もしくのたまだったら

要くんがくのたまだったら、という設定です。嫌な予感がしたら逃げて下さい。


ちまっこい女の子が、よく学園じゅうをひょこひょこ歩いては、困っている人にお節介を焼いているのは知っていた。


「小松田さん!」


「あ、要ちゃん。どうしたのー?」


「そんなにたくさんの書類を一気に運んだら駄目ですよ!私が半分持ちますから!」


「え?でも…」


小松田さんが眉を下げたのは、彼女のちいさい体では半分とはいえ、荷物を運ぶのは大変じゃないだろうかという心配からだろう。


「大丈夫!私、最近実技でシナ先生に褒められるんですよ!筋肉がついてきたって!」


「わぁ、それはすごいねぇ。じゃあ、お願いしちゃおうかな」


「はいっ」


よろめきながら資料を受け取る女の子。小松田さんがオロオロしながら女の子の持つ資料を支える。


「だ、大丈夫?要ちゃん。やっぱり僕が…」


「大、丈夫です、!」


「えぇえ…でも…」


「小松田さん、重そうですし、半分です、から!」


「うわぁあ僕が言うのもなんなんだけど、心配だよぉお」


「、っと、大丈夫、ですよ!」


「うーん…でも…」


「小松田さん」


気が付いたら、俺は声をかけていた。要の肩がびくっと震え、小松田さんがきょとんと俺を見つめる。


「久々知くん?」


「俺が運びますよ。他の仕事もあるんでしょう?」


「え、う、うん」


「いま暇なので、遠慮せず任せてください」


「ほんと?じゃあお願いしようかな。書庫まで運んでください」


「はい」


資料を受け取ると、よろしくね!と走って行った。あんなに慌てて走ったら転ぶと思うけど、と思った矢先にどてっと小松田さんが転ぶのが見えた。


「じゃあ行くか」


「は、はい」


「一ノ瀬」


「はいっ!?」


びくんっと肩をすくませる一ノ瀬に俺はささっと、一ノ瀬の資料を少し自分の資料へ移した。


「あっ…えっ…」


「転んだりしたら大変だからな」


「…っ…ありがとうございます」


うつむく一ノ瀬に余計なことをしてしまっただろうか、と眉を下げるが、大変そうな一ノ瀬を放っておけなくて声をかけたのだからこれで意味はあるはずだ。


「…」


「…」


歩き出した俺と一ノ瀬。微妙な沈黙。しかもさっきから一ノ瀬は俺から微妙な距離を取って歩いている。


「…」


「…」


せっかく一ノ瀬と2人きりになれたのだから、なにか話したい。いつも三郎と仲良く話してるみたいに。あいつが羨ましい。


「…あー」


びくっとまた一ノ瀬の肩が跳ねた。俺は前を見たまま、無難に話題を振ってみる。


「その…一ノ瀬とこう…2人で話すのは初めてだな」


「は、はい!そうですね!」


わたわたと相槌を打つ一ノ瀬に頬が緩む。でもなんだか笑顔がぎこちない。


「いつも三郎が迷惑かけてるもんな、ごめんな」


「あ、はは…鉢屋先輩は本当に、なんで私に意地悪するのかわかんないですけどね」


「いや、まぁなんとなくわかるけど」


「えっ」


「はは、三郎も雷蔵も勘ちゃんもハチも、お前が可愛いんだよ。雷蔵なんか図書委員会の紅一点だろう?」


「そ、そうですね」


「それに俺……」


ちょっと待った。
今なんて続けようとした?俺も、って?俺も、一ノ瀬を可愛いって思ってるって?


