事実は小説より云々03 まぁ3日くらい!と最初は軽く考えていた僕だったが、そいつは食堂でいきなり僕の腰に抱きついてきた。 「おはよう要!」 「っ、おはよう左門。め、珍しいね、ちゃんと1人で食堂にこれ、来れるなんて」 「うん!今日はな!なんだか寝ぼけているんだと思う!」 「へ、へぇー」 「ん?要なんだか…」 「えっ!?な、なに!?」 「なんだか良い匂いがするな!なんでだろ?」 「や、えっ…と、あれ!あれだよ!きっとご飯の匂いと間違えてるんだよ!お味噌汁おいしそうだしね!」 「んー?そうかなぁ」 すりすり、と背中に顔を擦り寄せてくる左門に、いつものことなのにバクバク心臓が騒ぐ。 ばれる…!ばれる…! はやく作兵衛!作兵衛きて!作兵衛ぇえ…! と、僕は作兵衛を呼んだのに、全く違う人が食堂にやってきた。 「なんだー?仲良いなぁお前たち!いいことだ!」 「な、七松先輩…」 「おはよう要!なんだ?今日はいつにも増して可愛いな!」 「ああ、そうだ!なんか変だな、と思ったらいつもより可愛いんだな!要」 「なに!?なんで口説かれてるんですか僕!?」 行動が!この2人は行動が読めない!あたふたする僕にやっと助け舟がやってきた。 「小平太…はやく座れ…」 「左門、あっちで作兵衛が呼んでたぞ。はやく行かなきゃ飯抜きだな」 「中在家先輩、孫兵…!」 それはいかん!とバタバタ走り去る左門と、ズルズル引き摺られていく七松先輩。去り際に中在家先輩が僕の頭をぽんっと叩いた。 「全く、油断し過ぎだ」 「すみません…」 「さ、はやく食べて授業に行くぞ要」 肝を冷やしたがなんとか突破。僕は朝ご飯の乗ったお盆を受け取って、席についた。 そしてもちろん、肝を冷やしたのはこれが一回ではない。 授業中は何事も無いものの、お昼休みにサッカーしましょう!とわらわら飛びつかれる一年は組のみんなや、小松田さんに水をかけられたり、久々知先輩に声がおかしいが風邪か?と問い詰められたり、七松先輩に捕まったり、etc.etc. そしてとうとう3日目の今日僕はいま、最大の危機に晒されている。 「ん?どうした要」 「失礼しました」 「いやいやいやいや」 くるっと反転して立ち去ろうとすると、腕を引いて止められてしまう。僕は観念してしぶしぶ振り向いた。 「こんにちは…鉢屋先輩…」 「嫌そうだなー」 「なにもしないなら警戒しないですが…」 「しないしないたぶん」 「多分!?」 「はははは。で、用具庫になに戻しに来たんだ?」 「え?ああ、授業で使った手裏剣を…鉢屋先輩は如何したんですか?」 「私はちょっと、縄梯子をな」 「ああ、縄梯子ならこっちですよ。こないだ大掃除して、ちょっと仕舞う場所が変わったんです」 手裏剣の入った木箱を置いて、新しい縄梯子置き場に歩く。1つ縄梯子を取ると、鉢屋先輩に渡した。 「あ、ちゃんと貸し出し帳に記入しなきゃ駄目ですよ?」 「…要ー!」 「ぎゃああぁあ!?なななな、なんですか!」 綾部先輩並みになんの前触れもなく、鉢屋先輩が僕に抱きついた。縄梯子がガシャンと床に落ちる。 「いやぁ、なんか3日ぶりくらいに話したなぁと思って」 「…ああ、はい…」 そりゃまあ、僕があなたの居そうな場所を避けてましたからね!とは言えず、曖昧に頷く。 「あ、あの、鉢屋先輩、」 「なんだ?照れなくてもいつもの迷惑なことじゃないか」 「ああ、自覚あったんですね。じゃ、じゃなくて!その、今こういうことされるのは、すごく良くないというか…」 「ん?ああ、そういえば兵助が要が風邪ひいたとか言ってたなぁ。声もなんか変だな」 上手い方に勘違いしてくれた!僕はそれに「そ、そうなんですよ!」と抵抗する。 「ですから、うつるといけませんし、離れて…」 「…なんか要」 「は、はい!?」 「体、おかしくないか?」 「え!?ま、まさかぁ、気のせいですよー、あ、あはは…」 「いや、ほぼ毎日抱きついてる私が言うんだから間違いない」 「自慢げ!自慢げに言うことじゃないです!」 「なんていうか…柔らかい?女みたいな…」 「!?」 だから!察しが良いからこの人は避けていたのに! 「すまん、悪い。確認だから、な?」 「いやっ…待っ…!」 ぐい、と脱がされる上着、めくられる黒い前掛け。そして 「え…」 固まる鉢屋先輩の表情。 「要…これ…」 みんなと3日、頑張ってきたけど、もう駄目だ。幾多の障害を乗り越えてきたのに!ここまで! ぎゅ、っと目を強くつぶった僕に、刹那。ゴンッというものすごい音が耳に届いた。 「え?」 「焙烙火矢には―」 凛と鳴った声に、さらりと揺れる長い漆黒の髪の毛。立花仙蔵先輩は、馬鹿でかい焙烙火矢を手に持ったまま、綺麗に微笑んだ。 「こういう使い方もある。覚えておくと良い、要」 「は、はい」 「ふん。全く、こいつは本当に懲りないな」 立花先輩の視線の先を辿ると、頭にタンコブを作って目を回している鉢屋先輩がいた。 「信じられない状況に周りへの警戒が緩み、私に気がつかなかったのだろう」 「鉢屋先輩は本当にもう…」 「要、医務室へ連れて行くぞ。伊作が薬の解毒のような効果をもたらすものを作ったらしい」 「本当ですか!?」 事実は小説より奇怪なり。 (ハッ!)(ああ鉢屋先輩、気がつきましたか?)(、ッ要!おまえッ…)(僕は正真正銘"男"ですからね、鉢屋先輩。脱衣場で会ったことあるでしょう)(…あ、あぁ) * すみませんでした!!!(またか) 私の技量ではこれが精一杯です…!希望シチュに添えようと頑張りましたが、いかがでしたでしょうか?楽しんでいただければ嬉しいです。 リクエストありがとうございました! ヤマネコ ※ブラウザバックでお戻りください。 |