もしも主と千鶴ちゃんのデート?を五年生が尾行したら!

※一応捕捉説明。
三崎 千鶴(ミサキ チヅル)ららるら三年生篇"ドキドキ"で要くんを慕っている二年生くのたま。慕っているとは言ったものの、彼は忍者のたまごであなたはくのいちなのよ、と先輩に諭され、想いを伝えるだけに留まっている。









「ああっ苛々するっ」


とあるくのたま教室でくのたまの1人がぐしゃぐしゃと頭をかきむしった。まぁまぁと宥められつつも、もー!と地団駄まで踏み始める。


「千鶴はどーしてこーも奥手なわけっっ!?」


「まぁしょーがないわよ。千鶴だし」


同級生に和やかに相槌を打たれてしまい、しかし引くことも出来ずにさらにドンと机をたたく。


「だいったい要先輩も要先輩なのよ!千鶴は告白したんだからデートの1つも誘いなさいってのよ!!」


「要先輩も奥手って感じじゃないかしらー?誘うって概念さえないのかもしれないわよー?」


またまた別の同級生がお手玉をしながら和やかに相槌をうった。ぐぐぐと言葉を飲み込みかけるが、なおも食い下がる。


「あんたら歯がゆくないわけ!」


「歯がゆいわよー?でもどーにかなっちゃってもさぁ、こう、初々しい微笑ましい関係が崩れるのが勿体ない気がするっていうか?」


「あー…わかる。忍たま見かけると要先輩さがして、居ないとしょぼくれる千鶴めっさ可愛いわよねー食べちゃいたい」


「がーっあんたらじゃ話にならん!」


「どーしたの?」


騒ぎを聞きつけて、またまたまた別の同級生がにこっと微笑みながら教室に現れた。ぎゃあぎゃあしかじかと自分の思いの丈をその同級生にぶつけると、いたずらっ子なその同級生は笑みを外さないままに応えた。


「デートしないなら、させちゃえばいーんじゃない?」



×××千の鶴と密か青



「あれ、要じゃん」


饅頭を口元でもふもふさせながら勘右衛門がつぶやいた。えーどこどこ?といつもの五年生メンバーが勘右衛門の周りにわらわら集まり出す。


忍術学園久しぶりの休日に、仲の良い五年生メンバーは町に遊びにでかけていた。そして勘右衛門が指差す方向には同じく私服で町に遊びにきているらしい、三年生の一ノ瀬要が誰かを待っているようだった。


