もしも主くんが誤って泥酔してしまったら!

なにがどうしてこうなってしまったのか。


「要ったのむそれ以上はまじっ私にも限界が」


「鉢屋せんぱい、やっぱり、ぼくのこと、嫌いになっちゃったんですか……?」


「っっっばっっかだいすきに決まってんだろ!!!!」


×××もしも主くんが誤って泥酔してしまったら!


事の始まりはなんだったか。ああ、たしか、テストの成績が思いの外良かったからとかそんな些細なことだったような気がする。


「宴だ宴ー!」


「見つからない程度だからね?」


はしゃぐ鉢屋三郎と俺に対して、困ったような表情の不破雷蔵とわくわくと豆腐を用意する兵助。大量のお菓子を持ち込む勘右衛門で、ここまでの流れは別段いつもと違いは無かったと思う。


ただ今回違ってしまったのは1つだけ。


「あーっっ要じゃぁん!」


と、酔っぱらい気持ちの大きくなっていた三郎が、委員会帰りであった要を羽交い締めにして捕獲し、無理やり酒を呑ませたのだ。


「要もなぁ、私みたいに立派な男になりたかったらなぁ、酒くらい呑めなきゃなぁ」


「んんんっ!?」


突如先輩に後ろから羽交い締めにされた挙げ句、いきなり口に酒を流し込まれた可哀想な要は混乱と驚愕と酒の香りでばたんとひっくり返ってしまった。


「わーっ!?要っ!?」


止める暇もなく起こってしまった悲劇に雷蔵が慌てて自分の後輩を抱き起こす。三郎は弱いなぁ可愛いなぁとか言いながら要をつつこうとするので、俺が慌てて三郎から酒を奪って怒鳴った。


