間違い探し02 おばちゃんと別れ、私は見失ってしまった要の後を追いながらやはり考えていた。 要の"アレ" 要の"癖" 「うーん…?」 そういえば、要と初めて会ったときも今みたいな感じで資料を抱えていたっけ。仕事を押し付けられ…やすい?いや違う。 "いえ、先生が大変そうだったので" 「あー…わからん!」 思考がまとまらない上に答えが見つからず、がしがしと頭をかきむしる。しかしその手はガシャン!という盛大な音によって、ピタリと止まった。 「うわぁあん!」 廊下から外へ視線を向けてみれば、水色の忍服。わぁわぁと膝をついて泣き叫ぶその子の足元には、たくさんの手裏剣が散らばっていた。あー運んでる最中転ぶかなんかしたか、と判断した。この時期、あの水色の忍服の子達はとっても不安定になる。 親元が恋しくなり、ちょっとしたはずみで泣き出すと止まらない。私もよく、泣きじゃくる雷蔵を慰めていた記憶がある。仕方ないことなのだ。 「(まぁ、気持ちはわかる。他人事ではないよな…)」 縁側から降りて、その子の元に走り寄ろうとした私の足がまたピタリと止まった。同じ水色の忍服が視界に入ったからだ。手に資料を持ったまま、駆け寄るそいつは紛れもなく要だった。 「大丈夫!?怪我してない!?」 「うぅ…ええぇ…」 「どこか痛い?ゆっくりでいいから、ね?大丈夫だよ」 資料を片手で支え、開いた手を一年生に伸ばす。が、一年生はその手をピシャリとはねのけ、要を睨んだ。 「要らないよ…!…ぼ…く、ッ…忍者に向いてないんだ…すぐ、っ…ドジ踏むしっ…!忍者失格なんだよっ…!」 泣きじゃくりながら要を睨む一年生に、要は資料の束を片手で抱えたまま、なにを思ったのか笑い出した。私も一年生も眉をひそめる。 「なに笑ってんだよ!」 「だって…きみ、僕と同じ一年生でしょう?まだ学園に来たばっかりじゃないか、なのにいきなり手裏剣が使えるようになるわけないよ。そうでしょ?」 「…っ」 「なにも焦ることないよ、まだ六年もあるんだから。僕なんて手裏剣が的に当たったことないよ?きみは?」 「一回、だけ…」 「えっ!?当たったことあるの!?おかしいよ、なんで一回も的に当たったことがない僕が、的に当たったことのあるきみを慰めてるの?」 眉を下げる要に、一年生は虚をつかれたような顔をして要の顔を見つめる。見つめあう二人はやがて、吹き出すと弾けるように笑い出した。 「そうっ…だね…!おかしいや!」 「そうだよ。おかしいよ?よし、手裏剣拾っちゃお。用具庫に戻すんでしょ?」 「うん。あれ?その資料は?いいの?」 「いいよ。急ぎじゃないから」 片手で器用に手裏剣を拾う要。全ての手裏剣を拾い終えて、一年生は木箱を抱え直すと、要に手を振りながらぱたぱたと用具庫に走って行った。 それを見送って、要も慌てたように事務室に走り出す。急ぎじゃないと言ったのは、一年生を気遣ったためか。 「(あぁ、そうか)」 わかった。 要の"アレ" 要の"癖" 「あいつ、超お節介なんだな」 口に出してくくっ、と笑い声が漏れる。誰かが困っていたら絶対に見捨てない。それが誰であろうと手を差し伸べる。 どこでついたかはわからない、要の"癖" 「へんなやつ…!」 もう一度にやっと笑って要の後を追えば、要は事務室の前で立ち往生していた。 片手で事務室の戸を力いっぱい横に引こうとしてるが、建て付けが悪いのか開かないらしい。 「んーっ…ん、!」 「どうした?」 初めて声をかけたときのように、今度は"不破雷蔵"ではなく"鉢屋三郎"で。そうしたら、要はくるりと振り向いて、少し驚いたような顔をして。 「鉢屋先輩」 「建て付けが悪いみたいだな、開けてやる」 「あ、すみませ…っ?」 謝ろうとする要の頭に、反射的に手を置く。驚いたように目を丸くする要に、私はにやっと笑った。 「私が好きですることだ。気にするな」 「え?あ、えーと…ありがとうございます…?」 「そうだ、それで良い」 「?」 少しわかった、要のこと。こいつは"お人好し"で"お節介"で 「ありがとうございます、鉢屋先輩」 私を、"不破雷蔵"と間違えない。 一ノ瀬要という一年生のこと。 (要って、なんで私が三郎だってわかるんだ?)(え?え、え、えーと…あの、うーん…?)(まさか勘か?)(たぶん…)(…) * 鉢屋三郎、一年生篇で書いてみましたが如何でしたでしょうか?いつもの鉢屋と主くんを書くのも良いかしらと思ったのですが、鉢屋と知り合ったその後を書いていないことに気付いて、急遽変更しました。 さくさま、リクエスト企画ありがとうございました!お楽しみいただければ嬉しいです。 ヤマネコ ※ブラウザバックでお戻りください。 |