もしも主くんが女の子だったら!※現代パロディ

春の暖かな太陽の日差しはどこへやら、今の太陽はまるで僕を地面に押さえつけたいが如くじりじりと背中を炙る。


ついこの間に春が終わったばかりだというのに、もうこの季節がやってきた。


「はぁ」


僕は、この季節があまり好きではない。というか、


好きではなくなってしまった。



×××スイトピーになるキミ



「暑いよー……」


ちらちらと他人の目が刺さる。もう衣替えの時期もとうに過ぎたというのに、夏の制服にカーディガンとブレザーを羽織っているのだから当然といえば当然だろう。


衣替え当初ならカーディガンを着ていても、ブレザーを着ていても、"まだ寒いから"と。先生には"中にちゃんと夏の制服きてますから!"と誤魔化すことができたのだがもう、そうは行かない。


「……うー」


だが僕はブレザーとカーディガンを脱ぐわけにはいかない。否、脱ぎたくない。


「要、おはよう」


「あ、孫兵。おはよ」


暑くないのか(人のことは言えないけど)相変わらず首にジュンコを巻きつけた孫兵が、僕の姿を見咎めて眉をひそめた。


「お前……まだそんな格好なのか?今日かなり気温上がるらしいぞ?」


「だ、大丈夫だよ。ほら僕、寒がりだから!」


「寒がりって、寒いときに使う言葉じゃないのか」


「大丈夫大丈夫あつくないあつくないあつくない……」


「(暗示……)」


「要ーっ」


無邪気な声が聞こえて、腰にかるく衝撃が走る。今日はまっすぐ学校に来られたようだ。珍しいこともあるものである。


「びっくりするでしょーもう。おはよ左門」


「うん!」


「おはよーって、うわっ暑くないの要」


続いてやってきた三之助が孫兵と同じように眉をひそめるが、僕はひらひらを手を振って誤魔化す。


「おら左門はなれろ!」


「えー」


「えーじゃねぇ!悪ぃな要。おはよ」


「おはよ作兵衛。朝から大変だねぇ」


「まぁな。っつーかお前、厚着じゃねぇか?まだ真夏じゃねぇけど、今日気温あがるぞ?」


「僕もそう言ったけど、聞かないんだ」


「大丈夫だって!平気平気」


へらへらと笑顔を浮かべてみせるが、みんな納得のいかない表情だ。そんなみんなの背中をぐいぐいと押し、チャイムに誤魔化して教室に走った。



※※※


しまった想定外だ。


「ああ……」


「?要?」


教室で頭をかかえる僕に、体操着を抱えた藤内が首をかしげて声をかけてくれた。


「要、どーした?女子は更衣室だろ?というか暑くないのかその格好」


「もうその件はやった……」


「は?」


熱あるのか?と手をあててくれるが、僕は全然健康体である。


「ほらもっと涼しい格好に着替えてこいよ。今日体育サッカーだぞ?……あっ。あ、涼しい格好っていうのは別に、そういう変な意味じゃなくてだ!」


「藤内っ!」


「うわっ」


なぜか真っ赤な表情の藤内の腕をつかみ、拝むように頭をさげた。呆けた顔をしているのが、顔をあげなくてもわかる。


「お願い!体操着の上着かして!」


「は、はぁ?」


「上着!あるよね?」


「あ、ああ、まだ持って帰ってないけど……」


「かして!洗って返すから」


「ていうか……」


僕の机の上に置かれた体操着をみて、ああしまったと思うが遅い。


「お前上着もってるじゃ…」


「ほ、ほら僕!寒がりだから!寒いの!すっごく!」


「でも……」


「お願い藤内」


「…っわ、わかった!わかったから離せ!」


「あ、ごめん」


周りの視線を藤内がぎっと一睨みして散らし、ため息をつきながら上着を貸してくれた。


「要……なにかあった?」


「えっ。な、なにもないよ?」


「本当に?」


「ないない!元気元気」


「……ふーん」


訝しげな藤内の視線を払うように、ありがとねと一方的にお礼を言って更衣室へと逃げ込むと他の女子生徒はさっさと着替えてしまったようで、誰も見当たらなかった。


良かった。


ブレザーとカーディガンを脱ぎ、僕は静かにため息をついた。


「……やっぱり、やだ」


ぽつりと呟いて、泣きたくなってしまった。視線を下げると嫌でも目に入る2つの膨らみ。まだ他の子は全然なのに、僕、だけ。


「上着二枚かさねれば隠れるよね……」


「なーんだそうゆーことかー」


「そういう!?僕すごい悩んでっ…………やあぁあっ!?」


あれ誰と話してるんだ僕、と声のする方をみれば、窓枠に三之助と左門がしがみついていた。


「なにしてるんだよっ!ここ女子更衣室だから!」


「知ってる知ってる。うわーここで女子着替えてんのかーうわー」


興味深そうにほうほうと言いながら窓枠に足をかけ入室してくる三之助に、ブレザーとカーディガンを放り出して慌てて止めに入る。


「こら!出ていきなさむぐっ」


「ばかっでかい声だすな要。先生に見つかるだろ」


「んーっ」


「左門カーテン閉めて」


「うん!あ、作ー!」


「お前らなにしてっ……そこ女子更衣室ーっ!!!」


「ほらほら作兵衛もはやくはやく」


「んーっんんっ」


「ってお前!要になにしてんだ!!」


「作!はやくしないと見つかるぞ!」


