もしもららるら主メンバーが現代の学校に通っていたら!

「終わらんー!」


少し灰色かかった空。数週間前に衣替えをして晒された腕がすこし肌寒く、気温に合わせて着せ替えればいいのにとため息をもらす季節。


我が忍びの術学園、三年1組教室ではただいま、文化祭の準備が行われている。



×××瞬間(いま)かがやいた



「終わらん終わらん終わらん終わらないー」


うえーと泣きつく僕を孫兵がポスターを描く手を休めないままに、片手で慰める。だいたい人員が少な過ぎるのだ。終わるわけがない。


「人手が足りないよー」


「1組2組3組合同でやってるのにな……委員会に時間をとられすぎたか……」


藤内もげっそりとしながら教室の内装を作っている。文化祭には学年で出す出し物と、委員会で出す出し物の二種類があり、僕たち挟まれ学年である三年生は委員会の出し物の準備でへとへとになっていた。


ちなみに僕ら三年生が出す出し物はお化け屋敷である。生物委員会である孫兵が率いるちょっとあれな仲間たち、図書委員会の僕から提供されるえぐいストーリー(トラウマ)と、体育委員会用具委員会の三之助作兵衛の手をかりて、保健委員会作法委員会の数馬藤内から提供されるフィギュアや骨格標本を駆使した、三年生特性のお化け屋敷を制作中だ。


