事実は小説より云々02

明るいとこで見る女の子な藤内は、漆黒の髪がよく似合う綺麗な顔立ちをしていた。そして、なにより目立ったのは


「さらしさらし!さらし無いかな!」


「ああ怪我人のやつならあったはず…んーとんーと」


「結構胸あるんだな、藤内」


「ぶっ飛ばすぞ孫兵」


藤内の胸である。忍服を着ても目立ってしまうのではないか、とさらしを数馬から受け取り、また押し入れで着替えを済ませた。


「違和感あるかな?」


「声がちょっと…だが、まぁ大丈夫じゃないか?」


「うん、藤内の胸も目立たなくなったね!」


「…」


「よし、じゃあいこう!」


スパンッと良い音をたてて僕が障子を開けると


「ん?どうして藤内の部屋に要と孫兵がいる?」


立花先輩に出くわした。


え…いきなり!?いきなり!?完全にフリーズした僕と藤内を慌てて押しのけ、数馬と孫兵がババッと前に出る。


「たたた立花先輩おっはようございまーす!!」


「良い天気ですね立花先輩ジュンコも僕も元気です」


「あ、ああ、それは良かったな。おはよう」


ナイスフォロー!超ファインプレー!僕は焦ったように口をパクパクさせる藤内の手をぎゅうっと握った。


大丈夫大丈夫、挨拶は済んだんだし、立花先輩は片手を上げて食堂へ向かうはず。


「ああ、そうだ。藤内」


「(ビクッ)」


「ほら、前によくわからないと言っていた忍具のことが詳しく書いてある書籍だ。長次が勧めてくれてな」


「もそ…」


「な、中在家先輩もいらっしゃったんですか…」


数馬の緊張した声に、僕の肩もびくっと跳ねる。やがて立花先輩は孫兵の間をすり抜け、本を藤内に手渡した。


「返却日はきちんと守れ?ほら、藤内」


「…ッ…あ、えっと…」


「ん?藤内、お前なんだか声が…」


「き、気のせいじゃないですか!?や、やだなー」


「ばかっ!要!」


孫兵に咎められてはっ、と自分の口を塞ぐが、もう遅い。今度は訝しげな声音で中在家先輩がつぶやいた。


「…要も、声がおかしい…」


「お前たち、なにを隠してる?白状しろ」


「ち、違います立花先輩!これには訳が…!」


と数馬が僕と藤内を庇うように前に出てくれたが、六年の、しかも立花仙蔵先輩に勝てるわけがなかった。


「話さないようなら、強行手段を取っても良いんだぞ?お前たち?」


「…」





※※※


「新品の清潔な包帯良し、洗濯済みのさらし良し、絆創膏も数あるし、薬草の数も大丈夫っと」


保健委員会委員長の善法寺伊作は、毎朝授業に出る前に進んで保健委員会の医務室の薬品のチェックをしていた。


今日もそれを欠かすことなく、急な患者にも落ち着いて対応できるよう準備をしておく。


「さて…と」


絆創膏なんかを引き出しに仕舞おうと立ち上がり、引き出しを引く。その拍子に竹筒がコロンと転がった。


「ん?あれ、この竹筒は…」


「伊作ー!!!」


「!?」


スパァアァンッと開いた医務室の障子。竹筒を2つ手に持ったまま、唖然とその障子の方へ視線を向ける。


「せ…仙蔵…?」


「お前はうちの後輩たちになにを飲ませたァッ!!!!」

「えぐっ…!?なななななになになに!?」



※※※


「ぎゃあああぁ!やめてください立花先輩ぃい!!!」


数馬から事情を聞いた立花先輩は、近くにいた僕の忍服を有無言わず無理やり脱がし始めた。


周りも止める暇がなく、上着を脱がされ黒い前掛けもずらされる僕。そして現実を目の当たりにして固まった立花先輩はすくっと立ち上がると、ものすごい勢いで医務室の方へ走り去ってしまった。


「みん、みんな僕をなんだと思って…!」


「要…」


低い声と一緒にふわりと上着が僕に掛けられる。びっくりして上を見上げると、複雑な表情をした中在家先輩が僕に上着を掛けてくれていた。


「大きめの上着の方が……もそ、…隠せるだろう…うまく、誤魔化せる…」


「あ、えと…ありがとうございます…」


「いや…」


中在家先輩はふい、と目を逸らすと、ぼそりと申し訳なさそうにつぶやいた。


「"女の子"だったのを…気がつけなくて…すまなかった…」


「ええええ!?」


「不用意に膝に乗せたり、抱き上げたり、頭を撫でたり…すまなかった」


「中在家先輩中在家先輩中在家先輩!!違います!!話をよく聞いてください!!」


「4人にばれた…もう、もう生きていけなぁあああぁ」


「ととと藤内!落ち着いて!大丈夫!大丈夫だから!」


わぁあぁっと泣き崩れる藤内とそれに駆け寄る数馬。孫兵は呆れ気味に僕に助け舟を寄越してくれるが、すがりつく僕に中在家先輩は目を合わせてくれない。


「違うんですよ!起きたら、こうなってて…それで…」


「信じられないかもしれませんが、その通りなんですよ。まぁ胸はそんなになかったですが」


「論点はそこじゃないでしょうがぁ!孫兵はなんでさっきから胸の話しか!!」


「誤解を招くようなこと言うなよ。まぁ、とりあえず医務室に行きましょう。あんまり騒がしくすると人が集まってくる」



※※※


「南蛮の書物から調合した薬を竹筒に入れてて…!新野先生からいただいたお茶っ葉と間違えたんだっ…!ごめん!本当にすまない!」


竹筒を2つ取り出してあたふたと説明して、伊作先輩は頭を下げた。


「ああ、だからちょっと変な味がしたんですね…」


「要も気がついてたのか!?」


「えっ。藤内も気がついてたの!?特におかしな顔してなかったからてっきり…」


「それで、これはどういう薬なんだ」


「えーと…それが…複雑な字で書いてあってよくわからないんだ…あっ!でも、効果は3日ほどで消えるっていうのは解読できてるから!」


「3日…ですか」


藤内がげっそりとした表情でうなだれた。3日とは誤魔化しきれるだろうか。


「大丈夫だよ要、藤内。僕、協力するから!」


数馬がにこっと微笑んで僕たちの手を握る。藤内もそんな数馬をみて、少し緊張が和らいだようでふっと微笑んだ。


「ありがとう、数馬」


「よろしくな」


「もちろん!任せて!」


「僕も協力するから、心配するな」


孫兵の言葉に同意するようにしゅるり、とジュンコも頷いた。


「ふむ…3日、だな」


「僕も巻物をもっと詳しく解読してみるから!」


「…もそ…同室が味方というのは…安心できるだろう…」


こうして、僕と藤内は3日という指で三本の数の長い長い時を、過ごすこととなったのだ。






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