「久々知先輩?」


「え、ああ、いや、なんでもない。気にするな」


「そうですか?」


きょとんと首をかしげる一ノ瀬に、俺は資料を抱え直すふりをして赤くなった頬を誤魔化す。


「と、とにかく三郎に意地悪されたら、雷蔵に相談するのが一番だ。あいつが一番効果的」


「ふふ、そうですね!鉢屋先輩、雷蔵先輩には頭が上がらないの、知ってます」


クスクス笑う一ノ瀬に俺も頷きながら笑う。そして、はたと気が付いた。


あれ?今の。三郎に意地悪されたら、俺に相談しろって言うべきだったんじゃ…


「うわあぁあ…そうか…」


「え?」


「ああいや!なんでも!」


「? あ、あの書庫です。久々知先輩」


「えっ…あ、ああ」


そうこうしているうちに書庫についてしまったらしい。片手で上手く扉を開け、中に入る一ノ瀬になんとなく肩を落として、書庫に足を踏み入れた。


「あれ、誰もいないみたいですね」


よいしょ、と隅に置いてあった机に資料を置いた一ノ瀬が首をひねる。


「今日の書庫掃除当番久作くんだったはずなんだけど…」


「一ノ瀬、この資料はどこに置けばいいんだ?」


「あ、はい!預かります」


一ノ瀬が俺の手から資料を受け取った。そのとき、ぱし、と一ノ瀬の手が俺の手に触れた。


そりゃ、ドキッとはしたけど。一ノ瀬はドキッなんてものじゃなくて、びくっと震えて恐らく反射的に手を引っ込めた。


「あっ…」


資料を一ノ瀬に委ねようとしていた俺の手がしっかり資料を支えられるわけがなく、バサバサッと床に散らばってしまった。


「っ…すみません!」


しゃがんで慌てて資料を集める一ノ瀬を呆然と見下ろす。もしかして?もしかして


一ノ瀬は俺に怯えてる?
びくびくと震える肩。慌てるような相槌。ぎこちない笑顔。


「…一ノ瀬」


「は、はい?」


なんで、
雷蔵には三郎には勘ちゃんにはハチには、抱きしめたくなるような笑顔を向けるのに。


「一ノ瀬は、俺が嫌いか?」


「えっ!?」


俺にはそんな、怯えたり、ぎこちなかったり、


「…」


「あ、あの、久々知先輩…?」


ああ、駄目だ。へこんできた、むなしくなってきた。


「あー…なんでもない、忘れてくれ」


無かったことにしよう。全部全部無かったことに。怖がって怯えてる一ノ瀬に、俺がなにを言っても、たぶん。


「……あ、あの!」


一ノ瀬は意を決したという表情で、俺を見上げた。


「わ、私…久々知先輩のこと、きら、嫌いじゃ…」


「一ノ瀬…?」


「私、鉢屋先輩や、雷蔵先輩の前では、うまく笑えるのに…」


俯いてしまう一ノ瀬の小さな声を、俺は聞き逃さないように一ノ瀬を見つめたまま逸らさない。


「久々知先輩に、は…私、うまく笑えないんです」


泣きそうな顔で一ノ瀬はぽつりぽつりとつぶやく。


「緊張して、か、噛んじゃうし、うまくいかなくて駄目だぁ、って」


一ノ瀬は、一ノ瀬は、俺に怯えてるんじゃなくて


「俺を、意識してくれてるってことか?」


「…!」


真っ赤になる一ノ瀬に、心臓が押し付けられるような感覚に陥る。


「あ、…ぅ…」


なにか言おうと口をぱくぱくさせる一ノ瀬に、俺はどうしようもなく嬉しくなって嬉しくなって


「俺も、いつも一ノ瀬のことばっかり、考えてる!」


と、わけのわからない告白をしてしまった。



久々知先輩と要ちゃん。
(なで、撫でても、いいか)(えっ、あ、えと、どうぞ…!)(ちょっとなにあれ雷蔵)(ああ三郎知らないの?最近ずっとあれだよ、兵助)(ギリィッ…)



コンセプトというかテーマとしては「久々知→←要ちゃん」でくっ付くところで良いかなぁと考えながら書きました。

というかもし要くんがくのたまでうちのサイトの久々知とくっついたら、周りからみて恥ずかしいやきもきもだもだするバカップルになるんじゃないかとw

それと久々知の一人称ですが、アニメで"俺"と言っているのを見かけて、おおお!!と今回の短編では一人称を"俺"にしてしまいました。ご了承くださいませ。

要くんを一ノ瀬と名字呼びにさせたのも、久々知が要くんを女の子と認識してるなら名字呼びだろ!!FOOOO!!という私の暴走からです妄想乙。

10000hitありがとうございます!リクエストに添えられたら嬉しいです。リクエストありがとうございました!


ヤマネコ



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