デート尾行2 「………こちら鉢屋。目標は茶屋に入った模様。どーぞ」 「こちら尾浜。三色だんごが美味しそうであります。どーぞー?」 「こちら久々知。せめて冷奴くらいあってもいいと思う。どーぞ」 「こちら竹谷。後輩のお土産になにがいいと思うお前ら。どーぞ」 「僕は帰りたい」 とある町中の茶屋の入り口でそれでもお前たち忍者の卵なのかと突っ込みたくなるような目立つ集団がたむろしていた。彼らは中にいる可愛らしいカップルを見張っているらしい。 「くそ……私だってこんな要と二人で茶屋なんか来たことないのに」 「え?そーなの三郎。俺この間行ったけど」 「は!?」 「いやなんか偶然買い物中会ったからそのままお茶を……」 「勘右衛門貴様ァアァァア!!!!!!」 「ちょちょちょ三郎!バレる!」 取り乱す鉢屋を竹谷が慌てて宥める。ほとんど諦めた目でそれを眺めながら、雷蔵は女の子をきちんとリードしている後輩の立派な成長にしみじみとしていた。 「要にガールフレンドなんてねぇ……」 「耐えられない……娘を嫁にやる気分だ……」 「兵助くん君はまだ未婚だよ」 「雷蔵もそうだろ!?」 「まぁわからなくもないけど、こう、しみじみするよねぇ」 「ああ……なんか嫌だ…… 要は私の弟と言うか……かわいい存在だったのに」 頭を抱えて唸り出す久々知の背中を雷蔵がいたわるようにさすってやる。要は愛されてるなぁとしみじみ思いながら、雷蔵はゆっくりとお茶をすすった。 「ん…?」 湯呑を傾けたふちの先に人影が見え、首をひねる。なんとも怪しげな男三人の客が、茶屋の店員である若い娘を盗み見てはにやにやと下卑た笑みを浮かべている。 「なに、あの人たち…?」 嫌な予感がするなぁと思ったのも束の間、若い娘がその三人にお茶を運んできたところをその男の一人がつまずかせた。ばしゃっと音がして、男の着物にお茶が掛かってしまう。大げさに男が若い娘に向かって罵声を上げた。 「なにしやがる!」 「あっ……す、すみません!」 「あーあ。すみませんで済まないなぁこりゃぁよぉ!」 男の怒号に女の子の肩がびくっとすくんだ。そのまま男が女の子の腕をつかむ。雷蔵たちは眉をひそめ、ため息をついた。 「ったく…」 どう見たって女の子を転ばせたのはあの男だ。むっとした表情を隠さないままに竹谷が立ち上がった。のを。まるで制するように、女の子の腕をつかむ男の手をばしっとはじく音。 「なにしやがんだ餓鬼ぃ!」 「ここは皆さんが美味しくお茶をいただく場所です」 いつもの柔和な目元は冷酷な冷たさに支配され、男を冷ややかに見上げる。え?あれ誰?とここにいる五年の心が繋がった瞬間だった。 「それに、あなたがこの女性を転ばせたように見えましたけど。それに難癖つけて、どういうつもりです?」 「あぁ!?やんのか!」 「言ったでしょう。ここは喧嘩をする場所じゃありません」 「うるせぇ!」 ひゅっ、と男の拳が要に飛ぶ。あっと思ったがここからじゃ間に合わない。が、そんな心配は毛頭もいらなかった。要は男の拳を軽く避けてその腕を掴み、引き寄せて距離をつめると、余った腕を使い男の首元に腕を叩き込んだ。 「ぐぇっ……!?」 男の口から潰されたカエルのような声が漏れる。喉を抑えながらしゃがみ込んでしまった男に仲間らしい二人が、慌てて駆け寄った。 「や、やだ……要すてき!」 「おれ、要になら抱かれてもいい」 「勘右衛門、三郎、黙って」 きらきらとした表情の明らかに面白がっている勘右衛門はともかく、頬に熱を浮かべて真顔な鉢屋はおそらく冗談ではない。静かに鉢屋の頭を殴り、雷蔵は成長した自分の後輩に素直に感動していた。 要、強くなったなぁ。 「てめぇ…!」 「!」 男の仲間らしい一人が逆上した様子で、要に卓上にあった湯呑を投げつけた。とっさに要は近くで竦んでいた女の子をかばう。パリンと音がして、要の額に当たった脆い湯呑が地面に転がった。 「要先輩!」 悲鳴を上げる千鶴が要果敢にも要に駆け寄って男たちを睨む。千鶴が前に出てきたことに驚いた要が、「危ないよ」と言って千鶴の肩をつかんだ。 「千鶴ちゃん。店員さんの傍にいてあげて」 「でもっ、先輩ケガを……!」 「それより女の子がケガする方が大変だよ。ね?」 「先輩……」 そんな微笑ましいやり取りの近く、五年はなにをしていたかというと。もうすでに動いていた。 風が吹き、一人の男がいつの間にか茶屋の外に消える。また次々と風は吹き、残りの男を茶屋の外へと攫っていった。近くに座っていた客は、何人かの若い男が人間とは思えない表情で外へ引きずっていったと証言するが誰にも届くことはなかった。 「あれ…?いない……逃げたのかな」 「あの、ありがとうございました」 「あ、いえいえ。お茶かかったりしてませんか?」 「は、はい」 「要先輩は自分の心配をしてください!もう」 眉を下げ、千鶴が自分の手ぬぐいを出して額から流れる血におさえつける。 「あっ、汚れちゃうよ!?」 「手ぬぐいは汚れるためにあるんです!じっとしててください!」 「ご、ごめん」 そのまま固まる要に、千鶴はいつの間にか自分がなんの緊張もなく要の近くに、触れていることに気がつく。かぁ、と顔に熱が上った。 「あ、あの、わたし」 「ありがとう、千鶴ちゃん」 「あ、い、いえ。あの……」 「ん?」 真っ赤な表情で、言うかどうか散々迷いながら、もがくように口にする。 「か、っこよかったです、要先輩」 周りが和やかな雰囲気に包まれた。若いっていいなぁという視線が生ぬるく二人を囲む。 「あはは、ありがとう。でも湯呑割っちゃったなぁ。ごめんね千鶴ちゃん、ゆっくりお茶してたのに」 「そんなことありません!とっても楽しかったです!」 「そう?じゃあまた来ようか」 「え…?」 思わずぽかんと呆けた表情のまま、顔を上げてしまう。 「なんか今日は荷物も多かったし、騒がしかったしね。またゆっくり来ようよ」 「い、いいんですか……?」 「?うん。あ、千鶴ちゃんがよければ、だけど」 眉を下げて苦笑する要に胸が苦しくなる。そんなのそんなの。 「はい!ぜひ!」 ×千の鶴と密か青× (あれっ!?要とくのたまいねぇぞ!?)(なぜだ!さっきまでいたのに!)(ハチも兵助も落ち着きなよ〜)(すっきりした顔しやがって勘右衛門。お前一番怖かったわ!俺が止めてなきゃどうなってたか!)(いや、一番怖かったのはわたしの雷蔵)(なに?)(なんでもないです) ※※※ くのいちさん!企画さんかありがとうございました! まさか千鶴ちゃんの入ったリクエストをいただけるとは思っていなかったので、感動に打ち震えたのをよく覚えています。大変遅くなってしまい本当に申し訳ありませんでした!楽しんでいただければ誠に幸いと存じます! 企画参加本当にありがとうございました!! ヤマネコ ※ブラウザバックでお戻りください。 |