事実は小説より云々

主と藤内が女体化しています。ご注意を。


「…」


はじめまして。
いや久し振り?まぁいいや、こんにちは。伊賀崎孫兵です。好きなタイプはジュンコです。よろしくお願いします。


「んー…」


またこいつは知らない間に僕の布団に潜り込んできたらしい。皆さん知らないだろうが、この一ノ瀬要。実はめちゃくちゃ寝相が悪い。


寝相が悪いっていうか。とにかく酷いと僕の布団に入り込んで、我が物顔で寝ている。


「要、要、」


もういい加減慣れてしまっている僕は、どうせ起きなくてはいけない時間だし、とすやすや眠る要の肩を揺らした。


「?」


ん?なんだろう、要に違和感がある。肩を揺らしながら僕は首をひねる。


いつもの肩まである癖っ毛の髪。中性的な顔もいつもと変わらない。なのに酷い違和感がある。


「んー?あー、僕また…ごめんね孫兵」


目が覚めたらしい。要が目をこすりながら、布団のなかで体を伸ばす。僕は眉をひそめながら要に問う。


「お前なんか声おかしくないか?」


「え?嘘?」


「風邪…じゃないよな…?」


「あーあー…あれ…?ほんとだ」


んーんー?と喉を叩く要。僕はその喉に違和感を感じて、要の腕を掴んだ。


「確認だから。許せ」


「えっ!?ち、ちょっと!?」


僕の理解の範疇を越えたものが、そこにあった。



事実は小説より云々。
(匿名さまへ!)



「要…要ー」


孫兵の僕を呼ぶ声を、布団を深くかぶって遮る。完璧に混乱した頭で、僕は必死に考えた。


なんでこうなったなんでこうなった!!僕なにかした!?またまずいもの食べちゃったりした!?


「要、ひとまず出てこい。謝るから」


「謝る…?」


そっと布団から顔を出すと、孫兵は本当に申し訳なさそうな顔をつくって、僕に詫びた。


「"女の子"だったのにいきなり服脱がせたりしてごめんな」


「うわあぁあああぁ」


孫兵の言葉で今起きているのが全て現実だということを痛感する。僕は布団を孫兵にぶつけて「もっとこう友達をいたわるような言葉は掛けられないのか!」と叫んだ。


「いやだって…なぁ。どうりで先輩方も後輩たちもお前にちょっかいだすわけだ」


「違う違う違う断じて違う!孫兵僕と風呂入ったことあるでしょうが!」


「…」


「頬を染めるなぁあ!」


僕がへたり、と布団に座り込むと、さすがに哀れだと思ったのか孫兵はゆるゆる頭を撫でてくれた。


「大丈夫大丈夫。たぶん数馬がなんとか…」


「要ー!!!!」


スパァッンッ!と渾身の力で開かれた障子に、僕と孫兵がギョッとした顔でそちらを振り返ると


「昨日、伊作先輩のとこでなに飲んだの!!!」


と、もう必死の形相の数馬がそこにいらっしゃった。僕が気圧されて口をぱくぱくしていると、孫兵が怪訝そうな顔を数馬に向ける。


「なにかあったのか?」


「と、藤内が…」


いやもう、誰か冗談だと言ってくれよ。


※※※



「藤内ー藤内ー…出ておいでよ、怖くないからさ」


は組コンビの事の発端は、藤内の悲鳴からだったという。数馬はいつものように藤内を起こし、身支度を整えていたのだが、寝ぼけ眼で服を着替えていた藤内から人間とは思えない悲鳴が上がったそうだ。


「そしたらいきなり押し入れに閉じこもっちゃうから…なんとか事情を聞き出したら、とんでもないこと言うんだもん…」


とんでもないこと。
つまり僕と同じ、"女の子になってしまった"ってこと。


四苦八苦して2人でなぜそんなことになってしまったのか経緯をたどり、藤内が「もしかしたら…要と伊作先輩のところで飲んだ…」と僕も一緒だったことを知り、慌てて来てくれたらしい。


