホウキを構える三郎の腕がふるふると震えている。八と勘ちゃんは、さっきのドタバタが嘘のように動きもぎこちなく階段を降りた。 「どうしよううう…」 「な、泣かないでよ雷蔵…」 「ううう…」 私の言葉にいやいやと首を振ってなおもしがみつく雷蔵に、私はちらりと兵助をみた。すると兵助は眉を歪めてピッと手をあげてみせる。 「雷蔵、さっちゅうざいは無いのか?」 「おお!さすが兵助!」 「八!大声だすなよ!雷蔵、さっちゅうざいは?」 「え、えっと…」 勘ちゃんに尋ねられて雷蔵がうーんうーんと首をひねる。そして「あ!」と声をあげてリビングを指差した。 「リビングの棚にあったと思う!」 「「「「「…」」」」」 またもや訪れる沈黙。 そりゃそうだ。そのリビングに行くにはG様がいらっしゃるその壁の横を通って行かなきゃならないんだから。 「は、八…」 「なんでおれなんだよ!」 思わず震える声で八の名前を呼ぶと、すかさず八が胸の前で×印を作ってぶんぶん首を振る。私は雷蔵を抱き留めたまま、八にたたみかけた。 「だって八、いきもの係りじゃん!」 「!!」 ピッシャーン!と八の背景に雷が落ちたような気がした。 「そうだ八!お前いきもの係りだったな!」 「ゴキブリもいきものだな」 「「行け」」 「勘ちゃん兵助!?いくらなんでもゴキブリは無理だってぇ!」 「ああああ騒ぐなお前らああ!ゴキブリ様の前足が動いたぞ今あああ!」 「「「「「!?」」」」」 三郎の言葉にピタッとみんなの動きが止まる。ぎゅっと雷蔵の私にしがみつく手が強くなった。私はきっとG様にらみつけて口をひらく。 「公平にグッパーにしよう」 「グッパー…?」 「じゃんけんで一人で行くのは怖いから…数が少ない方が取りに行くってことでいいよね?」 こくこく、と頷く五人。私たちは円になって「せーの!」のかけ声と共に手を突き出した。 パー 勘ちゃん 兵助 雷蔵 三郎 グー 私 八 「うわあああやっぱ俺かよううう!」 「ぐっ…ぐずぐず言わない!い、いこう八!」 「!」 雷蔵を勘ちゃんに預けて、ぐっと八の手を握る。びっくりしたような顔の八。でもすぐに手を握り返した。 「気をつけろよ八…」 「背後に気をつけろよ八…」 「あんま調子乗んなよ八…」 「なんなんだよお前ら!」 三郎、勘ちゃん、兵助が神妙な表情で八と私を送り出す。またホウキを構える三郎に、私たち2人はG様の横をそろーっと通り抜けた。 「ううー…良かったぁ…」 「要、て、手…」 「え?うわっ。なんで手が汗でベタベタなの八!?」 「し、仕方ねーだろ!」 「もうー…あ!あれじゃない?」 鶏のマークがついたスプレーをみつけて、私と八の表情がパッと明るくなる。それを手に取り、あったよー!と廊下のみんなにみせるとみんなも表情が明るくなった。 「じゃあ八!お願い!」 「!お、おう。そのかわり、ちゃ、ちゃんとみてろよ!」 「う?うん?」 八はごくりと唾を飲み込んで、スプレーを構えてじりじりG様に近づいていく。G様の真下につくと勢いよく腕を突き出した。 「うらあああ!」 シュウウウ! これはここで初めて知ったことなんだけど、皆さんご存知ですか?ゴキブリって、羽があるんです。ええ、つまり。 飛ぶんです。 「わあああ!?」 ブゥン!という音と共に殺虫スプレーを吹きかけられたG様はなにを考えてらっしゃるのか雷蔵目掛けて飛んだ。 「やあああ!?」 「っ…雷蔵!」 すかさず三郎がホウキをG様に向かって、野球のバットの要領で勢いよく降った。G様が壁に吹っ飛ぶ。八はそのG様にまたスプレーを吹きかけようしたが、その刹那G様がまた羽を広げ宙を飛んだ。 私のいる方へ。 「えっ…きゃああ!?」 「要!」 すかさず反応したのは勘ちゃんだった。廊下を走って私の手を引く。私は勘ちゃんに向かって倒れ込む、その頭上をG様が飛んで行った。 「うおりゃああ!」 私を抱きしめたまま、勘ちゃんの渾身の蹴りでリビングの外開きのドアがバターン!と音をたてて閉まった。 「う、う、うわああみんな怪我ないいい…?」 泣きじゃくりながら雷蔵が私に飛びつく。勘ちゃんも怖かったようで私をぎゅううと抱きしめたまま離さない。これじゃサンドイッチ状態だ。 「ごめんん要…お、おれがっ…スプレーかけたからぁ…」 「違うよぉ…はちは、かっこよかったよ…」 「泣くなよ要ー…」 「三郎だってっ…泣いてんじゃあ…うぇえ…」 「要ー泣かないでぇ…」 「雷蔵が一番泣いてるよ…!」 ぐずぐずと私たち5人が笑い合うと、兵助がやってきて雷蔵と勘ちゃんを私からべりべりとはがした。 「要、なくな」 「兵助はなんで泣いてないのよぅ…」 「もっと心配なことがあるからだ」 「心配なこと…?」 頷くと兵助は私たちの後ろのリビングの扉を指差した。 「ゴキブリ、リビングに入ってっちゃったけどいいのか?」 一難去って、また一難。 (は、はち…!)(だからなんでおれなんだよ!?)(いきもの係りだから!) ※ブラウザバックでお戻りください。 |