ちなみに予算の管理は会計委員会である左門に任せっきりである。


「みんな先輩方は委員会の出し物で競うみたいなこと言ってたからねぇ」


「え。数馬のとこ保健でしょ?伊作先輩までそんなこと言ってたの?」


潮江先輩や食満先輩ならまだわかるけれど、伊作先輩までそんなこと言うなんてなんだか意外だ。僕のそんな考えをくみ取った数馬が苦笑する。


「ううん、伊作先輩はどっちかっていうとその競争で出るであろう負傷者のために救護室の準備にバタバタしてたよ」


「あー保健委員会が一番忙しいかもね……僕も手伝うよ」


「ありがと、要」


「がー……終わんないぞー…」


左門が骨格標本の骨をつつきながら、とうとう床に転がった。黒いビニールと暗幕を壁や窓にはる作業をしていた三之助と作兵衛も、ぐああと床に転がる。


「いま何時だ……」


「作兵衛がビニールで、時計隠しちゃったよ」


「うるせえええ」


用具委員会の出し物準備で体力が限界に近い作兵衛がとうとう暴れだした。三之助も悪ノリで床をゴロゴロ転がり出す。眉をひそめた数馬が暴れる作兵衛をなだめてやった。


「やめなよ作兵衛も三之助もー制服汚れるよー」


「つかさー」


転がるのをやめた三之助がぽつ、と天井につるされた血濡れの骨格標本を眺めながら言葉をこぼした。


「忍学(シノガク)の七不思議しってる?」


一気に教室が沈黙で満たされる。孫兵だけが冷静でポスター紙の上を動くシュッシュッというサインペンの音だけが、教室に滑っていった。


「なぜ!いま!この!タイミングで!そんな話を!するのか!」


「いやーあの血濡れの骨格標本みてたら思い出した」


「ばか!!!もう変なこと言ってないではやく準備して帰るよ!!!」


「要の反応が可愛すぎてツライんだけど」


「は、はぁ?」


もういいからはやくやろうよと三之助を起こしてやり、僕は教室の机と段ボールを使ってお化け屋敷の順路作りを再開する。


「左門もほらーやるよー」


「うーん」


ぴょこっと起き上がった左門に土台に上がってもらい、暗幕を天井からつるすように貼りつけてもらう。これで順路を作る作戦だ。


「藤内、ポスターはあと何枚だ?」


「いま孫兵が書いてるの除けばあと6枚。僕がこれ終わったら手伝うよ」


「ありがと」


「ほら作兵衛ー飴あげるからがんばろ?ね?」


「なに味?」


「ぶどう」


「………仕方ないな」


「あ、数馬ぼくもほしーい!」


「はいはい左門メロンだっけ?ほら、要もあーん」


「わーいあーん」


「数馬おれもおれも!」


「なに味がいい?三之助の好きなコーラ味あるけど。藤内と孫兵はー?」


瞬間。
ブチン、


と、僕らの和やかな会話を唐突に暗闇がぶち切った。えっ!と数馬の驚愕した声が暗闇で飛び上がる。縮み上がった心臓が嫌なリズムで僕をたたいた。


「ななななに!?停電!?」


「まだ消灯には早くないか?」


「わぁ孫兵冷静!」


「大丈夫だぞ要!僕がついてる!」


「わわわとにかく左門は机から降りて!怪我するよ!」


数馬に言われて左門が机から降り、みんなそろそろとポスター書きをしていた机に集まった。


「電気……つかないな」


藤内の困惑した声音が暗闇のなかから聞こえて、僕も眉をひそめた。


「もしかして誰かが俺らの出し物が完成しないように……!」


「被害妄想乙」


「なんだよ三之助可能性はゼロじゃないだろ!!!だいたいお前が七不思議の話なんかすっから!!!」


「これ七不思議なのか?」


わくわくとした色が染み出ている左門。やめてよーと僕が孫兵にすがりつくと、孫兵はぺしっと僕の額をたたいてため息をついた。


「どっちしろ。明かりが点かないとこれ、明日までに終わらないな」


恐怖のせいで一番大事なことを失念していた。うあああああと絶叫が1組教室に木霊する。


「うーん……だれか他に残ってる学年いないのかなぁ」


「あ、先生も何人か残ってるんじゃないか!?」


数馬と作兵衛から職員室に行ってみよう案が出た。とりあえず最善の策はそれしかないようだ。みんなで教室からそっと、廊下を除いてみる。


「「「「「「「……」」」」」」」


え。なにこれ怖い。


「お、俺この戦いが終わったら要と結婚するんだ」


「三之助やめてほんとやめてそういうフラグっぽいこと言わないで」


「人の気配しないなー」


だれも残ってないのかなーとつぶやく左門の言葉に、あっと藤内が声を漏らした。


「そういえば六年生と四年生はあと展示物だけだから家に帰ってみんなでやるみたいなこと言ってなかったか」


「一年と二年は残ってたけど、僕さっき帰るのを見たぞ」


「孫兵さん先に言ってください」


「忘れてた」


「おい!」


「で、でもさすがに先生はまだ残ってるでしょ?学校の施錠しなきゃいけないもん」


なるほど。とにかく職員室に行こうという数馬にみんな頷いて、僕らはそろそろと職員室を目指すことにした。



※※※


暗闇。人の気配のしない廊下。通り越していく明るい内装や文化祭の飾りつけが、今は暗くぼんやり浮かび上がって逆に不気味にみえた。


僕らは迷子コンビのために手をつないで縦一例にぞろぞろと進んでいく。先頭は孫兵だ。二番手の僕はさっき目が合ったポスターの女の人への恐怖に耐えきれず、漏れるように口をひらく。


「ば、番号ぉ!」


「なぜ」


冷静な孫兵に冷静に返され、涙目になりながら「だって!」と反論する。


「こういうのって後ろからどんどんいなくなっちゃうんでしょ…!足りなかったらどうするの!」


「おい後ろは僕だぞやめろ」


「だから点呼!藤内の安全のためにも点呼!ほら孫兵!」


「……いち」


「に!」


「アルカ…」


「三之助まじめにやらないと要が怒るぞ。4」


「ごー!」


「ふふ。ろーく」


「7」


「8!」


ああ良かった。全員ちゃんといる………あれ?