「お。ほんとだ。せっかくだし、要も誘って散策すっか」


「でも八、要だれかを待ってるみたいだよ?」


眉をさげる雷蔵の言葉を裏づけるように、要が走ってくる人影をみてぱっと表情を明るくした。


「なぁ、ちょっとまて」


「ん?どーしたの三郎」


「か、勘右衛門よ。よく考えろ。要が三年生と町に遊びにいくのに、待ち合わせなんかするか?」


「「「「……」」」」


全員が固まった。そして要はいつもの柔らかい笑顔を浮かべたまま、走ってきた人物の名前を呼ぶ。


「こんにちは千鶴ちゃん。走ってこなくても良かったのに」


「いえっ、あのっすみませんっお待たせして」


「全然待ってないよ。えーと、結構たくさん買うんだよね?どこから行こうか」


「は、はい。じゃあ……」


息をきらせ頬を赤らめる、黄色の小袖を着た可愛らしい女の子。なにかを察した勘右衛門が素早く三郎の口に食べかけの饅頭を突っ込む。


「ぎぃやあぐっ……」


「騒ぐな三郎」


鉢屋の口からもれかけた絶叫を饅頭がふさいだ。それを見ながら、久々知が冷ややか目線を横に流す。


「デート……だな」


「おほーやるな要」


「ええーっ要いつのまにガールフレンドなんか……!」


後輩って知らないうちに成長するんだなぁと雷蔵がどこか寂しそうにつぶやく隣で、饅頭を飲み込んだ鉢屋が復活した。


「どこの泥棒猫だ……!」


ぎりぃ、と歯ぎしりする鉢屋に五年生メンバーが落ち着かせようと肩に手をおく。


「泥棒猫とかじゃないから三郎」


「ふざけるな私がこの三年間あの可愛い可愛い要をどれだけ見守ってきたと思ってる…!」


「いや見守ってないよね、ばりばり手出してたよね」


呆れ顔で相槌をうつ勘右衛門は、すでに二個目の饅頭を咀嚼していた。


「くそ……いくぞ!」


「は?行くってどこに」


「つまらない質問をするな八。要たちの後に続くんだよ」


「尾行するのか?よし」


「えっちょっと待ってよ!尾行だなんて……兵助も悪ノリしないで!」


「でもさ雷蔵……気になるよね?」


「か、勘ちゃん!?」


「おっ。移動するぞ。とりあえず話は後で。ほら雷蔵」


「ちょっと…!」


竹谷に無理やり手をひかれ、かくして仲良し五年組の尾行が始まったのだった。



※※※


「とゆーことでっ要先輩にお願いしたからね、千鶴」


「えっ……ええ!?」


自分の漏らした叫び声に驚いて、慌てて両手で口をふさぐ。その様子をみて、同級生のくのたまはとっても良い笑顔でニコニコ笑っていた。


「いやーいい反応だわ」


「どっどうしてっ」


「ずっとやきもきしてた……じゃなくって。千鶴も要先輩とデート、したいでしょ?」


一ノ瀬要先輩。私よりひとつ上の三年生で、優しくてちょっとお節介の私が大好きな先輩だ。以前、私が想いを伝えてからは要先輩は"私"という存在を先輩の世界にいれてくれた。


廊下ですれ違って挨拶するだけでもう胸がいっぱいで。この間、実習の立ち話をしただけで頭がパンクしそうだったのに。


「要先輩と……デートなんて、わたし出来ないよ…」


「大丈夫よー!女は思いきりが大事よ千鶴!」


「でっでも、わたしとデートしたって、要先輩つまんないよ!」


「なに言ってんの!千鶴みたいな可愛い女の子とデートできるのよ!私が代わりたいくらいだわ!」


「ええ?あ、そ、それにわたし、要先輩と上手く話せないの……嫌われたりしたら、やだよ……」


「千鶴」


うつむく私の頬を両手で包んで、上げさせてくれた。真剣な眼差しを受けて、私は言い訳をのみこむ。


「いいじゃない、それで」


「え……」


「無理に繕う必要ないわよ。要先輩のことが好きな千鶴を見てもらった方がぜーったい良いわ。先輩を想ってる千鶴は、すっごく可愛いわよ」


「……」


「ま、要先輩にはデートとは言ってないから、そんなに気負う必要はないわよ。千鶴が大量の日直の買い物まかされて、私たちは手伝えないからお願いしたいって言ってあるわ」


「うん、わたし……」


「楽しんで、千鶴」






「千鶴ちゃん」


「!」


級友との会話を思い出し、耽っていた私の視界いっぱいに要先輩の顔がうつり思わず「ひゃっ」と声が漏れた。


「あ、ごめんね。ぼーっとしてるから、どこか具合悪いのかなって」


「えっ!?あっすみません!大丈夫です!」


「ちょっと疲れちゃったよね。僕もお腹すいたし、休もうか」


「は、はいっ」


要先輩は私の持っていた荷物をするりと取ると、微笑んで歩き出した。あまりになめらかな動きに、ポカーンと呆けてしまう。


「あ、あの?」


「え?」


「先輩にそんなに持たせるわけには参りません!荷物を……」


「ああ大丈夫だよ。次の買い物の品を持ってくれたら助かるかな」


「っ、はい」


買い物のメモを確認すると、あとは比較的に軽い物ばかりだった。かぁ、と頬が熱くなる。要先輩は私に重いものを持たせまいとしてくれているのだ。


「あ、あそこにしよ。千鶴ちゃん」


「はい!」


ドキドキと高なる心臓をおさえ、私は明るい笑顔で返事をした。







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