左門に引きずられ、作兵衛まで窓枠から更衣室に引き込まれた。シャッとカーテンが閉められ、三之助の手から解放される。


「なに考えてるの!」


「大丈夫大丈夫。いざとなったらロッカーに隠れるから」


「大丈夫じゃねぇ!」


真っ赤な表情の作兵衛がなるべく室内を見ないようにか、顔を伏せながら左門と三之助の首根っこをつかむ。


「わ、わわわわわ、わりぃ要。おれ、見てねぇから!」


「あ、うん。ブレザーとカーディガン脱いだだけだから大丈夫……っ!」


慌ててカーディガンを抱き寄せるが遅い。作兵衛は見てないとしても、左門と三之助には見られてしまった。


「っ…!」


「厚着の原因はそれだな、要」


「やっ…やだ!」


カーディガンを抱いたままぺたんと腰をついてしまった僕に、作兵衛が狼狽えたが場所が場所なせいか近寄ってこない。それでいい。もうやだ、こんなの。


「ぼ、く…だけ、やだ……っ」


「要……」


三之助は眉をさげて僕に歩み寄った。肩をびくつかせて三之助を見上げると、三之助は壊れ物を扱うような優しい手つきで僕の両肩に手を置く。


「ぜんっぜんいーじゃん!!」


「へ……」


「なんで嫌なんだぜんっぜんいいと思う大歓迎だし!!」


「あ、あの、三之助?」


「おーおー結構そだってんな。うんうん素晴らしいぞ要」


「やっちょっ……」


「アホかああああああああああ」


手が触れる寸前で作兵衛の回し蹴りが決まった。美しいフォルムだ。いやいやそうじゃなくて。


「お前はどうしてそうなんだああああああああああ」


「ぐえっ…さ、さくべさん…じぬ……」


鬼のような形相で三之助の首を締め上げる作兵衛に、僕は被害者だと言うのに助けたくなってしまった。


「おー孫兵!藤内に数馬も!要さがしに来たのか!」


「え」


暢気な左門の声に女子更衣室の入り口に目を向ければ、孫兵がしれっと扉からこちらを覗き込んでいた。


「入れ入れー先生きてない?」


「きてない」


「あっちょっま、孫兵!入るのか!」


「失礼しますって言えば大丈夫だぞ藤内!学校のあらゆる場所は失礼しますって言えば入れるんだ!」


「開けゴマみたいだねー失礼しますー」


「数馬!?」


ほらほら藤内と数馬に引っ張られ、結局三年生いつものメンバー全員が女子更衣室に集合してしまった。


「ああああああああああ要見てない!僕はなにも見てないから!」


「うー…もう、なんでみんな、来るの……」


カーディガンをぎゅっと抱きしめながらうつむくと、ぽすっと頭に手が乗った。


「お前が話さないからだ」


「孫兵……」


「どうしたの?要」


数馬もしゃがみこんで僕と視線を合わせてくれる。ひく、と嗚咽を飲み込んで、おそるおそる数馬と目を合わせた。


「あの……」


「うん」


「む、むね、が」


「うん」


「僕だけおっきくって、きもち、わるい、よね」


ぐすっと鼻をすすると数馬はそんな僕をくすりと笑って、優しく頬を両手でつつむ。


「そんなことないよ」


「っ……でも、」


「そんなことない。みんなそんなこと思わないよ。要は女の子なんだから、当然のことだよ」


「……数馬が言うと、説得力あるね」


「ま、だてに保健委員会じゃないからね」


ふふ、と笑う数馬におかしくなって僕もへにゃりと笑った。笑った僕にみんなほっとしたようで、空気がいつものように柔らかくなる。孫兵の苦笑が頭上から漏れて聞こえた。


「そんなこと、要が女らしくなるだけだろ。いいじゃないか、別に」


「そーだぞ!僕はこの方が柔らかくて好きだ!」


ぎゅーと抱きついてくる左門に、復活した三之助も悪ノリして同じように僕を抱きしめる。


「そーそー要が女の子らしくなるのに、俺らは大歓迎なんだからさ」


「三之助が言うとちょっと怪しいよね」


「なんでだよ数馬はよくて俺は駄目なのか!」


「人徳の差?」


「ひっでぇ!」


こんなに愛してるのにーとさらにきつく抱きしめる三之助の後頭部を、また作兵衛が怒鳴ってひっぱたいた。藤内が慌てて仲裁にはいるのをみて笑いながら、いつの間にかさっきの悩みがどうでもよくなってしまっていることに気がつく。


「……ありがと、みんな」



×スイトピーになるキミ×
(コンコン)(要ちゃーんまだ着替えてるの?)(やべっ人きた!ロッカーロッカーロッカー)(アホなことしてんな三之助!おら左門こっちだ窓窓窓!)(僕先に行ってるから)(孫兵はや!あっちょ数馬あああ転ぶなああ)(わわわ)




狛さま企画参加ありがとうございました!

もしも主くんが女の子だったら!体の悩みとか抱えちゃうんだろうなーと思います。これをきっかけにちょこちょこ数馬に相談できるようになったりとか。孫兵は主くんを"女の子"というより、手のかかる友人として扱ってる感じが大きそう。バリバリ意識するのはおそらく作兵衛と藤内かとw 左門は柔らかくていい匂いするから好きーって感じですかね!妄想乙!

この度は100000打ありがとうございます!これからも主くん共々よろしくお願いいたします。


ヤマネコ(※捕捉花言葉/スイトピー:デリケートな喜び)



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