「うわぁああぁああっ」


最後尾の藤内から悲鳴が上がった。連鎖反応でぎゃああと悲鳴が伝染していく。走り出そうとする藤内に順々に押され、最後に孫兵が足を踏ん張って受け止めてくれた。


「落ち着け」


「孫兵は落ち着きすぎなの!」


「もーだから止めなって言ったのに三郎!」


え?みんなでサンドイッチ状態になりながら暗がりに目をこらすと、見慣れた先輩がこちらにひらひらと手を振っていた。


「鉢屋先輩!?」


「よー要」


「ごめんねみんな。怪我してないかな?」


後ろから思案げな表情の雷蔵先輩が出てきて、みんな一気に脱力して廊下に座り込んだ。


「びっくりした……すまん数馬上履き踏んだ……」


「上履きどこか行っちゃったんだけど……」


「もしかしてこれー?」


陽気な声がして暗がりから尾浜先輩が現れた。手に片方だけの上履きを持って、けらけら笑っている。


「こっちまで飛ばされてたよ。はーい」


「あっありがとうございます!」


「いーえ。ほーい履かせてあげよう」


「わっすみません」


「おー大丈夫かお前ら」


尾浜先輩の隣にいた竹谷先輩が転がっている左門を子猫を抱き上げるように起こす。僕にも手が差し伸べられて、久々知先輩に起こしていただいた。


「職員室にいくのか?」


「はい。久々知先輩たちもですか?」


「ああ。電気が点かないと作業が終わらないし」


「はいっ!先輩たちは出し物なにするんですか!」


抱き上げられた状態のまま、ぴっと手をあげる左門に竹谷先輩が苦笑をこぼす。


「輪投げとか縁日だよ。ほら起きろ神崎」


「ありがとうございます!」


「はい。履けた。足挫いたりしてない?」


「大丈夫みたいです」


どやどやと復活した僕らだけど、まだ電気が点く気配はない。本当に一体どうしたのだろうか。とにかくみんなで職員室を目指す。


「なんで電気消えたんでしょーね?鉢屋先輩離れてください」


「やーだ」


「こら三郎?要歩きにくいでしょ?」


「じゃあ手を繋いでいこう」


「わっわっ」


「転ぶぞ要」


「えっえっ?」


右は鉢屋先輩に左は久々知先輩に捕まってしまい、ずるずると歩き出す。みれば竹谷先輩は作兵衛に協力して左門と手を繋いで歩いているし。


「三之助おらこっちだっつの」


「あの"おっぱい一回600円"てなんだろうな作兵衛」


「釣られんな馬鹿」


「みんなはなんの出し物するんだっけー?」


「あ、僕らはお化け屋敷です。尾浜先輩たちも合同準備ですよね?」


「そうそう。あーそっちもかぁ」


人数足んないもんねぇと和やかに相槌を打つ尾浜先輩に、数馬もゆるゆる頷く。


「暗がりってことはさ要」


「え?はい」


「なにされても誰だかわかんないよな」


「……なんで僕に言うんですか?」


「伏線みたいな」


「三郎要が引いてるのを手越しに感じるぞ。やめろ」


「あれ?孫兵ジュンコは?」


「暗めの教室で作業なので踏んだら危ないから外です」


「そ、外の方が危ないんじゃない?いやまぁ、そうでもないのかな……うーん?」


先ほどまでの鬱蒼とした雰囲気の廊下が嘘のように緩く溶けていく。各々に好き勝手会話をしながら、進むと土井先生に行き合った。なんでも小松田さんがブレーカーを落としてしまったらしい。


「もうすぐ点くだろうから。お前たちもほどほどにして帰るんだぞ?」


はーいと良い返事を返すと土井先生はまた校舎の見回りへ戻っていった。


「さーて続きするかー。要たちはどこまで終わってんだ」


「あとポスターと、順路と内装取り付けです」


「だいぶ終わってないな。手伝ってやろーか?」


鉢屋先輩の言葉にみんなで「えっ!」と飛びつく。俺たちあと設置だけだし朝でもできるしなーと竹谷先輩が笑ってくれる。


「いいんですか!?」


「ん。いいよー」


尾浜先輩がゆるゆると頭をなでてくれる。僕らはうわあああと諸手を上げて喜び、各々に感謝の言葉を飛び交せながら教室へと急いだ。


月明かりの漏れる薄暗い廊下に、僕たちの声が弾んで跳んでたまにはこんな苦労も悪くないかもしれないと、僕は思った。


×瞬間(いま)かがやいた×
(よし終わったー!お前らよく頑張ったな!コンビニ寄ろう八左ヱ門がみんなに肉まん奢るぞ!)(えっちょ三郎さん!?)(((((わーい)))))



白兎さま企画参加ありがとうございました!

もしもららるら主メンバーが現代の学校に通っていたら!
今以上に騒がしいと思います。ゲームやらカラオケやら学校やらイベントを全力で楽しんでそうwものすごい仲良さそうですw


さてこの度は10万打ありがとうございます!これからも主くん共々よろしくお願いいたします。


ヤマネコ



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