「一体、伊作先輩のところでなにを飲んだんだ」


眉をひそめる孫兵に、僕は腕を組んであのときのことを思い出す。藤内と医務室を通りかかったら、伊作先輩がひっくり返った薬箪笥の下敷きになっていたんだ。


「い、伊作先輩!?」


「大丈夫ですか!?」


僕と藤内が慌てて薬箪笥を立て直して、伊作先輩を起こす。いてて…と呟きながら、伊作先輩は照れたように笑って頭を掻いた。


「いやぁ、ごめんね…助かったよ」


「お怪我ありませんか?」


「うん、ありがとう要。ちょっと夜遅くまで新しい薬を調合してて…ふらふらしててね」


「怪我が無いのは良いんですが…」


藤内が苦笑しながら医務室にちらばった薬草やらなにやらを見る。あちゃあ、という顔をする伊作先輩に、僕はにこっと微笑んだ。


「僕も手伝いますよ、片付けましょう」


「出たよ、お節介」


「藤内くん?」


「わかってるわかってる。僕も手伝うに決まってるだろ」


「すまないね2人とも」


申し訳なさそうに眉を下げる伊作先輩に、僕と藤内は首を振って「いいえ!」と微笑んだ。


3人で手分けして薬草やらをわけて引き出しに戻せば、片付けはすぐに済んだ。伊作先輩は「ありがとう」と笑ってくれて、失礼しますと医務室を後にしようとすると、


「あ、そうだ!」


と伊作先輩が僕らを引き止めた。


「新野先生からいただいた、美味しいお茶があるんだ。良かったら飲んでいかないかい?」


「いただいていいんですか?」


首をかしげる藤内に、伊作先輩は頷いて微笑んだ。


「もちろん!お礼だよ」


「じゃあいただいていこう要」


「うん。いただきます、伊作先輩!」


「はい、じゃあ待っててね」


ぱたぱたと伊作先輩が棚の引き出しから、竹筒を2つ取り出した。


「あれ?どっちだったかな」


2つを交互に見比べて、やがて片方の竹筒を引き出しに戻す。伊作先輩は急須にお湯を入れると、湯のみを2つ僕たちの前に出してくれた。


「あれ?伊作先輩は飲まないんですか?」


「僕はもういただいたから。あとはお客さまの分だよ」


はい、どーぞ。と茶目っ気のある笑顔を浮かべながら、伊作先輩は湯のみにお茶を入れてくれた。


いただきまーすと声をそろえ、こくりとお茶を口に含む。


「…?」


鼻につん、と違和感。でもそれを打ち消すように、さわやかな後味が喉を通り抜けた。


「ごちそうさまでした」


藤内は感じなかったのかな、と思いながら、僕もごちそうさまでしたと湯のみを置く。


「こちらこそ、片付け手伝ってくれてありがとう。午後の授業が始まるよ、いってらっしゃい」


はーいとお返事して、僕らは医務室を後にした。







「変なとこ…ないよね?」


「いや明らかにそのお茶だろう、原因」


孫兵に鋭く指摘され、ぐぅと言葉に詰まる。数馬はうーんうーんと腕を組みながら、なにやら考えていた。


「引き出しのなかの竹筒…竹筒…竹筒…?」


「まぁ、とりあえず出ておいでよ藤内ー」


「なんでお前はそんなに冷静なんだよっ!要っ!」


「いやー僕1人だけじゃないってわかって、なんか安心したというか」


「ポジティブにも程がある!!」


「じゃあちょっとだけ開けてよ、藤内。僕もおんなじなんだし、ちょっとだけ話そ?」


「…」


そっ、と少しだけ襖の戸が開く。僕はそこにするりと体を滑り込ませた。


「…なんか」


「?どうしたの?孫兵」


「あぁ、いや…」


そんな会話が外から聞こえたが、僕は手探りで「藤内ー?藤内ー?」と藤内の居場所を探す。


「要…」


ひた、と手探りする僕の腕を、藤内が掴んだ。


「ああ、良かった。いたいた」


「むかつくくらい冷静だな、お前」


「わぁ、藤内。声かわいいね」


「言うなよぉおぉお!!」


「ごめんごめん。とりあえずさ藤内、ここから出よう?伊作先輩のところに行けば、きっとなんとかしてくれるよ」


「そ、その間に誰かにバレたりしたら、どーするんだ!?こんなのっ…僕はぜーったい嫌だからな!」


「大丈夫!タタッと医務室まで走っちゃえば怖くないって!ねっ」


「うう…」


暗闇のなかで、藤内が頭を抱えたのがなんとなくわかった。やがてここに閉じこもっていても解決しないと思ったらしい、小さく「わかった…」とつぶやく。


「ね!僕も一緒だし、ね!」


「ああ。………要」


「ん?」


「お前、声かわいいな」


「…………嬉しくないんだけれど」


「お互い様だろ!」


ふん、と鼻をならすと、藤内は決意したようにスパァンッと襖の戸を開けた。






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