「なにしてんだよ三郎っ!」


「可愛いなぁお酒弱いんだなぁ要はぁ」


「そういう話じゃないっ!」


「要!湯豆腐あるぞ!」


「お菓子あるよお菓子!」


「止めんかい組コンビ!」


湯豆腐とお菓子を要の口に押しつけようとするい組コンビを食い止め、雷蔵の方を見やればぐるぐると目を回す要を雷蔵がおろおろと揺すっている。


「要、要?大丈夫?しっかりして!」


「…………ん」


ふ、と要の目が開いた。俺と雷蔵は顔を見合せて、ほっと息を吐く。


「要ごめんね、三郎が」


「雷蔵せんぱい……?」


「?要だい……」


再度大丈夫?と尋ねようとした雷蔵の言葉は遮られ沈黙へ落ちていった。それもそのはず、突如体を起こした要が、雷蔵の口に自分の唇を押しつけたのである。


「んぅっ!?」


驚愕した雷蔵は力が入らないらしく、震える手で要の服を掴んでいる。俺たちはなんというか、ぽかんとそれを見ているしか無かった。


あんなにうるさかった三郎でさえ、唖然とその光景を見つめている。


「んっ、ん、ふ、」


「雷、蔵せんぱい、」


年下で、後輩で、しかも男であるはずの要から溢れ出すこの妖艶なオーラは一体なんなのか。


「っ、んん」


「ふふ」


そう軽く笑って口を離し、要は雷蔵先輩に天使のような笑顔と熱っぽい視線を向けた。


「雷蔵せんぱい、大好きです」


「あ……ああえ」


真っ赤になった雷蔵は腰が抜けてしまったらしい、要から距離を取ろうと頑張っているが動けていない。


「お、おい、要…?」


我に帰ったらしい三郎がそーっと要の肩に手を置く。くるんと振り向いた要の頬には薄く色が浮いていて、その目は酒にに濡れていた。


「鉢屋せんぱぁい」


「うわっ!?」


今度は素早い動きで三郎のマウントポジションを取る。さすがにまずいと思ったのか、勘右衛門が慌てて要に駆け寄り肩を揺すろうとした。が。


「あむ」


「うえっ!?」


肩を揺すろうとした勘右衛門の手を要がぱくりとくわえてしまった。とたんに勘右衛門の動きも止まる。


「あ、あの、要?」


「むーむぁう」


「っ要!ぺっしなさい!俺は食べ物じゃないの!」


ぺしぺしと要の額を叩くと、要は大人しく指から口を離した。


「ほ、ほら降りなさい要!」


「はちやせんぱい……」


うる、と要の両目に涙が溜まる。要を退けようとして三郎の両腕がこれまた見事にピタッと止まった。


「鉢屋せんぱい、僕のこと、嫌ですか……?」


「っ、い、嫌じゃないが」


鉢屋の腕に手のひらを這わせながら、うるりとした目でさらに追い討ちをかけるように首をひねる。


「鉢屋せんぱい……」


「要ったのむそれ以上はまじっ私にも限界が」


「鉢屋せんぱい、やっぱり、ぼくのこと、嫌いになっちゃったんですか……?」


「っっっばっっかだいすきに決まってんだろ!!!!」


とうとう鉢屋のリミッターが振り切れて、バネのように起き上がり要を力いっぱい抱きしめた。要は要でえへへと笑いながら鉢屋の胸板に頬をすり寄せる。


「やぁああちょうかわいい!!!!!」


「三郎落ち着け!要を離せ!」


「いやむりもう私は堕ちても構わない」


「目を覚ませ阿呆!!!」


渾身の力で鉢屋の後頭部をひっぱたき、なんとか要をはがさせる。だがまだ要に抱きつこうとするので、体を張ってそれを止め、鉢屋を柱に縛りつけた。


「ったく」


「竹谷せんぱい……?」


「あーごめんな、要。ほら、部屋まで送ってやるから」


要の脇のしたに手を入れ、猫を抱き上げるように体を起こしてやる。ふらつきながらだが、要は立ち上がるがぎゅ、と俺の寝巻を握ったまま動こうとしない。


「要?」


「やーです……」


上目に俺を見上げ、拗ねたような表情をする要に持ってかれそうになった心臓を寸でのところで立て直す。


俺は三郎じゃない俺は三郎じゃない俺は……!


「いいじゃん。せっかく要もいい感じに出来上がってるんだし、一緒にやろー!」


さっきはちょっとびっくりしたけど。と言いながら、勘右衛門が要に後ろから抱きついた。


「いや、でも、さぁ」


口ごもる俺なんてお構い無しに、後ろから抱きしめられて要はくすぐったそうにきゃっきゃっと笑っている。


「あぁああぁぁあずるいぞ勘右衛門!!!!俺も!!!!」


「あっ、は、くるしーですよー鉢屋せんぱい」


三郎には前から抱きしめられて、俺は「あーあー」と思いながら額を押さえその光景を眺めていた。


「平助もなにか言って……」


「要、豆腐ゲームしよう」


「……」


平助は手に豆腐を持って目のうつろな要に近づいていく。要は首をかしげて、平助を見つめた。


「げーむ、ですか?」


「そう。端から豆腐を食べてくんだ。多く食べた方が勝ち」


「平助くんいいそれ!!!!えろい!!!!!」


「よくねぇ!!」


楽しそうですねぇとけらけら笑う要を子猫のように抱き上げ、俺はぜぇぜぇと肩で息をする。


「お前らいい加減にしろ!要は部屋に返してくるからな!」


「ええー!」


「お前らは酒でも飲んでろ!」


片手で酒の入った容器をさらって、ぶーをたれる馬鹿どもに浴びせかける。ぎゃああっはちてめえええとうるさいやつらを放っておいて早々に部屋を出る。


「はぁ……」


ようやく息をつき、要を抱え直す。見ればいつの間にか要は俺の胸板に頭をすりよせ、すやすやと眠ってしまっていた。


「あれ、要寝てんなぁ。よくあんな馬鹿騒ぎのなか…」


まるで赤子のような寝顔に思わず頬が緩む。いかんいかんと叱咤して月明かりの漏れる廊下を孫兵の部屋を目指して歩き出した。


「んん……」


「っとやばい。起こさないように…」


「竹谷先輩?」


「ん?」


身じろぎする要を落とさないように慌てて体制を直すと、廊下から孫兵がぱたぱたとこちらに駆け寄ってきた。


「おお孫兵」


「こんばんは。あれ、要……」


「あぁ、そう。今お前たちの部屋に運ぼうとしてたとこなんだ」


「はぁ。どうもすみません。あとは僕が運びますよ」


「そうか。悪いな」


背を向けた孫兵に要を預ける。よいしょと要を背負うと、孫兵は訝し気にこちらを振り向いた。


「あの」


「ん?」


「要、酒くさくないですか?」


「え」


「なんか赤い顔してるし…そもそもなんで寝ている要を竹谷先輩が……?」


「あ、いや、これはだな孫兵」


「……」


「やめろ!その疑いの眼差しをやめろ!!」


「いえ……要に何事もないようなので今回は目をつぶります」


「待て!今回も次回もなにもないから!」


「それではおやすみなさい」


「孫兵ええぇええぇえ」


すたすたとこちらを振り向きもせず歩く後輩の背中に、全くの慈悲も情けも見えなかった。おぼろげな月明かりが照らす廊下で、俺は脆く儚い、後輩からの信頼を失ったのだった。



×月夜に酔う×
(んー……?あれ、まごへ…)(起きたか歩く無防備)(え?なに?うっ!?うぇ、なにこれ、頭いたい……)(寝ろ。もうすぐ部屋に着く)(僕なにしてたんだっけ…?)




*****

なんてひどいオチだ。


さてさて久しく更新いたしました。くのいちさん、大変お待たせいたしました……!細々と書いてまいりまして、ようやく書き上げました。10万企画ご参加本当にありがとうございました!


ヤマネコ




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